2016/11/26

浮遊霊ブラジル

浮遊霊ブラジル
浮遊霊ブラジル
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津村 記久子
文藝春秋
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■津村記久子
先日発売された単行本。
題名からして「なに、なんのお話なんだろう」と興味を引かれるいかにも面白そうなオーラを放っていて、気になって仕方なく、短篇集と知って一回保留にしたのだがやっぱり、ということで買ってあった。最近は通勤に単行本を持って行く気力がないのでしばらく本棚に寝かせてあって、このあいだの週末に4篇読み、本日後半の3篇を読んだ。
何故か装丁に使われているイラスト(@北澤平祐)をシールにしたものがオマケとして挟んであった。サイン本を買ったつもりがサインは無かった。あら、間違えちゃったなあ(がっくり)。 
シールは数量限定らしかったが、「本を買ってもらうために、いろいろ工夫されているのだな」と微笑ましく思ったが、シールをもらったところで貼るところがない。「それでこれをどうしろと?」と少し困惑した。本より大きいサイズなので本に挟んで収納しようとするとあまり具合は良くない。小さい子どもにあげて喜ばれるようなデザインでもないし。ははははは。

短篇集で、連作ではなくて、全部独立している。7本どれも変わっていて、それぞれ面白かった。津村さん確実にメキメキ上手くなられてるなあ。凄い。頼もしい。進化しているって感じだ。
特に、最初の話を読みはじめてすぐに主人公が女性でもなく、著者よりずっと年上の世代ということが書かれている箇所を読んだときに「おやっ」と思った。わたしは津村記久子の著作を全部読んでいるわけではないが、それなりにチェックはしているので、珍しいなと感じたのだ。本書の短篇の語り手は世代も性別も全部ばらばらだけど、あまり同世代のひとはいない。下の世代ではなく、まだ経験していない上の世代を書いてある。ほほう、と思った。

以下、各話について思ったこと、連想したこと、感想など。

給水塔と亀
数十年ぶりに故郷に帰ってきた男性の目線で描かれる淡々とした話。懐かしさと目新しさの混じった好奇心のある目で静かな町を見つめているのが良い。こういう何事にも焦らない、ビールと思ったらビールだけを買って一日の買い物としてしまえる境地って良いよなあ。
給水塔といえば連想されるのは「給水塔占い」@フジモトマサル『二週間の休暇』。

二週間の休暇〈新装版〉
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フジモト マサル
講談社
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うどん屋のジェンダー、またはコルネさん
うどん屋で繋げてきたね、と思ったが初出はこちらが2年ばかり先なのだ。
これは『現代小説クロニクル2010~2014』というアンソロジーに収録されていて(数篇読んだだけで長らく放置してあるのでこのブログ上に感想は載せていない)既読だったがもう一回改めて読んだ。まあ、タイトルどおり、ジェンダーの話だ。田舎のそのへんのこういうメンタルのおっさんというのはいくらでもいそうなリアリティがある。
まあ、疲れてる時に、こういう店と知ってるなら、何故行ったんだ、という気がしないでもない。誰かに当たり散らしたかったんかねコンタクトレンズ屋のお嬢さん。気持ちはわからないでもないけど、あなたが受けた傷や、いま感じている後悔(ほかの罪のないお客さんに迷惑をかけたなとか)に比してうどん屋のオッサンが感じているそれははるかに、はるかーーーーーに低いと思うよ。やつらはそんな繊細さも反省も持ち合わせちゃいないのさ。
現代小説クロニクル 2010~2014 (講談社文芸文庫)

講談社
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アイトール・ベラスコの新しい妻
こんな考え方の人間がいるのか…それはもう、どうしようもないよね、矯正できそうもない、同じクラスにいたらかなり終わってる。
読み終わった後に、インターネットでアイトール・ベラスコの新しい妻について検索してみたくなっているのに気付いて、思わず我に返って苦笑。凄いな。津村さんがよく外国のスポーツ記事サイトを見るのを趣味にしているとエッセイに書かれているから、現実とごっちゃになっちゃったわ。リアリティ有り過ぎた。あと、娘さんはもう性格的にかなりひん曲がってるだろうから今からどうこう出来ないんじゃないかな、よっぽどのことがなくちゃ、だって困ってないからね本人は。

地獄
凄い、冒頭からのけぞっちゃったわ、地獄の話なんだー、比喩とかじゃなくて。
落語みたいだね。米朝師匠の「地獄八景亡者戯」を瞬間的に思いうかべたけど、また全然違う切り口で。生前やってしまった「業」に合った内容の苦行をノルマとしてこなしていかないといけないとか、担当の鬼がいるだとか。その鬼も悩んでたりデモデモダッテ星人だったり不倫してたりなんだか非常に人間臭い。でもちっともドロドロさせずユーモラスな感じで淡々と描いてある。面白いなあ。

運命
これも津村さんが何故だかしらないけどひとから道を訊かれる、とどこかで書いてらしたことを思い出してにやりとさせられる話。外国はまあ、そんな馬鹿なと思いつつもあるのかなという感じだがその先の展開には「ままままさかのSFかよ!」とびっくりするやら笑えるやら。最後の展開はちょっとその後にしちゃ、使い古された感あり過ぎな気がしないでもなくもない。初めてこういうの読んだとしたら斬新だと思うんだろうけど、もう昔から書かれまくってるから陳腐で。えーなんでって思っちゃった。なんであの斬新の後にこれ持ってきたんでしょう。

個性
こういうことって、本当にあるんでしょうか。こういう認識をされる方って実際にいらっしゃる?
これもひとつの「就活」小説、なんスかね。現代の「就活」のあの独特の感じがなかったら、この小説は成立しないもんなあ。はあー。
読みはじめたときはいったいなんの話かと思って、なかなか舞台とか彼らの立ち位置とかが掴めなかった。恋愛、とは違うのかな? 

浮遊霊ブラジル
表題作。すんごく不思議な変わったタイトルだったので、読む前に寝かせている間にいろいろ想像したりもしたのだが、こういう話だったかー。面白いねー。予想していたのより数段落ち着いているというか、老成している淡々とした話だった。しかもブラジルは真の目的じゃなかったとか…。何故「浮遊霊アラン諸島」「浮遊霊アイルランド」ではなく「浮遊霊ブラジル」なのだろうか。単語のすわりが良いからか。
浮遊霊アイルランド」。……なにがなんだかわからんな。まあ、「浮遊霊ブラジル」もわからんけど、陽気な感じでオバケさんがサンバでも踊り出しそうで、楽しそうだ。全然そういう話ではなかったけど。ユーモラスではあったけど。「浮遊霊アラン」だとアランって名前と勘違いされそうだしね。
ひとにとりついたときの語り手の視線とか、いろいろ現世のどろどろとかにあえてタッチしていかないところとかが、まあそこは深入りしたら話の雰囲気がおじゃんなので正解だが、取りついてるのにそんなに見ないでいられるのか、設定的に無理があるのでは、と勝手に気をもんだ。
どうでもいいけど市岡さんは男を見る目がないな。仲井さんの息子はちょっとどうしようもないな。これだけで全然別のはなしが1本出来そうだけど、書かないところが気持ちいい。