2017/03/21

満韓ところどころ

満韓ところどころ
満韓ところどころ
posted with amazlet at 17.03.21
(2012-09-27)
kindle版
■夏目漱石
香日ゆらのコミックス『先生と僕~夏目漱石を囲む人々』全4巻を何度めかで読んでいたら漱石先生と是公の話を読みたくなって、青空文庫からこちらを¥0でダウンロード。
恥ずかしながら、初読み…。
漱石の作品は高校生くらいのときから有名作品を中心に新潮文庫で少しずつ読んだけど、この紀行文は入っていないし。気に入った作品こそ何度も読み返したけど、全作品・手紙類を全集で読もうとか、人物について文献を調べまくるとか、そういうことは漱石先生に関してはしなかったので。っていうか下手に調べて「理想の先生像」を崩したくないとか妙なことを考えていた…。
文庫だと岩波文庫『漱石紀行文集』ちくま文庫『夏目漱石全集<7>』に収録されている模様。

「満韓ところどころ」というタイトルだが、南満州からスタートして、旅そのものは韓国にも至ったらしいのだが、朝日新聞での連載は韓国に行く前に終わっている。っていうのはゆらさんの漫画にも描いてあったけど、実際読んでいって、その終わり方のあまりの「ブッツリ」ブツ切り感にびっくりして何度か確かめてしまった。連載終了へむけてのまとめとかそういうのいっさい無いんだね…。言い訳もないし。打ち切りなのか、漱石先生の意志なのか。
ま、このへんもちょっと調べたらわかるんだろうけど、あえて調べないでおく。

この旅は先生の学生時代からの友人、中村是公、当時の南満鉄道会社の総裁だった人物に誘われたことがきっかけなのだけど、年号が記されていない。先生の胃の調子が悪そうだ。
後で調べたら、明治42年なので、42歳の秋の旅行だったようだ。
とにかく胃が悪くて身体がつらそうな描写がずっと出てくる。
それが原因で、精神的、気持ち的にもかなり具合が悪そう。
周囲に対して八つ当たりしているような無茶苦茶な屁理屈や意地悪な思考がしょっちゅう出てくる。

この本、満州が舞台なので中国のひとが先生の目に入ってそれについてマイナスなことがたくさん書いてあって差別用語も書いてあって普通に読んでいて青くなったくらい「うわあっ」って感じなんだけど(現代の人間はまず使わない言葉や表現が頻出する)、よく考えたら別に中国のひとに対してだけじゃなくて、向こうで一緒になって世話になっている日本人とかにも自分が行けないときとかかなり底意地の悪いこと書いてたりするんだよね…。

つまり、この旅で漱石先生は、ほぼずっと機嫌が悪かった。
というスタンスで読めば理解しやすいのかもしれない(特定の民族を差別してるわけじゃないと思いたいファン心理である)。
それを作品に出しているのがイイとは云わないけど、まあ、素直に書いてあるとも云える。
別にずっと悪口ばっかりじゃなくて中国人のひとを誉めている部分もあるしね。
でもまあ、結局は「そういう時代、空気だったのかなー」とは思う。漱石みたいな知識人でもこんなんか、とびっくりしたけど。

しかしせっかく中国行ってるのに全然観光、紀行文になってないね!
つき合うのは向こうにいる日本人ばっかりだし。
中国のひとで固有名詞出てきた人っていたっけ?
なんで外国なのにこんなに日本人(しかも同じフィールドのひと)しか出てこないんだ?って思う。

どうも是公は満州鉄道のPR的な効果があればいいなーくらいのことは考えていたっぽいんだけど、漱石はあえてそこを外していったんでは、的な鏡子夫人の発言はなかなか鋭いと思う。

本書はだから「当時の満洲の様子が知りたい」と思って読んでいると欲求不満。
「漱石の文学関係以外の人間関係をちょっと覗きたいわー」という興味で読むと是公が風呂に呼びに来るシーンとか「すげえな」とその親しさぶりにわきわき出来ます(?)。
文学関係ないシーンでの「人間・夏目金之助」が読めるというのも興味深いし。
基本夏目漱石好きですから。
結果、かなり面白かった。

後半は是公が全然出てこなくなるのでちょっと退屈かもーとか思ってたらこのあたり是公、大変な事件にニアミスしてたり…!(本文では一切触れられていない)。
長さはkindle版で2112ページなので、これ一冊で文庫にするにはやや薄いか。
でも歴史とか、出てくる人間のこととか、調べ出したらかなり奥が深そうで、面白そうではある。ややこしい時代すぎて地雷だらけだから気軽にはタッチできないけどね!

ウィキペディアでちょっと関係ワードを引いておきます「満韓ところどころ」「中村是公」「南満州鉄道」「満州」。

ちなみにわたしなんかは「満州」というと「満州国」をすぐに思いうかべてしまうのだけど、漱石が旅したのは1909年(明治42年)9月2日から10月14日まで。満州国は1932年から1945年。
1909年の満州がどうなっていたかというと、さっき上に貼ったウィキペディアをご覧いただくと【1904年から勃発した日露戦争は日本の勝利に終わり、上記の条約によって確保されていたロマノフ王朝の満洲における鉄道・鉱山開発を始めとする権益の内、南満洲に属するものは日本へ引き渡された】そこから5年後ってことですね。

先生と僕 ~夏目漱石を囲む人々~ 3<先生と僕> (コミックフラッパー)
KADOKAWA / メディアファクトリー (2012-10-12)
売り上げランキング: 87,579

漱石紀行文集 (岩波文庫)
漱石紀行文集 (岩波文庫)
posted with amazlet at 17.03.21

岩波書店
売り上げランキング: 56,953

夏目漱石全集〈7〉 (ちくま文庫)
夏目 漱石
筑摩書房
売り上げランキング: 160,744