2017/09/18

イスラームから考える

イスラームから考える
イスラームから考える
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師岡カリーマ エルサムニー
白水社
売り上げランキング: 158,384
■師岡カリーマ・エルサムニー
先日読んだ梨木香歩との共著『私たちの星でで本書と師岡さんのことを知り、イスラムの人々のことをもっと知りたいと思っていたので「これは良いものを教えてもらった」とさっそく注文。
すごく綺麗で素敵な装丁の御本です! 流石白水社さん~センス良い~ カバーを外しても素敵なデザインなんですよ!
装丁は三木俊一文京図案室)さん。

表記が「イスラーム」で、わたしは「あれ、"イスラム"じゃないの?」ってそんなレベルからなんですが。
気になってググったら、ウィキペディアでは「イスラーム」になってる。「教」をつけないとか、そのへんの言及もあってなかなか面白い。

師岡さんのウィキも同様にリンク貼っておきます

さて本題。

本書は2008年4月に発行された単行本で、つまり既に約10年前になってしまうんだけれども、一読した感想としては、いま読んでも全然大丈夫、ここで書かれていることと現在は続いているし、師岡さんがすごくわかりやすく親しみやすい調子で書いてくださっていて、「ベース(基本)」が書かれているので、理解したい、という気持ちで読むにはとても良い本だと。
「あとがき」に【この本が生まれることになったきっかけは、預言者ムハンマドの風刺漫画騒動でした。】とあるが、かなり大きなニュースになった(2005年)だけあってまだ記憶に鮮明ですし。
もちろん9.11(アメリカ同時多発テロ/2001年)も踏まえて……わりと抑え目でしたが。

というかですね……。
結論を先に書いてしまうことになるのだけれども、昨今起こってる事件などを「イスラームを知ったら理解できるのでは」という読書動機なわけですが、読んでいくうちにその大前提が覆されるのが面白いのです。

本書を読んでいくとムスリムの方が書いた本だけあって、イスラームのこととかムスリムのこととかエジプトのこととかが日常一般人レベルでナチュラルに書いてあって、それでそのうえで、「でもこれってイスラームだから、とかいうレベルの話なの?」という疑問が提示されていて、あれっ? と考えさせられることしばし、なんですな。
「ニュースとか本に書いてあったのと違う…」
「えーテレビで言ってたのと違う…」
ということがちらほら。

例えばパレスチナ問題。
あれってもう、ばりっばりの宗教問題だと思ってませんか? わたしはそう習った(と思う)し、そう捉えていました。
でも師岡さんに言わせたら、その周囲の人々の認識として、そういうレベルの話じゃないらしい。
報道されている内容・報道でつかわれる言い回し・言葉に違和感を覚えるのだと…。

ものすごーく難しい微妙な問題を、師岡さんが1冊使って言葉をつくして、吟味して推敲して書かれたものを生半可なわたしが短くまとめて誤謬なしにお伝えするのは不可能だ。
だからもう、「興味がある方は是非お読みになって、とっても面白いから」と本を差し出すような気持ちなのだが、あえて少し引用させていただく。

イスラーム世界で起こることをすべてイスラームやイスラーム文化で説明しようとする誘惑は理解できる。その方がどんなに簡単か知れない。しかしそれと同じことをイスラーム側がすれば、西洋にとっても面白くないことになるはずだ。】(P29)

→ヲタクが事件を起こして、「漫画やアニメ・ゲームが原因だ」って云われて「違うだろ…」っていうのと似てるなあ。

宗教を抜きにしても、表現の自由には限界がある。その境界線を引くのは、私たち人間の品位だ。人の品位に文化の違いはない。】(P31)

→宗教とか以前に、もう言い訳の出来ない故人を貶めるというのはどうなの?品位のある人間のやることなの? っていうことですね。

アラブの最大の悲劇は、パレスチナという敗北ではなく、勝利にない尊厳が敗北にはあることを忘れ、自らの敗北と向き合う時間を持たぬまま、ただ屈辱感から逃れるために、もう何百年も返り咲いていない覇者という地位への勇ましい復活を夢見ていることなのかもしれない。】(P54)

