2018/05/20

肉まんを新大阪で

肉まんを新大阪で (文春文庫)
下田 昌克 平松 洋子
文藝春秋 (2018-05-10)
売り上げランキング: 4,766
■平松洋子 画・下田昌克
平松さんに『忙しい日でも、おなかは空く。』という題名の著書がある。
「本をあんまり読む気にならないときでも、平松さんは読む。」ということで、しかしそれでも文庫オリジナルの本書、発売日は発売前からちゃんとチェックしていたのに買いに行くのは少し遅くなってしまった。
まあ長い人生、そういう時期があってもいいかな、と思っている。

初出は「週刊文春」2015年1月1日・8日号~2016年11月17日号。
お馴染みの「文春」と平松さんの組み合わせだが、絵描きさんが変わってしまった。前巻は画・安西水丸だったんだものね――しんみり。
2018年5月10日刊。

最初にパッとネットの発売予告の表紙画像を見たときは「あらっ、随分テイストが似た絵描きさんを探してきたものね」と思った。中身の挿し絵を確認したら、当然だが、似てるとはあんまり感じなかった、全く別の個性、安西さんよりもだいぶん可愛らしさがあるかな?

文春のこのシリーズは1編1編が短い。あっさりしている。場合によっては「で、それで、味はどうやってん!」と乗り出しかけた身のイキオイでつんのめりそうになることも一度や二度ではなかった。書いていないってことは、まあ、「書くまでもない」ということかなと。そこにあえて触れていない平松氏の気持ちを"忖度せよ"ってことかなと。
1つ読んで置いておこうかなと思っても短いので次もついついすいすい読んでしまう。所々で「流して読んじゃモッタイナイ」と強制的に文庫についてきた栞とチラシを挟んで小休止とする。そういうふうにしても、この土日休みで読み終えてしまえる手軽さではある。

東京を中心としたいろんな土地の名店の美味しいもの、これは読んですぐ「いざ!」というわけにはいかないけれど、日常、そこらへんにあるスーパーで買えるもので「こういう美味しい食べ方があるよ」という内容のものもあり、頷きながら読んでいる。たまに、首を傾げることもある。
いままでの平松さんの著作で既に何回かお目にかかったネタもいくつかあり、まあこれはこういうジャンルのエッセイで、これだけの量を書かれてた「かぶる」のもやむなしというか、マイナスに解釈してはイケナイ。
どぜう鍋も肉まんもウニもサンマも豚丼も既に読んだネタだ。もっとある。でも当然というか、アプローチとか、書き方とか、いろいろ変わっているからその「変化」「同じところ」を味わうのも平松愛読者の醍醐味、というヤツなのだ。
大事なことなのでもう一回書いておこう。
ファンの醍醐味、なのだ。
(ファン以外のひとがどう感じるかまでは責任が持てない)。

さてその中の一つ。
ヨーグルトを一晩濾して、水気(ホエイ・乳清)を取り除いて、クリームとして食べるというやつ。
これ、平松さんの本でもう何回もお目にかかった。でも、貧乏症のわたしはどうしてもやる気が出ない。
だって平松さんったらホエイを棄てちゃうっていうんだもの。調べたら、ホエイそのものに栄養がたっぷりあるらしいのに。もったいなくなーい? ヨーグルトそのままで美味しいから充分じゃなーい?
って思っちゃって。
まあ、ホエイ抜きのヨーグルトのクリームがまた格別美味しい、らしいので一度その味を知ってしまったらやらずにはおれないんでしょうが……だから逆にウカツにはヤれない、っていうところなんデスが……。

いそいで断っておかなくてはいけないが、もちろん新ネタもいっぱい。っていうか新ネタのほうが多い。
「おっ」と瞠目したのが「おからでシャンパン」!
内田百閒先生である。
たしかにこれは、知っていてもなかなか実際には実現しない献立かもしれない。「やろう」と用意すれば別だけど、偶然揃うのは難しいだろう。平松さんはなんとある日偶然にもそういうシチュエーションになったというから面白い。しかもその組み合わせが絶妙、素晴らしかったって、へええええ。あれは、百閒先生の、清貧というか、そういう生活からきた「智恵」みたいなお献立だと思っていたけれど、こんな組み合わせを持ってくるなんて【北大路魯山人よりむずかしい】なんて云われちゃったら、そ、そうだったのかー、そうだよね、百閒先生だものなあ、と妙に納得しちゃったりして。おみそれしました。

それにしても本書には百閒先生、井伏鱒二、そして太宰治ネタが複数出てきてびっくりした。特に「わかおい春の乱」の昆布で巻いたおむすびのくだりは……知らんかったーっっっ! うわー。
いろんな感情が、ぐわあああっ、と押し寄せてきました。どんな気持ちで太宰はそれを食べてたんだろう、とか、いろいろ考えちゃって。凄いね。

「黒にんにく」は美味しそうだけどその状況じゃとても作るのは無理だ。なすを干すのはすぐ真似できそう。皮そのままじゃダメなんスかね?
これからきゅうりとトマトの季節がやってくる。トマト寒天はいいねー是非作ろう!

笑ったのは「あたしもうんざり」のオチ! 彼らには安西先生(『SLAM DUNK』@井上雄彦)の名言「まるで成長していない……」がぴったりデスね!

伊藤比呂美さんの解説(なんと舞台はベルリン! かっちょいー!)もすごく面白かった~!

【目次】
Ⅰちくわ名作シリーズ
ちくわ名作シリーズ/ピカソパンの中身/カウンターパンチ/山椒がりがり/菜箸を削る/筋肉のめし/タカダワタル的/「味園ユニバース」丼/炒飯の音/黒にんにくにあこがれて/牡蠣ルーレット/ブルドックの威力/オレのいり番茶/選挙の秘策/戦後七十年目のなす/断食帰り
Ⅱ肉まんを新大阪で
うに丼を津軽半島で/つったい肉そば/豚肉を帯広で/ホルモン、ベスト3/ライチの季節に/あぶらげを栃尾で/夢の地元パン/コッペパンを盛岡で/栗きんとんのオマケ/大仏さまの奈良漬/肉まんを新大阪で/シカに遭えたら/名古屋めしの正体/冬の湖北へ/酒と神さまと/ミラノでくらくら/白玉NZ旅情/わさび山盛り/春は箱根山/渋谷でふるさと麺/牛たん、四谷三丁目/新橋の女
Ⅲきゅうり、どんどん
五月のどぜう鍋/酸っぱい蕾/きゅうり、どんどん/バラカンさんの朝食/何もしていない/さんま恋情/今年の栗ごはん/特効薬は白湯/今夜も肉だんご/どっさり大根おろし/冬のアイスクリーム/まだ飽きません/三波春夫と白菜/おくらでシャンパン/家で焼きいも/わかおい春の乱/あさり飯の仕掛け/かるしお寒天/冷し中華、スタート/真夏のエナジーチャージ
Ⅳナミナミツガシテ
サザエのしっぽ/とっさの箸置き/備えあれば/よもぎ、タンポポ/がまだす熊本/レモンスカッシュの夏/羊をめぐる偶然/堂場瞬一賛江/もっと飛ばそうぜ/夢の空き缶/あたしもうんざり/フライパン再出発/ナミナミツガシテ/私の鬼門/「全部炒め」に異議なし/さよならの季節/『散歩の達人』祭り/街でお別れ

解説:伊藤比呂美