2016/12/04

現代小説クロニクル 2010~2014

現代小説クロニクル 2010~2014 (講談社文芸文庫)

講談社
売り上げランキング: 564,534
■日本文藝家教会・編
2015年12月11日刊、2015年12月25日にアマゾンで購入して数篇読んで放置してあった(いつのまにかもう1年経ってしまった)のをいい加減読んでしまわないと、と気合を入れて最初から読み直す。
1975年以降に発表された名作を5年単位で厳選する全8巻シリーズ、最終巻。ということだが他の7巻は買っていない。この巻は読みたい作家のが結構収録されているから「効率いいなー」と思ったからこそ購入したんだが、実際読んでみたらものすごく読みづらいというか暗いというかありていにいって面白さがわかりづらいのが多くてついつい放置してしまった。まあものすごく真面目な叢書だとは思うんだけど。つまり「面白さ」で選ばれているわけじゃないから。コンセプトが違うのねー。
でも同時代を生きる作家たちのキレキレの作品をまとめて読むことはそれなりに意味がある、と思う、ていうかそれじゃなきゃ成立しないこのシリーズ。
川村湊の「解説」から少し引用。
こんな時期に、文学だけが明るく、未来志向型で、楽天的なままでいられるはずがない。文学の世界においても閉塞感は強まっており、前向きな積極性など薬にしたくともできない相談かもしれない。
まあ、暗いのは時代を反映してんだから「しょーがないよねー」っていうことらしい。

目次】に感想を付け加える。
考速(円城塔)
ハヤカワ文庫JA『後藤さんのこと』に収録されており、既読。感想はそちらにも書いたが、俳句を連想させる言葉あそびというか。同音異義語を使った作品。両方意味があるように考えられているところが面白い。円城さんが俳句つくったらどんな感じなのか興味があるなあ。

絵画(磯崎憲一郎)
これは描写が「絵画みたいってことかな?」と考えながら読んでいったらやがて「画家」が出てくる。その画家の視点と思考に引き継がれるんだけど、なんかこのひと変だ…橋が揺れたときの描写とか、若い母親への視線とか、中年の夫婦に対する思考とかが不安定というか妙な執着があるというか、うーん気持ち悪いひとだなあ。

街を食べる(村田沙耶香)
この本を買ったときはまだ彼女の作品を読んだことがなかった。
子どもの頃新鮮な野菜なら食べられたのに、大人になって町で売られている安い野菜はまずくて食べられなくなった主人公が、町に生えている野草なら食べられるかもと考え、それを実行に移す話。「町に生えている草なんて汚れているし地面に栄養もないから食べられたものじゃないと思うけどな」と思いながら読んだら案の定だった。というか、それ以前にこの主人公は致命的に料理センスが無くて、うまく料理すればまだしものところを調理方法が下手すぎて完全に駄目にしている。たとえば、葉物をきざんでから、茹で汁が緑色になるまで茹でている。「茹でてから刻むんだよー、っていうかそもそも茹で時間長すぎ!」と苛々してしまったがまあそういう話じゃないのである。それはわかってる。わかってるんだけど、気になって。
住んでいるところで「自給自足」(の真似事だけど)をしてそれで「生きている」実感みたいなのがわく、という発想そのものは好きだし、頷ける。
とりあえず彼女には『山賊ダイアリー』(全7巻・岡本健太郎)を熟読して素材を殺さない料理法というものを勉強してもらいたい(偶然同時期に読んだ。5巻に山菜を食べる話も収録されている。タイムリー!)。

山賊ダイアリー(5) (イブニングコミックス)
講談社 (2014-08-22)
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みのる、一日(小野正嗣)
山下澄人『ギッちょん』をなんとなく連想させるはじまりかただった。英語の習得を目指すみのるのカタカナでの英会話は、言葉が足らないひとのそれを描いているのかと最初思ったが読んでいくうちに違う意図であえて英語で話しているのだということが示されていく。あわせて描かれる「臭気」。徐々にほのめかされていく真実…。グロテスクなのだけれども、恐ろしいのだけれども、同時にどこか哀しい憐れがある。

さよならクリストファー・ロビン(高橋源一郎)
いかにもこの著者が好みそうな、いろんな物語の登場人物を絡めた純文学作品のひとつ。ここでは主に童話に出てくるキャラクターたちを題材としている。浦島太郎はここまで長生きしたらさぞ苦労したろうね。あと、狼さんの錯乱は同情に値するね。
そして謎の消失…。「虚無」の侵食。
クリストファー・ロビンというのは「くまのプーさん」の著者の息子のこと。

