2017/04/15

ボローニャの吐息

ボローニャの吐息
ボローニャの吐息
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内田 洋子
小学館
売り上げランキング: 16,128
■内田洋子
この本には美しいものが満ち溢れている。
内田さんの文章はとても洗練されていて読みやすくすっきりとして、それでいて内容が濃厚という「ギャップ萌え(?)」で大ファンなのだが、今回の本書は読みはじめて早々に、その清々しい文章で紡がれる光景・情景、エピソードがいつもに増してとても美しいことに気が付いた。

単行本なので通勤には持って行かず、眠る前に1篇読んで脳内うっとりしながら就寝、という優雅な読み方(?)をしていたら読みはじめから読み終わるまでに随分日数がかかってしまったが、スジのある長篇小説ならともかく、こんな珠玉の1つ1つがドラマティックな作品を続けざまに短時間で読むのは勿体無すぎる、と思ったから、気が乗らなければ手を出さず、気持ちに余裕があるときにだけ読んだからである。

本書には15篇のエッセイが収録されている。
読み終えて、本書の紹介文に
イタリア在住の人気エッセイスト・内田洋子が描く、イタリアの人々の美意識をテーマにした最新随筆集
とあるのを見て、そういえば絵や音楽、演劇など、芸術の話ばかりだったなと思った。

内田さんといえば人付き合いの中で相手の心の浪漫や思い出にすーっと入り込んでいくような、そういう「人間」を描くのが実に巧く、本書もそちらに関心を置いて読んでいたので、あまり気にしていなかったのだが、そういえばそうかー(迂闊)。まあ、いっぺんに読まなかったっていうのもあるかも。

初出は「きらら」2015年1月号~2016年3月号。
単行本は2017年2月27日初版第一刷発行。

目次】と、ざっくりしたメモ。
ミラノの髭 
スカラ座の斜向かいにある美術館を若い友人(中学生)のラウラに誘われて出掛ける。その建物には美術館併設の書店があり、そこで印象的な「顔を覆いつくすような髭面」の青年店員に出会う――。

見ている
秋に遅い夏休みのように出掛けたギリシャはロドス島。そこのビーチで出会ったシンガー・アフロディーティ。

甘くて、苦い
ミラノ中心にあるドゥオーモ大聖堂。友人の映像作家のフェデリコと母親の話。

雨に連れられて ★★
雨の多いミラノ。ドゥオーモの雨樋。雨絡みで連想していく、過去の「水」と「芸術」の絡んだ思い出。ヴェネツィアはサン・マルコ広場にあるタイプライターのショールーム。東京で見た金魚の展覧会。ヴェネツィアでの1階上の音楽家との交流――。

キス ★★
高校生になったラウラが母親特製のナポリの郷土料理で復活祭の定番である「カザティエッロ」をお裾分けに持ってきてくれた。それにまつわる学生時代の思い出。まだキスをしたことがない、と焦るラウラを誘って、ブレラ美術館。そこにはフランチェスコ・アイエツ作の有名な絵画「接吻」がある――。(ラウラの鑑賞観が素晴らしい。)

風を聞く ★★★
ホメオパシー。シュタイナー教育。ポプラの花粉症(!)にかかった著者。ハーブティー。
イタリアの「竹商人」。
彼がやっている商売とは……。
(この竹商人の家、竹林の広さと高さの描写が圧倒的で凄い。)

赤い汗 
ミラノにはアフリカ・サハラ砂漠からの熱風シロッコが吹く暑い日がある。
ミラノの髪染め事情。
熟女たちに人気の<陽光に射抜かれて>は金髪三段染め。半日がかりで染める。
白髪の量が多くなったら<月光に打たれて>。
ヴェネツィアの<ティツィアーノの赤>とは――?

ゆらり、ゆらり ★★★
ヴェネツィアの著者の定宿は、14世紀に遡る建物で、複雑怪奇な構造をしている。
入れ子細工のように部屋の中から部屋が現れ、廊下伝いにさらに奥まった部屋へと進むうちに】【何度訪れても、その宿の構造はよくわからなかった。玄関を入って、階段を上り、階段の途中から始まる部屋を抜け続きの間へ通されるときもあれば、最上階まで上り詰めて居間のような場所に入り、そこから蛸足のように分岐する小部屋に当たることもあった。廊下は曲線になったり直角に折れたりして、階上と階下は同じ部屋割りになってはいないようだ。
(この宿面白すぎ! 何回も泊まりたくなるのわかる~! 宮田珠己さんに教えてあげたい!)
<仮面屋>
ヴェネツィアの色を求めて。
(疫病と仮面の関係。超実用だったわけだ。)

緑の海 
真夏のローマ。店を閉める前のバールで頼んで作ってもらった素パスタ。
小麦粉の味が素晴らしい。
店主はブーリア州内陸部の生まれだった。

流浪の人
カメラマンのミーナ。彼女に結婚の話はタブーだと思われていたが……

色に舞う 
モロッコはマラケシュに「すっかりじめついた気分を乾かしたくて」やってきた著者。そこの素晴らしいホテル。どこかヴェネツィアに似ている路地。

ハッピー・バースデー・トゥー・ユー
ミラノを出て高速道路で南へ。
古くからの知人、老いた俳優のピエトロ。若い頃から芝居に生き、日常も芝居のような、スターだった。その彼も90歳になり――。

それでも赦す
クリスマスのミラノ。12月になるとミラノ市庁舎の大広間に絵画が展示される。誰でも自由に鑑賞できる。ミラノ市から市民へのクリスマスの贈り物なのだ。今年は「ラッファエッロ作の絵画『エステルハージの聖母』」だった。
1983年11月に起こった、ヨーロッパではよく知られる『エステルハージの聖母』の盗難事件についての顛末。

ボローニャの吐息 
ミラノからボローニャへ電車でゆく。ここは大学の街。乗降客の多くが若者である。
30年前の夏、著者がイタリアに着いてナポリへ直行したその頃、ボローニャ駅で爆弾テロがあった。それへの思い。
そして今朝の著者は、市内で行われる国際ブックフェアに向かっている。毎年春に行われている児童書だけの見本市。世界中から児童文学作家や絵本作家、編集者や翻訳家、著作権代理業者たちがボローニャに集う。
(ここに出てくる日本人の「文章も書く人気イラストレーター」って誰かしらね。女性みたいだけど。内田さんの逆鱗に触れたようだ。)

イタリア、美の原点
アーティストの集う店。
売れっ子も、売れる前の卵も、この店にやってくる。
たとえば人気絶大の作曲家は実は内気で目立たない子だった。著者と散歩に言っても声が小さすぎて届かない。
一方で、わざと貧乏な服装をして店の客の同情を買う若者がいて、彼はなかなかの食わせ物だった。その彼に居つかれて困っていたある客を、他の客が助けるエピソードなど。