2016/08/20

頼むから静かにしてくれ THE COMPLETE WORKS OF RAYMOND CARVER 1

頼むから静かにしてくれ (THE COMPLETE WORKS OF RAYMOND CARVER)
レイモンド カーヴァー
中央公論社
売り上げランキング: 150,706
■レイモンド・カーヴァー 翻訳:村上春樹
以前に積読記事で触れた本に先日ようやくとりかかった。翻訳修正も入った読みやすい安価な新書版が出ているのは百も承知のあえての「全集」である。
全集名は"THE COMPLETE WORKS OF RAYMOND CARVER"。
1991年2月に中央公論社(現在は中央公論新社)から出ていて、短篇22篇収録で、¥3,780円である。
ちなみに新書版は分冊になっていて、[1]が2006年1月刊:13篇収録 [2]が2006年3月刊:9篇収録、各¥1,080、2冊で¥2,160である。こちらは中央公論新社刊。社名が違うのは以前にも触れたけどウィキペディアから引いておく。【中央公論社は1990年代に経営危機に陥ったため、読売新聞社(現 読売新聞東京本社)が救済に乗り出し、1999年に読売の全額出資によって中央公論新社が設立され、営業を譲り受けた。
装丁・和田誠。


なお、『Carver’s Dozen―レイモンド・カーