2017/04/16

旧グッゲンハイム邸物語  未来に生きる建築と、小さな町の豊かな暮らし

■森本アリ
この本は最初地元(塩屋ではない)の書店で見かけて表紙から受ける印象と、帯に書いてある【神戸の西にある小さな街「塩屋」。海沿いにある築100年超の洋館、「旧グッゲンハイム」邸。建築の再生と、まちづくりの物語。】というアオリ文と、さらに【木皿泉さん推薦!】の文字に引き寄せられた(裏表紙にあたる帯の部分にコメント文もある)。
でも、別に「塩屋」に縁があるというわけでもなく、著者の名前も知らなかったし、そもそもこれはエッセイというよりはもっと実録的な、町づくりと古い洋館の保護活動を書いた専門書ですごく硬い本なんじゃないか、素人のわたしが読んでも難しかったりつまらなかったりするのでは、という危惧もあって、すぐには買わなかった。
次に梅田の紀伊国屋で探したら専門書が並んでいる「建築」のコーナーに置かれていて、ふだん「文学」「エッセイ」のコーナーにしか行かないのでますます「うーむ、これは」とは思ったが、そのときは既に買うことをほぼ決めていた。だって気になるんだもん。
というわけで最初に見た地元書店に仁義をきってそこで購入。

最後まで読んでの感想だが、全然難しくなかった! 専門書でもなかった! 予想したよりずっと、面白かった!

「塩屋」は聞いたことはあるけど行ったことは無いし、場所も「三宮より西」という見当はつくけど正確な場所はわからない。
グーグルマップで検索したらJRでいうと須磨の次の駅。山陽本線の駅もある。
住所でいうと、兵庫県神戸市垂水区塩屋町。
あ、「ジェームス山」って聞いたことある、塩屋にあったのか。
「大江千里の歌に<塩屋>ってあったなー」
良い歌だけどあらためて歌詞を確認したけどこれ、別に「塩屋」じゃなくても成立する歌だし…街の描写とか無いので。本書にも大江千里は出てきません(当たり前)。

塩屋
塩屋
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アリさんの文章を読んで、塩屋に散歩に行ってみたくなった。
塩屋は坂が多くて、道が狭くて、車が通れない道が多いらしい。傘を差した人が行き交えないとか。あんまりそういう場所に行ったことが無いのでどんなのか行ってみたい。
もちろん古い洋館も大好きだし(しかしこれは個人宅だからイベントとかで借りるとかじゃなければ見学は出来ないのかな、とググったら第3木曜日に見学会が行われているらしい……平日かー平日はなー。あ、土日のコンサートとかに行けばいいってことか…)。

本書は、旧グッゲンハイム邸のことをもっとがっつり書いてあるかと思ったらそれだけじゃなくて、むしろもっと塩屋という町にスポットが当たったほうが嬉しい的なことが何度か書かれていた。
町づくりというのも、「つくる」というか、「昔から塩屋にある良いものを出来るだけずっと長く残して守っていきたい」というスタンスの「つくる」。
そもそも著者が旧グッゲンハイム邸の管理人になった経緯も、他の異人館が開発の波に乗って壊されてしまい、彼の家族がなんとかしたいと声を上げたことがきっかけ(こういうのは市や町が中心となって保存しているのかと思いきや……。北野の異人館とかはどうなんだろう)。
住民のなかには、もっと道を広くして、古いものは壊して、新しい大きなマンションとか駅前ロータリーとかが出来れば良いのに、という人たちもいて、著者はそういう人たちから時には結構ひどいことを言われたりもするようだ。うーむ。

あと、著者の職業がネットとかで見てても「ミュージシャンなの? 家とかに関わるひとなの?」ってよくわからなかったんだけど、DIYとかリノベーションとかそういうことをするのが好きな、ミュージシャンで、旧グッゲンハイム邸の管理人さんで、塩屋の町づくりの中心的なメンバーのひとりということみたい。人脈とか結構凄い。1974年生まれ。二人のお子さんのお父さんでもある。

わたしは不器用だけどDIY好きだし、インターネットでそういうブログとかを読むのも好きなので、本書の前半の古い家やアパートをリノベして住む人が多いという話は大変興味深く読んだ。それにしては、考えてみれば、旧グッゲンハイム邸の修復過程とかの描写が少ない…。もっとそういうのが中心の本かなと思っていたのでそういう意味ではちょっと物足りないけど、邸のほうはプロの方にも手を入れてもらったりしたみたいだ。同じ敷地内に住居用の長屋があって、そっちを著者たちは中心に作業された模様。ちなみにこの冬も一時お休みして邸の修復とか改善とかしてたらしい。日々よくなるように継続中なんだね。

最初に口絵としてカラー写真が何点かあるのが嬉しい。
本書を読んで知ったけど、著者は塩屋をテーマにした町おこしのイベントを今までに2回企画して、写真集を出版済みらしい。
この本を書いたきっかけは、ぴあのひとから依頼されて。このへんも人脈絡みで縁があったようだ。

ご本人は盛んに「自分は受け身」「自分は巻き込まれ型」だと(謙遜もあってか)書かれているんだけれども、読んでいるとあながちそれだけでも無いような……やっぱり何か「あのひとに任せたらなんとかなる」と思わせる魅力をお持ちなのだろう。じゃないとこんなに周りに集まってこないよ。

読むときにカバーを外して読む習慣なので外してまず「おおっ! かわいい! キレイ!」
とても美しいブルーの、塩屋の夜景を描いたイラストが本体を包んでいるのです。素晴らしい。
表紙とカバー・イラストはグレアム・ミックニーさん。
装丁は藤原幸司さん。
「あとがき」によれば共に塩屋に縁のある方らしい。
帯に木皿泉さんが書かれているのも塩屋に仕事場があった時期があったりと著者とのご縁がやはりあって。
この本は「人と人とのつながり」をすごく考えさせられる本でもあった。

そんなこんなで奥付のページを興味深く見ていたらISBNが貼りつけられているのに気付いた。これは修正なのかなあ。それか抜けちゃってて足したのかな?

【目次】
はじめに
第1章 パインズ・シオヤ
失われる建築―旧ジョネス邸のこと/旧グッゲンハイム邸の歴史/家族と自分/震災のあと/旧グッゲンハイム邸、解体の危機
第2章 修復と復興
音無響子さんになれる!/じぶんでつくろう/イベントスペースとしての可能性/支えてくれた音楽家たち
第3章 塩屋というまち
車が通れない町/塩屋百景・百人百景・百年百景/町の文化祭“しおさい”/シオヤ・プロジェクト
第4章 これからの暮らし
真鶴町の「美の基準」と塩屋の「しおや景観ガイドライン」/人間サイズの町で暮らす
対談
島田陽(建築家)×森本アリ/二階堂和美(音楽家/僧侶)×森本アリ
参考文献
あとがき

旧グッゲンハイム邸ホームページ

★追記。後日、塩屋散歩に行ってきました。
海が見えるよ~。
本当に「坂」の町だ! しかもけっこう急勾配。 車の通れない道も多い。
体力が無いので、すぐにバテてしまった……無念。