2017/04/18

未来国家ブータン

未来国家ブータン (集英社文庫)
集英社 (2016-07-15)
売り上げランキング: 708
kindle版
■高野秀行
本書は2012年3月に集英社から出た単行本に「文庫版あとがき」を追記した2016年6月刊集英社文庫の電子書籍版(解説省略)である。

そんな近著がもうAmazonの「日替わりセール」に上がるのか、とびっくりしつつも有難く拝読した。

著者公式ブログによれば
ふつう、文庫化といえば、単行本に「文庫あとがき」として後日談をちょっと付け加えた程度だが、今回はちとちがう。
んだそうで、詳しいことはそのブログ記事を読んでいただくとして、まあ要するに評判が悪かったので、
今回の文庫化にあたっては、本来単行本につけるべき「あとがき」もしくは「エピローグ」に類する文章を書き加えてこの旅を総括した。
ということだ。

電子書籍版には【電子版特別カラー写真収録】ということで最初に写真がたくさん収められている。

ブータンといわれてすぐ浮かぶのは「国民の幸福度がめっちゃ高い国」で「何年か前に国王夫妻が来日して、若くて美男美女だったからちょっとしたフィーバーになってたなあ」という感じ。

今回は自発的にブータンに行ったのではなく、友人の仕事の依頼を受けて(ノーギャラで?)。いちおう高野さんらしく「雪男」を探すという二次的目的も掲げていたが。
(果たして雪男は発見されたのか!? ――ってそんなもん見つかったら大騒ぎになってるだろうから結果は読むまでもないのだが、まあそれはいつものご愛嬌)。


依頼者はニムラ・ジェネティック・ソリューションズという会社の社長の二村さんという方。
どういう会社かいというと、
新規有用物質探索・発見・開発のための共同研究開発基盤を持つ生物資源探索のリーディングカンパニー】(HPより)。
http://www.ngs-lab.com
高野さんに二村さんが何を期待していたのかは「文庫あとがき」によれば高野さんはまったく理解していないまま、ブータンに行って「しなくてもよい苦労」をしていたらしい…。

まず例によって現地の言葉「ゾンカ語」を習得してからブータン入り。
今回は自分の目的のためじゃないからいろいろ頑張って調査して二村さんに良い報告ができるよう頑張っているところがいつもと違うなあ。
あと、現地ガイド・通訳などを務める相棒のツェンチョ君(国立生物多様性センターの若い研究者)が物凄く有能なのもこういうルポでは珍しいような…。細かい気配りが出来るし、現地の一般の方にもつねに腰を低くして対応しているし、高野さんも大絶賛している。

何故ブータンが「未来国家」なのかというのは一言では難しいが、本書を読めば「なるほど…すごく良い国、王様、システム、考え方だなあ」としみじみ感じるところがいくつもあり、そういう意味では日本は全然駄目である。負けている。見習うべきだが、国家のスケールが違い過ぎるので、そう簡単な話では無い。

「未来国家」というと瞬時に「空中をスマートな高架高速道路が交差し、洗練された高い建物が並び、整然とした機能化した街並み」が浮かんでしまうのは幼いころに見た「未来図」の影響だと思う。そもそも「未来」ってそういう機械的な発展だけを云うんじゃないよな、まあインフラとか整備されているのは便利だし住みよい暮しには違いないけど…、などと自分の頭の凝り固まったところを揉まれる気がした。

本書を読んでブータンに行きたいとかは思わなかったけど、そもそも高野さんの本を読んでそこに行きたいと思ったことはいっぺんもなくてむしろ「無理!」と思うんだけど、「良い国だ」というのはよくわかった。

ただし、ブータンの田舎に住んでいる人は他の(高野さんが行くような辺境の)田舎の人と対して変わらず、取材などに怯えて何も喋ってくれないなど閉鎖的な感じで、あまりいい感じでは無い。ブータンの良い所、他とは違うところはむしろブータンの都会やインテリと呼ばれるひとたちがその国や王様を心から敬愛しているというところで、凄いなあと思った。これは決して独裁国家の国民のそれではない。


【目次】
はじめに
第1章 ブータン雪男白書
(政府の公式プロジェクトで雪男調査/雪男を捕まえた話/小人国への入口/桃源郷は偏在する/占い師が未来を決める/偽JICAの教え/高山病で死にそうになる/雪男に間違えられた老人/生物多様性の聖地)
第2章 謎の動物チュレイ
(天国にいちばん近い村/謎の動物チュレイ/ブータンの富山県人/TK調査は辛いよ/仏教とチュレイ/ブータン人に教えることなし)
第3章 ラムジャム淵の謎
(遠野は生きている/ラムジャム淵の謎/梟は悪い知らせをよこす/ダライ・ラマの夢)
第4章 ブータン最奥秘境の罠
(雪男のための保護区/幽霊を怖がってはいけない/雪男に連れ去られた公務員/幸福になる義務/神隠し/水戸黄門になった国王/祈祷を受ける/ブロクパ神話は現実である)
第5章 幸福大国に隠された秘密
(未来国家への道/「自由」に苦しまないブータン人/仏教フィーバー/願わくはこれを語りて平地人を旋律せしめよ)
文庫あとがき