2017/10/24

ときどき旅に出るカフェ

ときどき旅に出るカフェ
双葉社 (2017-07-28)
売り上げランキング: 289
kindle版
■近藤史恵
2017年4月19日単行本刊、の電子書籍版。
10月20日のkindle日替わりセールで購入。すんごい可愛い装丁だなあ。
初出は「小説推理」2016年2月号~2016年11月号で、本書はそれに加筆修正したもの。

日常のミステリー系、全部同じ主人公の視点から描かれた、カフェ・ルーズという小さなカフェを舞台にした連作短篇集。
ワトソン役(というキャラじゃないけど)が語り手・奈良瑛子。ホームズ役はカフェの若きオーナー店長・葛井円。

「ときどき旅に出るカフェ」というタイトルから漠然と、旅好きで好奇心旺盛な若い女性(カフェ好きなんだから今風のゆるふわ系?)が外国の庶民的なカフェでお茶を飲んでいる、というイメージを浮かべた。
そういうカフェめぐりのお話かな?
と思ったらそうではなかった。
このカフェがある場所は日本の……東京のどこか少し郊外なのかなあ。
駅から少し離れていて、階段を数段上ってはいるお店で、他にバイトの店員さんなどもおらず、こじんまり、静かで落ち着いた感じ。
お店のメニューのコンセプトは「いろんな国の食べ物を食べることで気持ちの上で旅に出てもらえたら」ということ。

実際最後まで読んでみると「旅好きで好奇心旺盛な若い女性」はまあまああたっていたが葛井さんはそれよりも随分「しっかりした」「腰の据わっている」タイプの、かつ可愛らしさと愛嬌も兼ね備えた女性で、最初から好印象だったが何か起こった時の対応の仕方などが見えてくるとますます良いなと思った。

語り手の瑛子さんもグラついたところが無くて、ひとへの接し方というか距離の取り方が絶妙で、素晴らしい。いろいろ勉強になるなあ、と思った箇所がいくつもあった。
瑛子さんは会社に勤める独身女性で、37歳、一人暮らし。
ある程度年齢を重ねた独身女性が会社や家族からどういうふうなことを言われてどういうふうな面でしんどいか、実感したことがあるひとは彼女に共感するところが少なからずあると思う。

1篇1篇で話に落ちはつくが、コージー・ミステリのような舞台立てにしては結構重たい暗いテーマが多くて、一つ読み終えると「どーん」という暗い重石が肩に乗っかるような気がしないでもなかったが、文句なしに面白いので次も次もと読みたくなる。わたしはその「重き余韻」を味わうためにあえて1篇読むごとに少し時間を空けた。
ああいう場合はどうするのが良いのかな。
彼女の立場だったら…。
などといろいろ考えてしまうのは描かれているのがみんな、身近な同世代の女性だからだろうか。

通勤時間と昼休みと眠る前の空いた時間に少しずつ読んで1日半ほどで読了。
最後の2篇は繋がっているし葛井さんの話なのでいままで少しずつしか見えていなかった彼女と店の秘密的な感じもある。重石もいままでよりも大きくて重たいのが「ずどどどーん!」という感じなので、「あと2篇だから読み切っちゃえー」というふうにやっつけで流して読まないほうがいいかもしれない。
こういう暗さというかビターなスパイスを利かせてくるところ、さすが近藤史恵! という感じ。巧いなあ、面白いなあ~…。
あと最後にちょっとした(?)種明かし、みたいなのもある(最近はこの手の話多いから今更驚かなかったけれど、ああそういうことー、みたいな)。

苺のスープ、ツップフクーヘン(ロシア風チーズケーキ)、アルムドゥドラー(オーストリアのハーブレモネード)…。
出てくるお菓子や料理・飲物がいかにも美味しそうなので、「こんなカフェが近くに欲しい! あったら絶対通う!」と思う。カフェは無理でもこういう変わったお菓子を売ってくれるケーキ屋さん、あったら素敵だなあ…。

これ一冊できれいにまとまっている気もするが、すっかりファンになってしまったのでシリーズ化することを願う。
(あの大きくてしつこくて重たい石がこれですっかり取れたような気もしないからまた出てくるのかと思うと気が重いケド)。
いっけん素直で可愛い葛井さんが実はもっといろいろな面ありそうで、味があるキャラだ。
もっと彼女のことを知りたい。

目次
第一話 苺のスープ
第二話 ロシア風チーズケーキ
第三話 月はどこに消えた?
第四話 幾層にもなった心
第五話 おがくずのスイーツ
第六話 鴛鴦茶のように
第七話 ホイップクリームの決意
第八話 食いしん坊のコーヒー
第九話 思い出のバクラヴァ
最終話