2017/02/14

漂うままに島に着き

漂うままに島に着き
漂うままに島に着き
posted with amazlet at 17.02.14
内澤旬子
朝日新聞出版
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■内澤旬子
面白かったー。
初・内澤旬子本。
「本の雑誌」で連載されている「黒豚革の手帖」「着せ替えの手帖」は読んだことがあるのだが数回分だけだし。

その雑誌数回読んだだけの文章から受ける印象として、結構性格はキツめ、というか、ゆるゆるしてたら叱られそうな怖そうなバリキャリのお姉サマ、といった印象があったのだが(文章は面白いので読者としては何の問題もないけど実際に近くにいたらちょっと警戒しちゃうかな?というイメージ)、本書を読んでも基本的にはその印象はあって、なんでかなあー。
嫌いとかじゃなくてむしろ好きだし(じゃなかったら著作を買ったりしない)、苦手、というのとも違って、うーん、むしろすごく常識・良識のある頭の良い、行動力と決断力を伴ったカッコイイ先輩だと思うんだけど。
自分にないものばっかりだから気後れしちゃう、ってことかな?

本書では車の運転が久しぶり過ぎて最初のうちは島内だけ、しかも時速40キロくらいでしか走れなかったとか、引越しの日の段取りの失敗とか、そういういわゆる「ドジッ子キャラ」的なことも書いてあるんだけど、でも同時にヨガやバレエを都内のいろんな先生に習って体幹を鍛えたりだとか、世界のあちこちを自分で手配して旅行してきた自負だとかそういう具体的なエピソードだけでなく、本書の最初から文章によって着々と積み上げられていく「感じ」が、やっぱり内澤旬子は強いなーと思わせるんだと思う。

神奈川生まれで、24歳で上京して以来ずっと東京に住んでいた内澤さんが、「もう東京には住めない」と思って、どこに住むかいろいろ考えたり迷ったりした末に「漂い」「着いた」のが香川県の小豆島だった。

そもそもわたしが内澤旬子という名前を知った時点では南陀楼綾繁氏の配偶者だったのだがその後大病を患われ、断舎利をしたり、豚を飼ったり、離婚してしまったりといろんなことをされているなあとか、別に「ウォッチャー」していなくとも目に入ってくる書籍タイトルやネット記事などから情報は得ていた。本書が去年8月に出版されたのを書店で見かけて「へー、今度は"島への移住"かあ。いろいろやりはるなあ」と思った。

そう、わたしの中で内澤さんというのはご自分の生き様や生活を「作品」にしていく、なんというか「生きる純文学作家」みたいな、いやこのひとの書くのは小説じゃないのは百も承知だし、「エンタメノンフ」らしいのだが、でも同じグループの高野(秀行)さんとも、宮田(珠己)さんとも全然タイプが違うというか、それは彼女が女性だからという理由ではなくて。
なんていうか、たぶん自分の中のコンパスがあって、本能みたいなもの。それがキッパリしている度が高いような。高野さんも宮田さんも旅行とか非日常系が多いのに対して内澤さんは日常の生活系が多そうだし。

だから、ああ、内澤さんの「本能」がいま切実に求めているのが「移住」それも「島」なんだろうなーとすごくすとんと思っていて、それから半年以上経ってようやく実際に本書を読んで、「本能が求めているものを少しずつ着実に現実にしていく作業」を丁寧に追うことが出来て、とても興味深くて面白かったのだった。
その思考過程もそうだし、引っ越し業者数社の見積もりを取る過程とか、社長さんの人柄に信頼感や面白味を感じて決めるのとか、そういう移住までの具体的な段取り、1年住んでみての経験からのアドバイスとか、別に移住の計画は無いけど、こういう細々したの、面白いよなあ。

最後の方で、ちょっとだけ、「いまの三十代~四十代前半の独身女性」の「屈託なく地方を彷徨う彼女たち」についてチクリとやっている部分があり、おお、はじめてこういうのが出て来たな、本書ではそういう面はあえて書かないようにしているような、あえて「批判は封印」なのかなという印象を持っていたので、ふーん、内澤さんはそういうふうに見ているのね、と思った。なんか、そういうの、あるよなあ、社会の空気みたいのが。たぶん、彼女たちがそうなんじゃなくて、周囲の空気がそうさせるんですよ。

「田舎暮らし」と聞くとわたしも本書で内澤さんの周囲のなかにおられたように「人間関係の難しさ」を一番に危惧してしまうが、本書では(現在も小豆島に在住ということであまり正直には書けない部分もあるとはいえ)そういう面はほとんど感じない、それは住む地域や集落のひとの性質に拠るものが大きいという主旨のことが書かれていて意外だった。「あとがき」で(島内で)転居やむなしの事態になってしまったと悔しがられているが、これは女性ひとりで、名前と顔を知られている有名人がこういうふうに居住地がある程度確定できる書き方をしていて大丈夫かなとちらっと考えたりもしていたので、さもありなんという感じ、でも小豆島からは離れない、と言い切っておられて、なんだかほっとした。
現在の近況は著者のツイッターでうかがい知ることが出来るが、なんだか本書に出てきたよりも随分ヤギさんが増えているような……気のせい? 楽しそうだなあ。

【目次】
ムリかも、東京。
船も島も港も多すぎて。混乱の高松港を経て小豆島上陸
そして海が見える空き家巡礼の旅がいつのまにか始まっていた
入居を申し込んでみたものの…
空き家巡礼、ふたたび
いまやおもしろいことは、都市も地方も関係なく起きている
決め手は、月と海と暖かさと収納
引っ越し見積もりから見える見られる?移住事情
軽自動車とデロリアン 車選びは切なくて
さらば、東京。いよいよ引っ越し
流れ流れて流された(!)家に到着
一年住んで、わかってきたこと
飲んで食らうは、島の幸
不便で気楽な古家借り暮らし
ご近所さんとのお付き合い
島に暮らせど、お洒落は死なず?
高松は近いか遠いか
東京でなければ、手に入らないもの
つかずはなれずは可能か、人との距離
島暮らしが日常になる日
あとがき