2018/06/28

辛い飴 永見緋太郎の事件簿

辛い飴 永見緋太郎の事件簿 (創元推理文庫)
東京創元社 (2015-11-21)
売り上げランキング: 98,437
kindle版
■田中啓文
本書は東京創元社(創元クライム・クラブ)から2008年8月に単行本刊、2010年11月創元推理文庫刊(「さっちゃんのアルト」は文庫おまけ)の電子書籍版である。
単行本あとがき文庫版あとがきに加え、解説(山田正紀)もきちんと電子書籍にも収録されている。有難い。
短篇全8篇収録。

プロのジャズ・ミュージシャン唐島英治(トランぺッター)が語り手、テナーサックス奏者・永見緋太郎をホームズ役とするミステリ、シリーズ第2弾。
基本的には殺人を扱わない日常の謎系のシリーズで、がっつりジャズ演奏シーンの描写が盛り込まれていることが特徴的だ。おまけに、各篇ごとに著者のその短篇に絡めたジャズの名盤紹介もある(正直これは興味がないのですっとばしているが)。
ジャズに興味は無いが、それでもこのひとの描くジャズ演奏シーンはなかなかの迫力で、聴いたら凄いんだろうな、楽しそうで興奮しそうだなとは思う。

以下【目次】とネタバレしない程度に軽いコメント。
「苦い水」
ビッグバンドの話。このビッグバンド読んでるだけで楽しそう~。話そのものは古典的人情話で「ええ話やなあ」。まあ、「どっかで読んだことのある話」という感じは否めないが…。

「酸っぱい酒」
名古屋のその店には伝説のブルースシンガーがかつてふらりと現れ、ものすごいブルースを聴かせたという…。
全体的に悪くないのだが、最後の「背が高い」の解明のくだりだけは「んなアホなー!!!」どう考えても無理がある。

「甘い土」
九州の土着文化が残る閉鎖的な村に伝わる素晴らしい民俗音楽。
テレビの人間が必要以上に露悪的に(しかもステレオタイプ)描かれているのが何だか「古いなー」としか思えなかった。今どきはみんなもっとコンプラ的に敏感でしょ(たとえお腹の中は変わっていなくても)。
民族音楽の歌詞が筒井康隆っぽいなと思っていたらまさにそこへむけて描かれた話だった(あとがきにも書いてあった)。

「辛い飴」
若き日の唐島が痺れてコピーしたりしまくった憧れのアメリカのバンドの来日にまつわる話。
そんなことが可能なのか、と思うが、才能のあるひとたちで練習量もあって、しかも必死に熱心に、だったらあるのか、凄いなあ、と感心というか感動というか。
とりあえず、音聴いただけでその謎が見通せていた永見緋太郎は有り得ない天才だ。

「塩っぱい球」
これはなんて読むの、「しょっぱい」?
永見は野球をほぼ知らなかったみたいで、こういうところホームズっぽい。
応援団のあるひとがこれもステレオタイプに嫌な野郎であった。
それにしても阪神タイガースの金本監督だよねこれ、モデルは。「兄貴」をそのまま使えないからって「兄者」って……かなり苦しかったんだろうなあ、笑える。
よくあるネタを下敷きにした話だが、球場に響き渡るトランペットソロのアメイジング・グレイスを想像出来て、そこが美しかった。

「渋い夢」
密室消失モノ。なんと分解不可能な超高級グランド・ピアノが消えた!?
趣味が高じて酔狂にも唐島たちのジャズ・グループを高額報酬で呼んでくれた地方の社長さん。このひともステレオタイプに多趣味で、生半可ツウなキャラかなと最初は思ったが、登場人物たちと同様、だんだんと良い面も見えてきて、なかなか奥行があって良かった。
作中に出てくる俳句は田中さん作だろうけど、俳句も詠まれるのね。
演奏シーンがすごく良くて、読後、あとがきでこの短篇が第62回日本推理作家協会賞を受賞したとわかり、その理由がジャズシーンの描写にあるとわかって何だか納得。でも全体としてとても美しく纏まっていたと思う。

「淡白な毒」
録音されたはずのない声が微かに聞こえる楽曲、というのはホラーのうわさでたまにあるが、それを扱った話。
今回は個性的なジャズ・シンガーが登場する。
なかなかアクの強いプロデューサーが出てきて、若き日の唐島さんのエピソードが面白かった。

「さっちゃんのアルト」
ヤクザ登場。
それからどうなるの!?と期待が高まったところで終わってしまった感はちょっとある。この話は永見が出て来ない。

あとがきを読むまで意識していなかったけど、前作『落下する緑』は各短編のテーマが「色」で今回は「味」なんだそうだ。だから不自然な日本語になってたのかー。