2016/09/17

スタッキング可能

スタッキング可能 (河出文庫)
松田 青子
河出書房新社
売り上げランキング: 44,836
kindle版
■松田青子
これは2013年1月河出書房新社より単行本として刊行されたものに、書き下ろし短篇(「タッパー」)と穂村弘氏による文庫版解説を新たに収録した文庫(2016年8月80日初版)の電子書籍版である。

収録作品は以下の通り。
スタッキング可能
初出「早稲田文学」5号(2012年9月)
マーガレットは植える
初出「早稲田文学」記録増刊 震災とフィクションの“距離”(2012年4月)
もうすぐ結婚する女
初出「早稲田文学」増刊π(2010年12月)
ウォータープルーフ嘘ばっかり!/ウォータープルーフ嘘ばっかりじゃない!
初出「早稲田文学」増刊wasebun U30(2010年2月)「早稲田文学」3号(2010年2月)「WB」vol.019(2010年4月)
タッパー
書き下ろし

この方の小説は本になっているのを読むのは初めてだが近作「おばちゃんたちのいるところ」が電子書籍版の雑誌「アンデル」に連載されていたので創刊号と2号分は既読。そのときに「あんまり合わないかも」と思ってしまったのだが先日旅犬さんから同氏のエッセイが面白いとオススメされ、検索したら以前から気になっていた本書が文庫化&文庫版の電子書籍化されていることを知り、良い機会だから読んでみることにしたのであった。読んでみたら「おばちゃんたち」2回はよくわからなかったのにこちらは最初からかなり面白くてびっくりした。どんどん読んだ。

スタッキング可能」というのはデジタル大辞泉にあるように【積み重ねること。特に日本では、揃いの食器・家具などを積み重ねることをいう。】ということで、表紙のイラストのような感じなのだが、この小説で描かれているのは「積み重ねられている」ということもそうだがそもそもそれは「同じ形をしているから(積み重ね可能)」なのでありその「同じ形をしている」→「おんなじようなことみんな言ったりしたりしてる」→「積み重ねても、入れ替えても、変わんないことになってるよ」ということが風刺的に書かれている。
というと小難しそうな理屈っぽさをイメージするかもしれないが、ひとつのビルのそれぞれの会社の社員同士の何気ない会話や思考を使って書いてあるからすごくわかりやすい。リアル、かどうかは知らないがまあいかにも雑誌やテレビに出てきそうなステレオタイプなバカ騒ぎをしていたり、OLどうしの会話があったり、小さな小競り合い、セクハラ、ジェンダー問題、うわべだけの会話の下の思考、なんかが重なり合っている。一面だけではなく数パターン書かれることによって多角的な観察ができ、面白い。

ああまさにその通りのヤツ、昔いたわ! と物凄く共感した部分引用。
あの男性社員はなんでもセクハラで済ませばいいと思っている。そう女子社員たちが話しているのをトイレ掃除をしている時に聞いたことがある。(略)ほかの男性社員が女子社員にくだけた調子で話しかけると、ちょっと踏み込んだ質問をすると、女子社員が答えようとする前に、一緒に笑おうとする前に、こう言う。「おまえ、それセクハラだぞ」「おいおい、セクハラやめろよな」そして理解してますよみたいな調子でこう言う。「セクハラですよって言った方がいいぞ」「なあ、セクハラだよなあ。まったく困った奴らだよな」。セクハラでも何でもない時も。女子社員の一緒に笑おうとした口元がしぼむ。心が少しだけ冷える。


マーガレットは植える」というのは恥ずかしながら穂村さんの解説を読むまで気付かなかった……ああそうだマーガレット・ハウエルじゃないかー! わーまさかの駄洒落だったー! マーガレットハウエルの靴お気に入りだったのにっ。ブラウスも好きなのにっ。
ちょっと前衛的な、言葉遊び的な作品。どんどんエスカレートしていくパターン。
マーガレットハウエルのブランドイメージと重ねてみる、っていうのもあるよね。

