2017/07/12

流

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東山 彰良
講談社
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kindle版
■東山彰良
2015年5月単行本刊の電子書籍版(2017年7月14日文庫版刊行予定)。
6月25日の日替わりセールで買ってあったもの、今週月曜から読みはじめて水曜夜読了。kindle版で5551P。

第153回直木賞受賞作。あの、又吉直樹&羽田圭介芥川賞受賞のときに直木賞を獲った作品である。
選考委員の北方謙三が「二十年に一回という素晴らしい作品」と大絶賛していたからずーっと気にはなっていて、kindleで冒頭のプロローグまで試読みとかはしていたのだけど歴史が絡むとなると難しいかもだし、文庫になるまで待つかあ…と思っていた(そしたら日替わりセールで上がってきて文庫化にはまだ1年はかかるだろうから、と購入、したのに2015年の単行本なのに2017年でもう文庫化するのだね)。

プロローグだけ読んで中身の雰囲気をなんとなく想像していたのだが、実際に本編を読んでみたらかなりイメージと印象が違うノリ・展開が待っていた!

直木賞受賞発表の時に、著者が台湾国籍の方で、この小説も台湾を舞台にしていて、著者の父親がモデル、みたいなことは云われていた。
本作を読む前にweb本の雑誌作家の読書道」でこの方の回を読んだりもしていた。

いやあ、面白かったなあ!
二十年に一回かどうかは、まあ好みもあるからよくわからないけれども、歴史が絡んでいるとか、身内がモデルとか、そういうのブッ飛ばす容赦なさというか、立派なエンタメで、全然小難しくない。歴史のややこしいこと抜きにして、個人の立場で書かれているので、主人公に同化・共感しつつその心情に沿っていくのになんのつまづきもない。

以下、内容に触れつつ感想を書くので、未読の方で白紙で読まれたい方はスルー推奨です。


主人公は 葉秋生(イエ チョウ シェン)。最初にプロローグがあり、そこから遡って、物語本編は1975年の、秋生が台北の高等中学に通う17歳だった時点からはじまる。
第一章のタイトルで明らかなように、1975年4月5日蒋介石が亡くなった年の5月20日の晩から夜中の間に、秋生の祖父、葉尊麟が亡くなった。それも、殺害されて、浴槽に沈められている、という形で。死因は溺死。
第一発見者は、秋生だった。
死者を見たのは、初めてだった。
そんなこともあってか、祖父の突然の暴力的な死は、その後の秋生の人生に大きな大きな波紋を生む――。

* * * * *

はっきり言って、この主人公はちょっとヤンチャが過ぎる。
最初は優等生だったようだが、ヤクザに片足をつっこみかけたような悪友の親友がいて、彼との仁義もあって、一昔前の不良みたいな言動が目につく。
でも間違いなくある種の魅力・カリスマ性、ヒーロー性も持ち合わせていて、少年漫画の主人公にもなれそうな、カッコよさ(?)みたいなのも持ち合わせていて。
一対一の命懸けの闘いになったときに、定規の刀をああいうふうにしたシーンとか、その状態を具体的に想像してギャーと内心叫びつつも「いやでも格好良い……んだろうな、男の人とかこういうのすっごい好きそう」とか。
その後もいろんな場面で「ちょい待ち、何故そこで事態をさらに大きく広く悪くする!?」と呆れつつも「そういう性格なんだろうな…」と飲み込んでいたので、終盤の方で自分で
どうしてそうなのか、自分でもわからない。(中略)物事が壊れかけたとき、わたしの心は修復よりもさらなる破壊に傾いてしまう。
と書いてあって、なんだかもう、大きく脱力、仕方ないなあ――、という感じ。

17歳から19歳くらいまでの期間がメインに書かれているから、青春小説の趣きも強く、純情な主人公と2歳年上の幼馴染みの少女との初恋物語なんかもうすっごく甘酸っぱくて、微笑ましくて、そわそわしてしまった。そして、切なくて、その真相を読んだときは「こっ…この設定がここで投入されるか」と。
大人になってからの恋は、苦くて、でもそれはそれでリアルで、切ない。「現在」二人がどうなっているかも時系列をバラバラにして書かれている都合で先にさらりと書いてあったりするので、複雑な思いで読んだ。

秋生はおじいちゃんを殺した犯人を見つけたいとずっと思って、自分なりに探ったり話を聞きに行ったりもしていたので(大人になって一時は日々の生活に追われて抑えられていたが)、その犯人に終盤で思い至り、追い詰める、という面は推理小説のような愉しみ方も出来る。というか、わたし個人はこれをメインに読んでいた。ミステリーとして、なかなかに面白い、単純だが、周辺書き込みがしっかりしているから、奥行きがあって、複雑な人間心理、ドラマが忖度されて、面白かった!

この小説は最初に登場人物一覧が載っているが、各人の個性が書き込まれていることや、台湾の名前なので漢字であることなどから、読書中この一覧に頼らずとも誰が誰でどういう関係、というのはほぼ把握できていて、見返す必要はなかった。兵役時代の同期はちょっと忘れていたけど(そのひとは最初出てきたときほとんど綽名で呼ばれていたからというのもある)。

先に触れた「作家の読書道」でマジック・リアリズム作品のこととか南米文学が好きだとかいうのを読んであったので、この小説に時々登場する「とんでも系描写」(ゴキブリの大量発生とか、糞系)や、幽霊や狐火が出てくることなど「ははあ……ニヤリ」と頷きながら読むことが出来た。真面目な展開の中にいきなり変な展開が混ざっていて、それがまた絶妙のユーモアを生んでいるのだ(単なる小学生的下ネタに陥っていないところが、ギャーゴキブリ!やめてぇぇ とか思いつつも「これは要るよな」と頷けるさじ加減・バランスになっているというか…)。
百年の孤独』(たしかに英米文学とは全然根本から違うのだ)しか読んでいないんだけど、南米文学見逃し過ぎてたかも、面白そうかも!と先のインタビューを読んで思ったり。

目次】を以下に書き写したが、未読の方に展開が読めちゃいそうなのは白文字にしておきます。
プロローグ
第一章 偉大なる総統と祖父の死
第二章 高校を退学になる
第三章 お狐様のこと
第四章 火の鳥に乗って幽霊と遭遇する
第五章 彼女なりのメッセージ
第六章 美しい歌
第七章 受験の失敗と初恋について
第八章 十九歳的厄災
第九章 ダンスはうまく踊れない
第十章 軍魂部隊での二年間
第十一章 激しい失意
第十二章 恋も二度目なら
第十三章 風にのっても入れるけれど、牛が引っぱっても出られない場所
第十四章 大陸の土の下から
エピローグ