2016/12/12

映画にまつわるXについて

映画にまつわるXについて (実業之日本社文庫)
西川 美和
実業之日本社 (2015-08-01)
売り上げランキング: 21,938
kindle版
■西川美和
わたしは映画をほぼ観ないしチェックもしないのでこの方を初めて認識したのは2015年2月刊の『永い言い訳』で、それも直木賞候補に上がってからだったかも知れない。「すごく興味を引かれる良いタイトルだな」と思ったが、あらすじを見るにイマイチわたしの好みとか守備範囲外のような気がする。うーん……と唸って頭の片隅に置いてあった。そしたら12月10日のkindle日替わりセールで同著者のエッセイが¥199円で上がってきたのでこれ幸いと購入。

「まー本業は映画監督のひとだし」と軽い気持ちで読みはじめたらすぐに「おおっ、これは…」と姿勢を正すことになった。
良い文章を書かれるかただなあ!
もっと柔らかいくだけた文体を想定していたのである意味硬派な、正統派というか、キリッと引き締まったハンサムな文章にびっくり。
映画は観たことないけどすごく評価されているらしいし、文才も以前から認められていたみたい。才能あるひとはいろいろ出来るんだなあ。
内容も悪くなかった。映画をほとんど観ない人間にも興味深く面白く読めた。映画は観ないけど映画を撮っているひとの考えとか思いとか現場の様子とかそういうのが書いてあって、面白い。夢をみてそこから映画になっていくのとか。へー。この本に書いてあるだけのことかと思ったら後でウィキペディアをみたらこの監督さんはいつもそうなんだとか。ほー。安部公房が夢の記録をつけていたエピソードとか思い出すなあ。

そう年齢は変わらないと思うけどいくつくらいかなと思って読んでいたら「長嶋茂雄氏が現役を退いた年に生まれた私は、」という箇所が出てきて、えーとそれって何年だっけ。とりあえず未知の作家さんの本を読むときにこちらのスタンスをつかむためによくやる、本書の最後の「あとがき」と「文庫版あとがき」に最初のほうをある程度読んだ段階で飛んでみて、珍しく割愛されていなかった解説「装丁にまつわるXについて(解説にかえて)寄藤文平(グラフィックデザイナー)」も読んで、そしたらその後に著者の簡単なプロフィールが載っていた。

映画を知らないので映画監督ももちろん知らない。「黒沢明とか?」くらいのレベルであり、本文に数回出てくる「ニッカボッカを穿いている」というイメージにすら(陳腐な古いイメージという例で引かれているのだが)追いついていないのだった。へー、映画監督ってニッカボッカ穿いてるひと多かったの? ニッカボッカって大工さんが穿いてるやつでしょ?
わたしにとって映画監督というとどういうイメージかというと「こだわりのひと」かなー。ポリシーがあって、妥協を許さない。ちょっと変わり者? 西川さんもその例にもれない、かな。

西川美和さんがどういう監督さんなのかはわからないが、この本を1冊読んだ限りでは、とても面白くて繊細で鋭い直観と感性をお持ちの方とお見受けした。読後にググってみて想像していたより美しい方だったので「まあ、これだけ綺麗だったらねえ…」と思った。女優さんも出来そうな感じだが、ご本人いわく、演技は出来ないそうである。そうかなあ。

初出は最初の章のは「ジェイ・ノベル」に2010年4月号~2013年1月頃に掲載されたもの。
次の章からのは2006年くらいに書かれたものが多かったような。初出一覧は無い。
最初の章に比べると他の章の文章は少し柔らかい感じがする。年代の差か、ご本人の意識の差か。
「フィルム」で撮るか「デジタル」で撮るかについて、やっぱり「フィルム」についての愛着とか信頼とか崇拝とかいろいろあるんだというのが何回か出てきて興味深かった。この世代の監督にでもそうなんだ。で、やっぱり実際問題いろいろ違うんだ。へー。
それって読書するときに「紙の本で読むか、電子書籍で読むか」のこだわり問題とちょっと似てる? とか考えた。まあ、デジタルとフィルムでは映画撮るコストが1千万とか違ってくるとか書いてあったのでそれは大きいなーっ。

【目次】
映画にまつわるXについて
X=ヒーロー/裸/オーディション/バリアフリー/信仰/再生/お仕事探訪/生き物/アプローチ/免許/音
プール一杯分のビール
プール一杯分のビール/快適な入院生活/プリーズ・ストップ/迷い犬/蔵書の掟/私の名医/深夜二時の男/ああ、旅情/同胞の人
夢のあとさき
映画『ゆれる』プロダクション・ノーツ 
1原案 2脚本 3キャスティング 4是枝監督のこと 5香川照之のこと 6オダギリジョーのこと
その気のない転機
わたしが監督/夜の闇/緑色の氷嚢のあたたかさ/カエルとダザイ/足りない女/密陽に射す光/その気のない転機/父のカチンコ/あやふやな東京を撮る
あとがき
文庫版あとがき
装丁にまつわるXについて(解説にかえて)寄藤文平