もうすぐ結婚する女
「もうすぐ結婚する女」は複数の、そういう集合体を描いてあるのかと思って読んで行ったらごく個人の単体のことで、そうかと思って更に読み進んでいくといつのまにか違う「もうすぐ結婚する女」のことが書かれていて、やっぱり複数のことなのだけど、まるで単体のように、いろんな「もうすぐ結婚する女」と語り手(これも複数)との思い出話などが描かれる、これもある意味「積み重ねられて」いく。
何故「集合体」だと思ったのかともう一度文章を読み直したら冒頭2行目に
もうすぐ結婚する女はビルの最上階にいる。
と書いてあり、これかと思った。仮に、
「もうすぐ結婚する女はマンションの最上階に住んでいる。」
と書いてあったとしたら、単体だと思っただろう。
「マンション」「住む」と言う言葉は使わないルールなのかと思ったら同じ話の後半に【幼少期家族で住んでいたマンションは八階建てだった。】と出てくる。意図的なのだ。
「ビル」は「生活」を連想しない。買い物をしたり、仕事をしたり、あくまで一時的な滞在をする場所、という気がするのだが、一般的にはどうなのだろう。
「もうすぐ結婚する女」が住んでいる建物の描写がとても良い。壁の色とか、内装とか。真ん中に主役のような階段がある。この階段についての描写がまた素晴らしいので引用する。
この階段のためにこのビルは存在していると言っても言い過ぎではないくらいの存在感である。黒い手すりがどこまでも従順に寄り添っている階段の色はくすんだ白、場所によっては灰色が混じり、まるで太古の恐竜の骨を思わせる。恐竜みたいだと言いつつも、特に恐竜にくわしいわけでもないので種類はわからないが、ずおーんと首が長い恐竜が私のイメージである。肉より草を食べていそうな恐竜である。やさしめな方である。恐竜は優雅に首を伸ばし、もうすぐ結婚する女がいる部屋まで私を連れていってくれるはずだ。

ウォータープルーフ嘘ばっかり!」と「ばっかりじゃない!」はABの30代OLふたりが気炎を吐いている会話形式の作品。化粧品メーカー「ちふれ」ってえっ、そうだったの?と思わずググってしまった。そしたら本当だった。
ウィキペディアより引用
全国地域婦人団体連絡協議会(ぜんこくちいきふじんだんたいれんらくきょうぎかい、全地婦連)は、日本の女性団体の一つ。
戦後、地域の婦人会組織をつなぐような形で、1952年(昭和27年)7月9日に結成された。当初は原水爆禁止運動や沖縄返還運動など、政治的な運動の色合いが強かったが、1970年頃からは電気製品の二重価格表示の実情調査や、低価格化粧品「ちふれ化粧品」を送り出すなどの実績を持つ。
わーそうだったんだー。ちふれの化粧品を使ったことはないんだけども。

タッパー」は、停電の知らせがあり、冷凍室で保存しているいくつものタッパーを出してどうしようかというところからどんどん連想・空想が広がって行った、というのが時系列的に逆方向から描いてある。ちょっとファンタジックなSFっぽい話でキレイだ。映像化したら面白いんじゃないかな。

松田さんは1979年生まれで、ウィキペディアによれば契約社員として働かれた経験もおありで、現代の日本の会社で働く女性が周りから受ける干渉とかそういうのを実感としてお持ちなんだな、だからこういう作品が出てくるんだなと非常によく理解できた。一昔前の男女差別とはまた違う、このなんというか気持ち悪い真綿で首を絞めるみたいなのがね…。
また、同項を読んで、amazonの単行本の紹介記事にあるそうそうたる作家陣による推薦コメントにも納得がいった。

kindle版なのに解説がきちんと収録されているのが有難い。

マーガレット・ハウエルの「家」
マーガレット ハウエル
集英社
売り上げランキング: 47,698