2017/07/08

フィンランド語は猫の言葉

フィンランド語は猫の言葉 (講談社文庫)
講談社 (2015-01-09)
売り上げランキング: 40,788
kindle版
■稲垣美晴
フィンランド語についてはなーんにも知らないしフィンランドについても同様だ。でもなんとなく良いイメージを持っている。
ムーミン(トーベ・ヤンソン)アニメを子どもの頃観て、いい年になってからも講談社文庫で読んだりして、スナフキンやちびのミイを可愛いと思う。映画『かもめ食堂』は素晴らしかった。この本のタイトルはあの映画に出て来たっけ? どこで聞いたんだろう?

本書は、1981年11月に文化出版局から単行本として刊行され、1995年2月に講談社文庫に収録された、その電子書籍版である。

稲垣晴美さんはウィキペディアによれば1952年生まれ。
初めて渡忿(フィンランド)したのは「1976年の夏」とあるから単純に引き算すると24歳くらいのとき。大学夏休みに2ヶ月ヘルシンキに滞在して【夏期大学でフィンランド語の手ほどきを受けた後、フィンランド中をまわった】。言葉に関する本を書かれるくらいだから外国語大学だろうかと思ったら東京芸大なのだった。その後4年生になるとすぐ【私は卒論を書くためまたもや渡忿。】【アクセリ・ガッレンカッレラについて書くことにした。】フィンランド政府から論文に対し奨学金をもらったとのこと。このときは8か月くらい滞在したようだ。(ウィキペディアではアクセリ・ガッレン=カッレラという表記)
そしてその後ヘルシンキ大学のフィンランド語と文化という科に入学。最初は1年予定だったが、もっと勉強したいともう1年延長。
渡忿歴4回。全部合わせるとフィンランドに住んでいたのは三年弱。】ということになるらしい。

つまりこの本に書いてあるのは1970年代後半のフィンランドということで、携帯も、パソコンもメールもまだない時代だ。それどころか終盤に日本に帰国後の文章の中に【着物を着て学校へ通う時代は終わり、今やファッションの時代。この頃では、着つけ学校に行かなくては着物を着られないほど、洋服全盛だ。】と書いてあったので思わずのけぞった。えー? いやいや、1952年(昭和27年)生まれって丁度わたしの母親の世代なんだけど、その著者が書くにしては、もう一世代前の話のように思うんだけど……。

途中まで読んでだいたいわかったのだけれども、この著者も昔の日本人あるあるで、不出来を主張してしきりと謙遜されているが、実際にテストなどを受けた結果はかなり優秀だったみたいだ。真面目なんである。そもそも、語学に興味があって、英語、フランス語、いろいろ勉強されてそれでもまだ勉強意欲が飽きたらず、フィンランド語を学ぶために遠い北の国の大学に入られたくらいなのだから当然なのかもしれないが。
だいたいは彼の国での日常面白エピソードがユーモラスに綴られているのだが、たまに語学の説明が始まるときがあり、それを読んでいるだけで「難しそーっ」「ややこしーいっ」と思った。フィンランド語を用いて現地の大学の先生に楽しみにされるほど愉快な作文をものする著者は文章の才能がおありのうえに努力家で優秀な学生さんだったに違いない。

フィンランドの大学はみんな国立で、学費はほとんどかからなかったという。また、月に一度試験があり、自分が納得できる成績が取れるまで何回でも受けることが出来るのだという。答案については先生の部屋で一対一で説明を聞くことが出来る。良いシステムだなあ、勉強熱心な学生には素晴らしい環境だなあと感心することしばしば。
先生と生徒が非常に親しい感じで距離感が近い。まあこれは著者が優等生ならではの面もあるかもしれないが。でも「近い」というのは決して「友達感覚」とか「馴れ馴れしい」とかいうのではなくて、例えば晴美さんが先生のされたことや言われたことをきっちり敬語を使って書かれているのを読むにつけ、「美しい日本語だなあ」「親しくしていただいても、勘違いせずに、きっちり師を敬う姿勢を崩さない」というのが素晴らしいなあ、と清々しく感じた。

内容を読んでいくと、語学系の学科だから、丸暗記しなければどうにもならない科目が多そうで、丸暗記が苦手なわたしは「うへぇ」と思った。ハルミさんは凄いなあ。おまけに2年目はフィンランド語の古典や方言まで学んでいる。よくやるなあ。

日々の生活では、やはりフィンランドと云えばサウナで、サウナについての話。それと、食べ物は「じゃがいも」が一番愛されているらしい。日本人の晴美さんは「インスタント豆腐の素」なるものを日本から送ってもらって作って食べていたらしい。【お豆腐の素を水で溶いて、煮て、冷やして、固める】んだそうだ。へえー、そんなの今もあるのかな!? と調べたらハウス食品通販で「ほんとうふ」というのが売っていた…これは皆さんよく御存じのことなのかも知れなくて、いったいこのひとは何を驚いているのか、何も知らないんだなと呆れられているかも知れないが…。

そういえばあんまり観光のことは書いていなかったな。ムーミンのムの字も出てこない。言葉についてと、家や大学周辺のエピソードに絞って書かれたようだ。
フィンランドのことを書いたエッセイは、同時に当時の日本の若い、勉強熱心で明るくて朗らかな学生さんのきらきらした真面目な青春を見せてくれる本でもあった。

目次
忿学事始/ヘルシンキおばけ?/初めての試験/外国で脳腫瘍/音声学/北おーってどーお?/英語からフィンランド語への翻訳/作家としての日々/夏休み/フィンランド語の文法/サウナでの赤裸々な話/森の小人たちと文学/東大さん讃歌/マイナスごっこ/フィンランド語の方言/お城で誕生パーティ/作文とかけっこ/フィンランド語の古文/言葉の使い方/通訳稼業あれこれ/海外適応の時間的経過―たとえば、じゃがいもとのおつきあい―/女と言葉/大相撲愛好家と世界の言語/フィンランド語は猫の言葉/日本一・フィンランド一/コーヒーカップの受け皿
あとがき/文庫版のためのあとがき

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