2016/09/04

大聖堂 THE COMPLETE WORKS OF RAYMOND CARVER 3

大聖堂 THE COMPLETE WORKS OF RAYMOND CARVER〈3〉
レイモンド カーヴァー
中央公論社
売り上げランキング: 321,040
■レイモンド・カーヴァー 翻訳:村上春樹
あえて全集で読むカーヴァーその2。1990年5月中央公論社刊。
この巻に収められているのは円熟期の作品で、『頼むから静かにしてくれ』よりも落ち着いている設定が多いせいもあり、読みやすかった。

目次、感想メモ。はイイネ! *は『傑作選』にも収録。

夢の残影 ―日本版レイモンド・カーヴァー全集のための序文 テス・ギャラガー
夫人にして作家によるカーヴァー作家論・作品論。

羽根 Feathers 
仕事仲間の家に夫婦で夕食に招かれる。妻は気が乗らずカリカリしている。友人宅には孔雀が放し飼いにされていた。そして八か月になる坊やは…。
最初はどういう話になるんだろうと思っていたが食事が済み、話が進んで坊やの描写になって唖然。でも話のまとまりかたには「まあ、夫婦ってそんなものなのかな」と妙に納得するような気も。なかなか一筋縄ではいかない味わいがあった。

シェフの家 Chef's House 
シェフといっても料理人じゃなくてそういう名前の、以前アルコール中毒だった男がいて彼が主人公の前夫に家を無料同然で貸してくれて、そこで夫婦が元鞘に戻って暮らしていたが…という話。上手くいくのかと思っていたがこの展開だとやっぱり駄目だったんだろうなあ。

保存されたもの Preservation 
仕事を解雇されてからソファーの上から離れなくなってしまった夫と、その妻。ある日冷蔵庫が壊れてしまい中のものがみんなどろどろに解凍されてしまって…。
冷蔵庫が壊れたから新しいのを買う、んだけどそれを中古で競売で買う、という発想が無くて、アメリカでは普通なんだろうか。なんというか、身も蓋も無いが、お金が無いって云うのは嫌なことだなあとしみじみと実感した。この夫婦だって夫の仕事が順調で、生活が安定していたらこういうふうにはならなかったと思う。

コンパートメント The Compartment
8年ぶりに息子に会うために列車で旅をしている男。コンパートメントを離れたあいだに時計が盗まれてしまって…。なんでこういう貴重品を身に付けないでウロウロするかな。
結局この主人公は息子に大して会いたくないのだ。家族だからって無条件に愛し合うわけじゃないんだ、ということが書いてあって「おー」と思った。

ささやかだけれど、役に立つこと A Small, Good Thing * 
これはすごく悲しいやるせない話で、でも「有り得る話」だから余計に胸にずんとくる。
読んでいると「なんできちんと名乗らないんだ」「事情を説明しないんだ」といらいらしないでもないが、実際は両方腹を立てていたりものすごいショックと悲しみの中にいたりするんだからこうなってしまうのもまたリアルなのかもしれない。
こういう内容で、このタイトルというのは、巧いと思う。カーヴァーの小説のタイトルに感じ入るとは…!

ビタミン Vitamins
ビタミンを売る商売をはじめた妻。上手くいっているように見えたのだが…。
夫が浮気をしようとする過程が実になんというか良心の呵責とかがいっさいなさそうで、倫理観が違う人間というものはこんななんだなとリアルだった。

注意深く Careful 
耳に垢がつまって聞こえなくなった夫、妻がオイルを温めて耳に注いでしばらく時間をおいてから耳を傾けると汚れが流れ出る…というくだりがなんだかぞわぞわするような、でもなんか気持ちよさそうな。面白い。「解題」で春樹氏も書いておられるが、日本人ではあんまり聞かない症状ですな。

ぼくが電話をかけている場所 Where I'm Calling From * 
アルコール中毒治療所での日常を描いた静かな作品。そこでの仲間JPの煙突掃除の娘との恋の話。最後の部分が淡々としていて、でも「彼女」への想いが伝わってくる。

列車 The Train
待合室での一コマ。よくわからないがなんだか苛々させられもする。

熱 Fever
妻が駆け落ちで出て行ってしまい、子どもの世話などに途方にくれる高校教師の主人公。ベビーシッターを頼んでみたが碌に子どもの世話もしないでボーイフレンドを連れ込む始末。そんなときに家政婦さんがきてくれることになり…。

轡 The Bridle
ミネソタから元農家の一家(夫婦と、十代の子どもふたり)がやってきて貸家に住む。夫が競走馬にのめり込んで一文無しになってしまったからだという。妻はこちらにやってきてウェイトレスを始める。この話の語り手は貸し手の管理人夫人で、美容室も開いている。この美容室の設定がなんだか商売毛が薄くて昔風でなんだか良い。酔っぱらって飛び降りて額を割るくだりはなんというか…酔ってただけなのか、人生そのものにやけっぱちになっていたのか。

大聖堂 カセドラル Cathedral * 
主人公の妻には独身時代に働いていた関係で盲人の知人(男性)がいて、家に招待することになった。主人公は妻と盲人の親しいつきあいがなんとなく面白くない。しかし3人で食事をし、マリファナを吸ったり話をしているうちに主人公の気持ちがだんだん緩やかになっていって…。
最後の目を閉じて彼が思うことがなんだか不思議な感じで、そういうふうに感じるものなのかと思った。

解題 村上春樹
初出一覧
レイモンド・カーヴァー、その静かな、小さな声 ジェイ・マキナニー
カーヴァーが大学で教えていた時の学生による思い出話など。カーヴァーってインタビューの録音機に残らないくらい声が小さかったとか書いてあってそんなひとが学校で教えられたのかな?とかちょっと思う。

付録<月報>
テス・ギャラガーの小説 高橋源一郎
夫婦ともに作家という例などからテスの小説の紹介など。
カーヴァーとサーモンと 宮本美智子
カーヴァーの担当編集者としたカーヴァーの思い出話など。

大聖堂 (村上春樹翻訳ライブラリー)
レイモンド カーヴァー
中央公論新社
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