2016/12/16

処刑人

処刑人 (創元推理文庫)
処刑人 (創元推理文庫)
posted with amazlet at 16.12.16
シャーリイ・ジャクスン
東京創元社
売り上げランキング: 87,422
kindle版
■シャーリイ・ジャクスン 翻訳:市田泉
本書は1951年に発表された"Hangsaman"の全訳である。
今年2016年8月に文遊社から出た『絞首人』(翻訳:佐々田雅子)は原著は同じ
つまり、翻訳が「かぶった」ということ。
これ、ネットでググったら結構話題になってたみたい。知らなかった。
っていうか、先日Amazonでシャーリイ・ジャクスンの作品を検索しているときに『絞首人』も買おうかなーって一瞬迷ってとりあえず保留にして『処刑人』だけをkindle版で購入したんだよね。はー、危なかった。
まあ、両方買って翻訳の違いを楽しむというのも無くはないけど…そういうタイプの作品じゃないしね…。
それにしてもなんで1951年に出た、シャーリイ・ジャクスンの超メジャーではない作品が、同じ2016年にダブったんでしょう。すごい偶然だー。

Amazonの【商品の説明/内容紹介】はこんな感じ。
絞首人
わたしはここよ――
謎めいた少女に導かれて乗る最終バス、彷徨い歩く暗い道。
傑作長篇、本邦初訳。
装幀 黒洲零
処刑人
ある日曜の夜。独善的な父親が開いたホームパーティで、ナタリーは見知らぬ男に話しかけられ、そのまま森の陰へと連れ込まれた。(たいしたことじゃない、何もかも忘れよう)おぞましい記憶を抑圧する彼女はカレッジの寮でもなじめず、同世代の少女に対する劣等感と優越感に苦しむ。やがて、トニーと名乗る少女との出会い、ナタリーは初めて他人に安らぎを見出すが……病んだ幻想世界と救いのない現実が交叉する、ジャクスンの真骨頂とも言うべき傑作。

――全然同じ作品の紹介とは思えん! 『絞首人』の紹介文を書いたひとは最後のほうしか読んでないんじゃ?

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さて、感想である。
シャーリイ・ジャクスン・ファンは楽しめると思う。
「らしい」世界だった。あと、思春期、ハイティーンの少女特有の「特別な自分」観みたいなテーマが好きだったらどんぴしゃ。

深緑野分さんによる解説がまた興味深くて、これは最初の方をある程度読んだ段階で「この話ってどういう種類? ホラー…じゃないよね」と思って先に「解説」を読んだんだけど(もちろん、解説途中からの【結末に触れるため、必ず本篇読了後にお読み下さい】以降は読了後まで読まなかったけど)、そこに書いてある「モデル」というのか「素材」を知らずに読むのと知って読むのとではまた感想が違うような気もする。解説を読んで「えっ、あれの」と思い、本篇を読んでいき、最後のほうになってやっと「ああそういうこと」という感じだったが、まあでも、だいぶ変化球だし、終盤以外は全然関係ないしねえ。

主人公のナタリー・ウェイトは17歳で、もうすぐ実家を離れ、大学の寮に入るというところから物語は幕を開ける。
読んでる最中何度か思ったんだけど、ナタリーほんとに17歳? 14,5歳の感じしない? 大学生ってこんな感じだっけか。特に入ったばっかだし、そうだったかも知れない。
あと、大学生なのに授業シーンとか大学生らしい日常風景がほぼ無くて。あるのは寮での生活の描写と、ナタリーの凄まじい量の思考描写。
特にナタリーは誰かと会話しながら頭の中で「刑事に問い詰められる自分」という妄想を繰り広げることがしばしばあるので、それがごっちゃに書いてあるので、ナタリー気は確かなのか、『ずっとお城で暮らしてる』路線のひとじゃないだろうな、と何度か思った。
この妄想世界の「刑事」は最初の方は何回も出てくるのに途中から全然出てこなくなる。kindleなので「刑事」でキーワード検索したら本書では33回使われているのだが、最後に使われるのが位置№1131で、本書の総数は4685なので、一目瞭然。

何故「刑事」が出てこなくなったかというと、まあ、大学生活で他の関心事でいっぱいになったからでしょうね。例えばアーサー・ラングトンとか。で、「アーサー」で検索したら158回もあるんだけど、忘れてたけど最初のほうに出てくる「アーサー」は実家の近所の住人で、6回分はそっちのひと。残り152回が「アーサー・ラングトン」。なんで同じ名前にしたんでしょう。
ラングトンの妻エリザベス――学生の時にラングトンと結婚した美しいけど不幸でいまやアル中のようになっている――は244回。
トニーは222回。でも登場するのが№2910くらい以降だから、後半集中濃度が高いかも。

自意識過剰気味の妄想壁のある17歳の少女が家族の元を離れ(作家である父親が癖のあるキャラクターなんだけど割と好きだった)、同じような自意識過剰の少女の群れの中に入り込み、自分と共感できる「真の友情」「魂のふれあい」を求めるけれどもなかなかそういう友情には恵まれず、カリスマ性や美しさを持った同級生のように華やかな学生生活を送るでもなく、意気消沈してますます自分の殻に閉じこもりがちになる…。
ナタリーと同じような年齢の時に本書を読んだらきっともっと心に響いただろうなあ。

著者が著者だけに、どういう結末になるのか、最後まで気は抜けなかったけどとりあえずハッピーエンドというか、前向きなさわやかな感じでラストを迎えていてほっとした。
なんのかんのでナタリーを応援しつつ読んでいたからだと思う。
きっと彼女もいまのわたしの年齢になったら過去を思い返して「どうしてあの頃は…」と思うのでしょうね。

↓この本と『処刑人』はおんなじおはなしです!
絞首人
絞首人
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シャーリイ・ジャクスン
文遊社
売り上げランキング: 369,981