2017/05/24

彼岸過迄【再々読】

彼岸過迄 (新潮文庫)
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夏目 漱石
新潮社
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彼岸過迄
彼岸過迄
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(2012-09-27)
kindle版
■夏目漱石
この小説には最初に「彼岸過迄に就て」と著者自身の「まえがき」「はじめに」に類するコメントがあって、ちょっと珍しいなと思う。こういう一文は非常に興味深く、例えば『坑夫』なんかにもあって良かったんじゃないかなと思う。
いわゆる後期三部作(『彼岸過迄』『行人』『こころ』)の第一作にあたるが、前期三部作と違ってスジのつながりは無い。

7つの章に大きく分かれていて、語り手が異なるが、人間関係は全部繋がっている。
ちょっと整理してみると、【目次】はこうなっている。
彼岸過迄に就て
風呂の後
停留所
報告
雨の降る日
須永の話
松本の話
結末

「風呂の後」/「停留所」/「報告」/「雨の降る日」/「須永の話」の二までは三人称単視点で「単視点」は田川敬太郎。「須永の話」三の須永の話は一人称単視点で須永=「僕」。
「松本の話」はタイトルの通り松本の視点でしかも「僕」が用いられ、一人称単視点になっている。
「結末」は三人称だが誰の視点でもなく著者というか、いわゆる神視点。かなりざっくりした「まとめとその後」みたいな。結局須永と千代子がどうなったかはわからないまま。

登場人物を整理してみると、つまり主人公と森本と高木以外は全部親戚ということになる。いっそのこと須永と田口の話だけで良かったような気もするが、最初の敬太郎と森本のくだりがすごく単純にわくわくする若者らしさが面白かったし、その「探偵」ぶりも変わっていて面白かったのでやっぱ「あってこそ」だなあ。

田川敬太郎。主人公。大学は出たが就職口が決まらず、活動中。
森本(敬太郎と同じ下宿の30歳以上の男。独身で停車場に通勤している。離婚歴がある? いろいろ変わったことをしている。蛇頭のついたステッキを自作。)
須永市蔵(敬太郎の友人。母親と二人暮らし。軍人だった父親は故人。裕福な親戚がいるが、暮らしに困っていないので働いていない。)
市蔵の母(恒三の姉)
田口要作(市蔵の叔父。実業家。ユーモラスな悪戯をすることもある。敬太郎にある謎めいた「探偵」仕事を依頼する。)
田口の妻(恒三の姉)
田口千代子(要作の長女。市蔵の従妹。)
田口百代子(要作の次女。市蔵の従妹。)
田口吾一(要作の長男。姉妹の弟。)
高木(千代子の友人秋子の兄。イギリス育ち。)
松本恒三(高等遊民。田口の義弟、千代子たちの叔父。)
松本の妻(御仙。千代子たちの叔母)、子(男児2、女児3。末っ子が宵子)

前回読んだときは江戸川乱歩がこの小説を「探偵小説」的な面があると紹介していて、「あれ? そういう話だっけ?」と思って読み返して、後半の須永と千代子の話に意識を持っていかれったっぽい(記憶が曖昧)。

今回は『こころ』がしんどかったなーという気分で読みはじめたら敬太郎が明るくて純粋な感じでココロが洗われる感じで非常に楽しく読み進んだ。「探偵」の部分もふふふ、がんばってるのねーって感じでわくわくした。
最初に読んだときも二度目に読んだときも宵子ちゃんのくだりに非常に衝撃を受けて印象に残っていたのだが、三度目読んでもやっぱり可愛くって可哀想で気の毒だ。実際漱石も幼い娘を亡くしているせいか、お通夜からその後のいろんな細かいところまで非常にリアルに描かれている。

そして市蔵と千代子の話になる、というかそこに市蔵の母の思惑とか、田口の両親の気持ちに対する忖度とかが絡むからややこしくなるんであってね。このへんの、二人の男女と大人の思惑と、…恋愛だけじゃなくて、「家」とか違う要素が絡んでいく感じが『こころ』の先生とお嬢さん(静)と奥さんのあのへんとちょっと被るかなあ。
ハンケチのエピソードをもってきて、千代子と市蔵の素直になれない感情を描くところとか、わかるわかるわー、「好き」な気持ちがあると逆に好意を迂闊に出せないっていうかねー。

漱石自身が最初にそう断っているとおり、最初のはじまりのところと、途中からの展開と、全然違う話が集まったような感じだが、今回は特に前半の呑気な感じに救われた感じで楽しく読んだ。占いに行ったりするのとか、ステッキのくだりとか、こんなの漱石が書いたんだなあ、というか。

途中から、須永の語りがはじまって、漱石っぽい世界になる。彼が自覚しているとおりちょっと卑屈というかいじけているというか理屈っぽ過ぎるというか、それが延々続くのはちょっと「どっちかはっきりしろ! 千代子さんも気の毒でしょうが」と思ったり「市蔵の母の気持ちもわからないではないが、本人にその気がないのに同じことをずーっっっと言い続けるのはちょっとイラッとくるなあ」と思ったり、それがために「市蔵断っちゃえ」「千代ちゃんもっといいところにさっさと嫁いじゃえ」とか思わないでも無かった。あと、高木はイギリス育ちの上品で如才ないイケメンってことで間違いないでしょうか。市蔵が「その容貌をうらやましく思った」とか書いているけどはっきり「美男子」とかは出てこないんだけど。この高木にして千代子の婿として父親の田口が思っていないというのはなんでかなあ、とか。

市蔵と千代子は結局どうなったのか! 現代だったら両方独身のままとかもあるんだけど昔のことだからなあ…。