2017/07/21

私の好きな悪い癖

私の好きな悪い癖
私の好きな悪い癖
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吉村 昭
講談社
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kindle版
■吉村昭
初出はいろいろだがだいたい平成10年前後に掲載されたもの。
著者が掲載誌を切り取って袋に溜めておいた中から選んで編集者が並べ替えたものだと「あとがき」にある。
単行本は2000年(平成12年)10月刊、2003年11月文庫化の電子書籍版。

本文には発表年などの記載はいっさいない。
これが曲者だった。
「食品売場」という一文を読んで「なんたる時代錯誤、こんなものをよく公に発表出来るな」と思っていたら最後の初出一覧を何気なく眺めていてびっくり、なんとこれだけ昭和55年の掲載なのだ。じゃあ、まあ、しょうがないかなあ。内容も、本人がそういう思考だったのはそこから更に15年ばかり前(つまり昭和39年頃)で、55年の時点で本人は既にそう思っていないとあるし、編集者の気持ちは「尊敬する作家が…」というふうに解釈できるし。どういう文章かは、下手に一部分だけ引用してそこだけ強調されるのも本意ではないので、引かない。
しかしこういう年代バラバラの随筆集は、一文ごとに掲載年月を記してあったほうが良いんじゃないかなあ。

氏の作品は10年前に1作読んだことがあるだけだが、硬派な、史実の資料をきっちり踏まえて書くタイプの作家さんだと認識している。
随筆は、予想よりもやわらかい文章で、柔和で生真面目なお人柄が想像される、予想以上に興味深く面白いものだった。
氏の幼いころのこと、家族のこと、少年~青年期に結核を患って九死に一生を得るような、十代は病がちの日々だったこと。
近所の自転車屋さんにペニシリンの注射を打ってもらってそれを医者に云わないとか、仰天するようなことがさらりと書いてあるがその医者が誤診しておりその注射が無ければおそらく駄目だったというようなことが書いてあってさらに驚かされる。

締切をきっちり守る、早めに渡すのは作家には珍しいようだ。
「卯年生まれ」の性質は、家族にいなかったこともあり、初めて聞いた。わたしは「寅」なので一学年下がそうなのだが……、そうかなあ? しかしこの本に書いてあることだけで判断するなら、吉村昭先生は女性を褒めるのがうまい。それも昭和2年生まれの男性が、奥さんや奥さんの妹さんにそれを頻繁にされるというのだから、かなり凄いことだと思う。

吉村昭の奥さんといえばこれも作家の津村節子だ。
津村節子の本は恥ずかしながら1冊も読んだことがないのだが、この随筆を読んで、妻側の視点も読んでみたいような気がした。

イメージどおりだったのは史料・資料を図書館などで文献をあたるというところだったが、それだけではなく、実際にその土地を何度か訪れ、そこに住む人や図書館の長に話を聞いたりする。その思考&行動過程を裏話のように書いてくれてあり、大変面白く読んだ。

最後の「尾崎放哉と小豆島」は講演を活字に起こしたもので、放哉の句は好きで句集もある時期愛読したことがあり本書で挙げられている句は覚えがあるものばかりだったが、人柄などは知らなかった。本書を読んで、氏が小豆島でいろいろ話を聞き、放哉の人物評結論として書いてあった部分を読んで思わず笑ってしまった。

目次
下町日暮里商家の生まれ
私の写真館/私の中学時代/師走の小旅行/二村定一と丸山定夫/楽屋と鶏卵/ぼんぼり/誤診と私/白い封筒
私の小説作法
早くてすみませんが……/短篇小説の筆をとるまで/戦戦兢兢/入学祝い/資料の整理と保管
にが笑いの記憶
卯年生まれ/結婚披露宴/初心/隠居というもの/食品売場/養豚業
史実を究める
『関東大震災』の証言者たち/歴史を見た男を訪ねて/対向車/トンネルの話/外洋に未知の世界が/一人の漂流民のこと/一三歳船乗りの数奇な運命/文化の城──図書館
旅と一献
百円硬貨の町/長崎と私/悪い癖/「銀座復興」の思い出/充実した旅/酒というもの/大阪は煙の都/大阪の夜
心に残る人々
青山斎場/大きな掌/凜とした世界/『日本医家伝』と岩本さん
講演:尾崎放哉と小豆島
あとがき/初出一覧