→このへんは本当に本書、特に「いつアラブの死亡を宣告するのか」の章を読んでいただきたい。すごく興味深い。

ムスリム共同体の建設と維持において、ムハンマドが女性を対等のパートナーとして見なしていたということ】(P102)
「女は男と対等であり、義務と同じだけの権利を持つ」
こう言ったムハンマドの言葉は、それまで圧倒的に男性優位だった部族社会において、ショッキングなほどに急進的だっただろう。それをイスラーム社会の男たちの多くは、結局何百年経っても消化できなかったばかりか、男性優位の「習慣」を「宗教」と混同して、「これが神の意志だ」と言って無知を強いられた女性たちを従わせてきた。】(P103)

→イスラム社会では女性は抑圧されているもの、それは宗教上の戒律が、とか思っていたらそうではなくて、その国々の「男社会」が作り上げた「習慣」だった。日本だって昔はもっと女性は地位が低くて選挙権なかったり、就職も今よりもっと平等じゃなかった、それとまあ同じというか、どこも一緒か! 宗教関係無かった! というか無理やり「言い訳」に使われてたってことか。

一三億人とも一四億人とも言われるイスラーム教徒のなかで、特に私が珍しいタイプだとは思わないが、一般的に人が抱いている典型的なイスラーム教徒のイメージとはどうやら違う。ベールも被らず、西洋音楽の声楽を勉強する私は、イスラーム社会に帰ればはみ出し者なのだろうと考える人もいる。しかし実際にはまったくそうではない。「えー、カリーマってイスラム教徒(しかも禁酒などの戒律を守る類、いわゆる実践型ムスリム)なんだ!」と驚く日本人や西洋人はいるが、そう言って驚くイスラーム教徒はいない。】(P178)

→わたしが梨木さんと師岡さんの共著を読んで、「なんかこのひとムスリムのイメージと違う、どういうひとなんだろう」と関心を持つにいたったきっかけというべきこのひとの存在そのものが、それに「驚く」ことがすなわち「イスラーム教徒」についての誤った認識だった!

「あとがき」にこうある。
イスラームが絡む事件はどうしてもイスラーム問題として捉えられがちですが、それらは多くの場合、実はイスラーム云々以前の問題です。
イスラームをめぐるいくつかの時事問題を、イスラーム問題としてではなく、言葉は大げさですがもっと広く単に人間の問題として捉え直してみようというのがこの本のテーマです。

そうだ、「日本人だからこうでしょ」って、いやいや、日本人にもいろいろいるから! ってことですよね。
エジプト人のお父様、日本人のお母様を持ち、エジプトで小学生から大学卒業まで暮らし、イギリス留学を経て日本に移住、日本語とアラビア語の両方がネイティブな師岡さんだからこそ書けた素晴らしい本だと思う。
初対面の人と喋るのにまず「何国人か」「宗教は」を確認しないとそこから先へ進めない、という有り様は、まあ昨今の世界情勢的にさもありなんって感じですが、日本人が芯から共感するのは難しいのだろう。「父がエジプト人」と言ったとたんに一歩引かれるとか……つらいなあ……。

目次
悪の枢軸を笑い飛ばせ
表現の自由という原理主義
「いつアラブの死亡を宣告するのか」
「ベールがなんだっていうの?」
懲りずにフランクフルト
原理を無視する「原理主義」
青年よ、恋をせよ!
翻訳を読むことのむずかしさ
愛国心を育成するということ
私の九・一一
対談 私たちが前提にしている現実とはなにか
(酒井啓子*師岡カリーマ・エルサムニー)
あとがき

私たちの星で
私たちの星で
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梨木 香歩 師岡カリーマ・エルサムニー
岩波書店
売り上げランキング: 2,323