2017/01/14

明るい夜に出かけて

明るい夜に出かけて
明るい夜に出かけて
posted with amazlet at 17.01.14
佐藤 多佳子
新潮社
売り上げランキング: 3,831
■明るい夜に出かけて
2016年9月20日発行の単行本。書下ろし。
どこかで「深夜ラジオのリスナーの話」という情報を目の端に引っかけ、「あ、それは面白そう」と思ってでもそのあとなんでか忘れていた。
先日購入して、今朝読みはじめたらやっぱりすごく面白くて、雑多家事の合間にどんどん読んで、夕方読了。

主人公は18歳の青年トミヤマ(富山)。
人に触ったり触られたりが出来なくて、詳しいことは本書を読んでいただくとしていろいろあってそれがトラウマとなって大学に通えなくなり、とりあえず両親の引きとめもあって現在1年限定の休学中ということになっている。
兄と両親と東京の世田谷に住んでいたが休学の期間という約束でいまは神奈川の金沢八景駅の近くのアパートで独り暮らししている。
コンビニの深夜アルバイトとして3月末から週5で働きはじめ、今日は2014年5月14日。
ここから物語はスタートする。

富山君の一人称語りの文章なので、いまどきの若者言葉、チャラい言葉やスラングがちょこちょこ入ってくる。意味わからんのもある。「フツオタ」って「普通のオタク」ってことだろうか、とか推測しながら読み、いまググってみたら「普通のお便り」のことだって。…知らんかったー。

彼が抱えている苦しみや問題にすっぽり共感できたかというと正直あんまりわからなくて、でも、18歳とか19歳にしたら物凄く重大でしんどいことなんだろうな、ということは理解できた。とりあえず本書を読み終える頃には彼なりの結論、彼なりの成長をしているだろうと思って読み進み、実際に徐々に人と交流したり、行動範囲や使うネットツールなどが増えて行き、「他者」や「自分」に向ける視線や考えることが変わっていくのを息を詰めるようにして読んでいった。
わたしは富山君の倍以上生きているし、生きている社会環境も性別も、その他いろいろ違うから彼の気持ちを「わかった」とは言えないけれど、想像することは出来る。
いろんな失敗や駄目なことや後悔を繰り返してきた身からすれば富山君は全然大丈夫だよ、問題ないよ、気にしちゃ駄目だって思えるけどまあ本人は苦しくてしんどくてそこから抜け出せていなかった。それが少しずつ回復していく。歯がゆく感じたりしつつ、がんばれ、と見守りたくなる。ゆっくり、ゆっくり。
こういうふうに、若い時の躓きなんて、人生全体からみたら全然問題ないってこと、いまならわかるよなあ――と考えながら読んでいたので、終盤、副店長が同じようなことをいうシーンでは深く何度も頷いてしまう感じになった。

登場人物がみんなとても魅力的で、主人公の富山君にはラジオ・リスナーにして名の知れた「職人」という裏の(?)顔があるし、バイトの先輩・鹿沢君とか、リスナー仲間の佐古田愛ちゃんとか、高校時代からの友人永川君とか、みんなすごく「会ってみたいなー」って思う、もちろん同世代のときに会えてたらなーという意味で。
店長さんはあんまり出てこなかったし、副店長さんも出番は少なく、でも要所要所でおさえてくれる感じ。この一卵性兄弟設定のふたりはなかなか設定だけで面白そうで「濃ゆい」感じがするから、本書のスピンオフでもなんでもいいからこの二人の話も読みたかったかな。
あと佐古田愛ちゃんの話も読みたいし、「だいちゃ」の別名を持つ歌い手・鹿沢君の生活ももっと覗いてみたい。
永川君の日常や思考回路を書いたらかなりヤバくなるかな? 痛くなるかな? でもリアル、な気もする。それはそれで絶対面白いような。
こういうタイプの小説に続篇は無いんだろうけど、そういう妄想をしてしまうくらいみんな良い味出してて、なにより人間的に大好きな面々だったので読むのが楽しかった。安易に恋愛小説にならないところも良かったなー。

深夜ラジオを聴く習慣はもう何十年もなくて、中学2年生あたり~大学生のあいだくらい、かな、かろうじて、夜ラジオ聴いていたというのは。番組に手紙を出したことは3回ほどあり、2回読まれた(それぞれ別の番組)けど、それはこの話の登場人物たちのような「職人」としてではなくて全然普通の、ネタじゃない、感想とか相談とかそんな内容だった。

ラジオでよく読まれている職人さんに実際にリアルで会ったことは1回だけある。学生の時、短期アルバイト先で何故かたまたまあるラジオ番組の話題になり、そこに職業をラジオネームにしている職人さんがいたので、「…えっ!? もしかして!?」となったのだ。いやー、ははは、あのときはさすがにちょっとテンション上がりましたね。だからといってこの小説みたいな展開は1ミリもなかったですが。
相手が同世代だったら、また違ったのかなあ、なんていま、初めて思い至ったりしたんであった。

この小説には深夜ラジオを帯で持っている級の芸能人の名前や番組名がガチでたくさん出てきて、それが「有名だ」ということは知っているが、いかんせん完全朝方生活者なので聴いたことは1回も無い。でも実際のリスナーさんが読んだらわくわくするんじゃないかな。特に、「アルコ&ピースのオールナイトニッポン」を知っている方にはどんぴしゃのような。
聴いたことが無いわたしでもかなり面白かったので、リアルに知ってたらさぞ楽しいだろうなあ。