2017/05/15

昔日の客

昔日の客
昔日の客
posted with amazlet at 17.05.15
関口 良雄
夏葉社
売り上げランキング: 87,908
■関口良雄
この本について知ったのはピースの又吉(直樹)さんの、たぶんエッセイ集が先で、その後テレビやラジオで同じ話をされているのを見聞きしたんだったと思うけど、そのエピソードがあまりにもドラマチックで全ての本好きの夢みたいな話で凄過ぎて、なんだかそれだけで満足してしまっていたというか。
夏葉社「ピースの又吉さんから賞状をいただきました」

セレクトショップ的なちょっと小洒落た本屋さんに行ったらだいたい置いてあって(大きな書店にも置いてあるのだろうけれども意識して探したことがないから不明)、そう、いつも、こっちから求めて探すというよりは、本屋の棚にいつもちょっと特別な扱いで置いてあるのを目にしてはその装丁の美しさに惚れ惚れしつつも、「著者知らんし…。」と。まったく知らないひとの随筆、しかも職業作家ではないひとのそれは躊躇してしまい。
読まないままに来てしまったが、これだけずっと見るたびに気になるのだったら読んでしまったほうがいい、ということで。Amazonで購入。

で、いざ読みはじめたら届いた日(午後着)から読みはじめてその日の夜には読み終わってしまった、226頁しかないし、レイアウトもかなりゆったりしているし、中身が想像以上に面白かったからだ。

職業作家さんの文章ではないが、読みやすく、変な癖もないので、表紙を開けたらするするあっというまに昭和の古き良き時代の古本屋さんの日常に馴染んでいく。日常、といいつつ店主が長年の間に遭遇した出入りの作家さんの面白いエピソードばっかり集めてあるわけだから、にやにやしたり驚いたりしつつですごく面白い。

本書は昭和53年10月に三茶書房より刊行されたものの復刻版(旧仮名づかいだったのは現代仮名づかいになっている)。
初出は、昭和34年から52年くらい(詳しくは巻末の初出一覧がある)。

伊藤整に間違えられた話とか、俳句をメモ代わりに書いて店の壁に吊っておいたら真筆と間違えられる話とか(このご老人、さぞやいままでも贋物をつかまされてきたのだろうなあとその背景を想像しておかしいやら気の毒やら)、ふつうに読んでいたらいきなり三島由紀夫の御尊父が登場して、「ぎゃっ」と驚いていたらすぐそのあとにサラリと三島由紀夫ご本人も馴染みの客(まだブレイクする前)だったとか書いてあって「うおおおお」。

川端康成の目前に恩人のために飛び出て箱書きを依頼するシーンなんか、ひやあああ! もう読んでて大興奮である。しかも快諾とか。凄い~!
川端康成って怖い、厳しいひとのイメージだったから(根拠はあんまりないけど太宰治側からの文章とか読んだせいだろうか)、びっくりした。

なんか「昔、教科書とか文学史とかに載ってたなあ」っていう作家さん、いまも書店に並んでいる作家さんとかの名前がいくつも出てくるのでとても平静には読まれない。ミーハーココロ炸裂☆ って感じである。

古本好きにはしばしばあるように「内容」もさりながら本という「物」が好きだという面もありそうだったが、「物」「古本としての価値」にばかり意識が行ってしまっている学生さんが客としてやってきて、後日反省の手紙を受けとるエピソードもあり、やはり大切なところはきちんとふまえておられた、本好き、小説好き、そして何よりも作家、その人間を尊敬、敬愛していることが伝わってくるから、だからこそ山王書房、関口さんはこんなにも多くのひとに愛されたのだな、ということをしみじみ感じた。

表題にもなっている最後の「昔日の客」は野呂邦暢のエピソードだが、店主の愛娘の結婚の引っ越しを手伝うシーンなど美しすぎて信じられなくて思わず確かめるようにもう一回読んでしまった。

そして、あとがき。何故、著者本人ではなくご子息による物なのか、読んでいくうちにだんだん胸がつまってくる。
知らなかったのか、薄々悟っていらっしゃったのか。
ご健康であれば、もっと書き足したいことがたくさんおありだったのではないか。
いろんなことを、考えてしまう。

装丁が美しいだけではなく、中身も本当に素晴らしい本だった。

目次
正宗白鳥先生訪問記/コロ柿五貫目/虫のいどころ/古本/偽筆の話/上林暁先生訪問記/恋文/伊藤整氏になりすました話/尾崎さんの臨終/最後の電話/汗/お話二つ/イボ地蔵様/二冊の文学書目/泥棒の歌/好色の戒め/某月某日/父の思い出/可愛い愛読者/川端康成「名月」の軸/スワンの娘/洋服二題/寒椿/遠いところへ/駆込み訴え/二人の尾崎先生/自画像/大山蓮華の花/昔日の客/「日本近代文学館」の地下室にて
あとがき/復刊に際して/初出一覧/関口良雄略歴