田舎教師の独白(高村薫)
なんで高村薫のこの作品を選集に選んであるのかは不明で、でも考えてみればこの著者の短篇ってほぼ知らないから何とも言えない。
全然学習意欲がない高校生たちを相手に数学を教えている田舎の高校教師の視点からずるずる延々語られる話で、「極限値」と「微分係数」の授業の実況中継みたいなのが混じっていて文系だったわたしには正直よくわからんなあと思いながら読んでいたら、いや、まあ、不穏な空気は書かれていたけどまさかこういうラストとは。えー? ここから何を汲み取れと? もうちょっと生徒側の視点が欲しかったけど、うーん。

塔(松浦寿輝)
ミステリチックな設定で、こういう独特の感性をそのまま生かした建築物件の話とかすごく面白くてわくわくする。綾辻行人みたい。もちろん純文学なので殺人とかは起こらない。起こっても面白いとは思うけど。実際に「塔」が建ってからの延々モノローグとかが純文学っぽいけどちょっと冗長に感じてしまった。

うどん屋のジェンダー、またはコルネさん(津村記久子)
先日読んだ『浮遊霊ブラジル』のほうに先に感想を書くことになったが読んだのはこちらの選集が先だった。こういううどん屋の店主みたいなひと、いそう。実際に具体例は浮かばないけど、ありがたいことに。津村さんの書く登場人物はそういうのが多くて、リアルな感じがする。主人公が著者と同年代の女性ではなく中年の男性だというのが珍しいなと思った。 知らない中年男性にうどん差し出されたらかなり警戒するな、とも思った。

きことわ(朝吹真理子)
この作品で2010年芥川賞を受賞されたので「きことわ」という言葉だけは見聞きしていて、なかなか印象に残る美しい言葉だなと思っていたので本書を読みはじめてすぐに判明するのだがそれがこの話の中心人物二人の名前「貴子(きこ)」「永遠子(とわこ)」からきているのだと知ってちょっと、いやかなり「なんだそれ」とがっくりきたのだが、しかしこの話の主な語り手は永遠子であり、この名前が繰り返し使われることによって字面的には「永遠」が頻出する。「貴重」の「貴」も頻出する。それによる脳への刷り込み効果というのか、ある種の雰囲気、イメージの定着には少なからず意味がある、著者の狙いがある、と思う。永遠子と貴子は同世代ではなく8歳も違うのだが、まるで双子の姉妹のように同化して、何度も髪が絡まり合ったりして、少女特有の異常なまでの密着度が濃密で濃厚である。
物語は少女時代から中年女性になった彼女らの現在に飛んでそこからまた話が続くのであるが、空気をそのまま持ちこして、回想している。大人になってから振り返ったからこそ見えてくるものもある。
もっとドロドロしていくのかと思いきやそこまでは至らない、お互い自立した大人の女性になっていて、そこは安心した。海の潮騒と潮のにおいが感じられるような、浪間のキラメキがまぶしいような、美しい小説だった。ただ、ちょっと飽きるかな。

波打ち際まで(鹿島田真希)
2012年『冥土めぐり』で芥川賞受賞。2009年絲山賞受賞のときからちょっと気になっていたけど未読だったので読めて嬉しい。
依存系の女の話。そこまで狂ったか?と思わせて実は別人の話、みたいな地続きの描写が何度かあって、しかし女の内面はかなり病んでいる。何故男がこれをどうにかしないのかはよくわからない。 ある種、ちょっとしたホラー。

うらぎゅう(小山田浩子)
2014年『』で芥川賞受賞のかたですね。このひとも気になっていた作家のひとり。
離婚を決めて実家の両親に報告しに田舎に帰った推定年齢30代後半の女性。こういう展開でホラーだととんでもない目に遭うので、はらはらしながら読んだがまあ純文学なのでそれは無かった。現代の女性が受けるプレッシャーとかハラスメントとか、都会はうまく隠されているけど田舎は露骨だ。でもこれがまだまだ「社会の本音」なんだろう。やっぱりホラーか(違)。

夫を買った女/恋文の値段(瀬戸内寂聴)
これは2つの全然別の話。瀬戸内寂聴の小説は初めて読んだが、読みやすくはあったが、内容はどこが良いのかちっともわからなかった。「夫を買った女」はそういうひともいるのかもしれないけど現実感が伴わないし、恋文の値段については最後がいきなりすぎて意味がわからない。センセーショナルな内容で「驚いたでしょ」と言いたいんだろうか。純文学っていうよりはエンタメかなあ。

巻末エッセイ(村田沙耶香)
解説(川村湊)
作者紹介