2016/09/26

聖なる怠け者の冒険 【文庫版】

聖なる怠け者の冒険 (朝日文庫)
森見登美彦
朝日新聞出版 (2016-09-07)
売り上げランキング: 587
■森見登美彦
2013年5月出版された単行本を大幅に加筆修正した文庫版。
そもそもは朝日新聞夕刊に2009年6月から2010年2月まで連載されたものなのだが「単行本あとがき」によれば
【…全体として見れば「立て損ねた家」になった。
連載終了後、他の仕事や体調不良もあり、なかなか改稿にとりかかれなかった。どのように書き直せばいいのか、サッパリ見当がつかなかったためでもある。思いつくかぎりのありとあらゆる打開策をを模索した末、あらたに長篇を丸ごと1本書くしかないと覚悟を決めたのは二〇一二年五月のことであり、それから半年以上かけて執筆し、二〇一三年二月に書き終えた。
したがって、この新しい『聖なる怠け者の冒険』とは、タイトルと主要登場人物は共通しているものの、まったく違う小説である。
と書いてある。
実はこの単行本を買おうかどうかかなり迷ってチェックはしていたのでこの情報は知っていた。あまりに変わってしまったので朝日新聞出版のホームページに期間限定で掲載された「初出」の第1章分の原稿pdfも「ぽんぽこ仮面」もダウンロードしてあった(その当時はちらっとナナメ読んだ程度→今回文庫版読了後、きちんと読んでみたらなるほど、素材はかなり近いが文章は修正した程度ではなく「書き直し」たというのがよくわかる。部分的におんなじ所もあるんだけど。大変な労力だなあ)。
そして「文庫版あとがき」によれば
このたびの文庫化にあたっては、本文にかなり手をくわえてある。文庫化にあたって作品をいじくるのは好きではないが、今回だけはお許しください。
というのは、『聖なる怠け者の冒険』は朝日新聞の連載終了後、たいへんな苦労を経て出版にこぎつけたものである。愛着が湧いて削ることができず、結果として冗長になってしまった。「アンタもともと冗長な作風じゃないか!」と言われると返す言葉もないのだが、「私なりに居心地の良い冗長」というものがあるのだ。そういうわけで、できるかぎり削ることにしたのである。
物語は変わっていないので、その点はご安心ください。
とある。
kindleでは冒頭数ページが試し読み出来るので、試しに単行本の試し読み部分と照合してみると、確かに内容を変えずに、くどくなっている部分を削ってあって、なるほどなと思った。
ちなみにこの文庫版は初回限定で「リバーシブルカバー」で「著者からのメッセージカード」(全4種類のどれか1枚)が挟んである。リバーシブルは単行本と同じ表紙と、ぽんぽこ仮面のイラスト。
「著者からのメッセージカード」は本文の中に出てきた教訓(?)の著者手書きを印刷したもので、次のどれからしい。
転がらない石には苔がつく。やはらかくなろう
僕は人間である前に怠け者です
役に立とうなんて思い上がりです
人生いたるところに夏休みあり

さて、本書の内容の感想であるが、なんだかとっても書きにくいというか、書くことが思いつかない。
困った時の必殺箇条書きをしてみよう。
①いつものモリミーワールドだった。
②このひとほんま宵山好きやな。
③このひとほんま狸好きやな。
④せやけど既読のいままでのモリミー作品から一歩も抜け出てへん。
⑤むしろ『宵山万華鏡』のほうが出来が良かったんちゃうん。
まああなんのかんので面白かったから昨日今日で読み終わってしまったんであるが。
⑤は趣味の問題かも……。
「あとがき」にも書いてあったのだけど本書は『宵山万華鏡』と『有頂天家族』とリンクしている。別に単独で読んでなんの不都合もないと思うけど2作を読んであると「ああ、あれか」と分かる。

特に面白かったのは無限蕎麦の話と座布団いっぱいのところで眠っちゃうところと、あと終盤五代目と対面してからの怒濤のモリミー・ワールド炸裂する展開。
②からいきなり方言になってしまったのは本書が京都が舞台だからというわけではなくてわたしの地言葉だからである。そういえば他がどうだったかは記憶が確かでないのだが、本書で見る限り、登場人物たちは全然方言を話さない。訛らない。標準語を喋っている。イントネーションまではわからないが。
だけど地名とか具体的な通りの名前とか建造物の名前は全部リアルに京都に実在しているとおりに書いてある。何故、京都弁を喋らさないのだろう、たぶんどこかでインタビューで答えているんだとは思うが…。

冒頭に「むかしむかし。といっても、それほどむかしではないのである。」と書いてあるのだが読んでいる途中はそのことを忘れていた。何故なら全然読んでいて昔を感じさせないから。登場人物たち、携帯電話で喋ってるからね…。

ぽんぽこ仮面の正体は物語の中盤で明かされる。こんなに早く明かされるとは思っていなかったのでちょっとびっくりした。そしてそのひとがぽんぽこ仮面になろうと思った動機がだんだんわかってくる。あー切ないなー。でもまあ、普通はここまでしないよね。年齢も考え合わせるとけっこうびっくりだ。

「アルパカに似ている」五代目はそうは云っても人間なんだから人間の顔をしていると思うんだけどフジモトマサルの絵がまったくアルパカそのものを描いてあるのでそれしか頭に浮かんでくれない。あはは。物語の最初に主な登場人物の絵が載っている。楽しい。

実はフジモトマサルによる本書の『挿し絵集』だけずっと前に購入して、「いつか小説を読み終えたらこれもじっくり見よう」と本棚に大切に保存してあった。というわけでこれでやっと、やっと『挿し絵集』を見ることが出来る…!(まあ、挿し絵は新聞連載に合わせてあって、単行本・文庫の内容とは随分違ってしまったから挿し絵集見てもあんまりわかんないのかもしれないが)。

柳小路と八兵衛明神には是非近いうちに手をあわせに参りたいものだ。「なむなむ」。

聖なる怠け者の冒険 挿絵集
フジモトマサル
朝日新聞出版 (2013-05-21)
売り上げランキング: 110,012

宵山万華鏡 (集英社文庫)
森見 登美彦
集英社 (2012-06-26)
売り上げランキング: 70,381

有頂天家族 (幻冬舎文庫)
幻冬舎 (2010-11-12)
売り上げランキング: 337