2017/01/02

鳥の巣

鳥の巣 (DALKEY ARCHIVE)
鳥の巣 (DALKEY ARCHIVE)
posted with amazlet at 17.01.02
シャーリイ・ジャクスン
国書刊行会
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■シャーリイ・ジャクスン 翻訳:北川依子
本書は1954年に発表されたジャクスン長篇第3作"The Bird's Nest"の全訳で、国書刊行会の<ドーキー・アーカイヴ>全10巻の第3回配本として2016年11月25日に発売された。本書には叢書の刊行記念対談として若島正×横山茂雄の対談冊子(カラーでなかなか素敵)が挟まれている。
発売されて早々に紀伊国屋で購入だけして、年末年始に読もうと寝かせてあった。
というわけで、2016年12月31日から読みはじめて空いた時間にぼちぼち読み、2017年1月2日正午読了。
正直途中でだらけそうになったときもあったけど、中盤くらいからどんどん面白くなった感じ(慣れのせいもあるのだろうか)。

多重人格もの。
多重人格ものといえばダニエル・キイス『五番目のサリー』(The Fifth Sally:1980)『24人のビリー・ミリガン』(The Minds of Billy Milligan:1981)が有名だと思う。わたしも20年くらい前に大変面白く読んだ(もちろん、単行本でだ。ダニエル・キイスは待っていても決して文庫化されないと諦められていた時代が長くあったよなあ)けど、「訳書あとがき」によれば、【このブームより二十年も前に、やはり多重人格が注目された時期があり、その先駆けのひとつとなったのが本書である。】とのこと。そんなに昔から小説や映画のテーマになって流行ってたんだなあ。やっぱりドラマチックだし、いまだに解明はされていないミステリアスなところがひとを惹きつけるのかな。

この小説の登場人物はものすごく少ない。3人だけ。
主人公エリザベス(・ベス・ベッツィ・ベティ)・リッチモンド
モーゲン・ジョーンズ(エリザベスの叔母)
ライト医師

もうひとり、ライアンという医者も出てくるけどほんの脇役。あとは通りすがりのモブキャラだけ。
エリザベスは帯にもあるように「4人」の人格を持つ。
エリザベスは博物館に勤める23歳の独身女性で、母親を4年前に亡くしてからは母親の妹である独身の叔母と同居している。
最初に博物館の描写が出てきて、「博物館勤務」という舞台設定も良いな、萌えるなと思ったけどこれはある種の比喩的装置扱いだったことが読んでいくと判明する。つまり具体的な「博物館勤務」の様子はほぼ出てこない。最初のところだけだ。3階分を貫く穴を開ける、というところが象徴しているのだろうな。
表層のエリザベス。
軽い催眠で出てくる「ベス」。
更に深い所にいた「ベッツィ」、そして最後に「ベティ」。

エリザベスが多重人格に陥った原因はこの小説を読む限りでは「母親」もしくはその「死」「奔放な生き方」にあるようだ。あとほぼアル中のようになっている性格のかなり歪んだ叔母の影響も大きいだろう。このライトって医者は彼女を治すために出てくるんだけどこのひともかなり変人だし勝手な考え方をする。人格者のいない小説だなあ、まあ実際はそんなもんだろうけど医者が「正義」じゃないっていうのがね。

章タイトルは以下の様になっていて、主な視点がそれに倣っているので読みやすい。
1.エリザベス
2.ライト医師
3.ベッツィ
4.ライト医師
5.モーゲン叔母
6.女相続人の命名

最後の「6」ですんなり綺麗に収まるようで実際は「完治」じゃない、あくまで決定的な描写が無いことがなんとなく不安な感じを残したまま物語を終わらせている。
冒頭に詩のエピグラフがあって、エリザベスという名前の愛称はいろいろあるという注がついていて本書を読むにあたり非常に良い助けとなっているが、これは原書にはないそうだ。翻訳者さんのご親切。あと、原書ではベティではなく「Bess」らしいが、「Beth」とカタカナ表記で区別が出来ないので「ベティ」としたそうである。

シャーリイ・ジャクスンの小説を読んでいると「主人公はまるで十代の少女ではないか」と思うことがしばしばあるのだけど、本書のエリザベスも23歳だけど別人格のベッツィとベティはたぶん生まれてからあんまり経っていないから、少女のような言動、思考、社会性しか身につけておらず、そしてこの小説の大部分は彼女たちの視点で描かれているから今回も「少女」を読んでいる気持ちがした。
終盤で4人がそれぞれお風呂に続けて入るシーンがあって、そんなに何回もお湯につかってのぼせないのかと思ったけど多重人格は体の状態は超越するのかなあ。「訳者あとがき」ではここをジャクスンのユーモアが表れているシーンとして紹介しており、うーんそうかユーモアだったのか……。

叢書編者で、本書の翻訳・刊行を決めた若島正さんが対談の中で【なぜ今まで訳されていなかったのか不思議なほどの傑作です。】と書かれているけど、訳されなかった原因はちょっと冗長気味なところがマニアックすぎるところかもしれない。あと多重人格ものでダニエル・キイスが面白すぎる・凄過ぎるからというのもあるのかも。昔読んだきりで読み比べていないから曖昧だけど…。
でも、ジャクスンファンとしては嬉しい翻訳。ありがたい!
叢書の他の9作はこれよりもずっとマニアックです。

<ドーキー・アーカイヴ>全10巻
L・P・ディヴィス『虚構の男』
サーバン『人形つくり』
シャーリイ・ジャクスン『鳥の巣』
ドナルド・E・ウェストレイク『さらば、シェヘラザード』
ステファン・テメルソン『ニシンの缶詰の謎』
ロバート・エイクマン『救出の試み』
アイリス・オーウェンズ『アフター・クロード』
チャールズ・ウィリアムズ『ライオンの場所』
ジョン・メトカーフ短篇集『煙をあげる脚』
マイクル・ビショップ『誰がスティーヴィ・クライを造ったのか?』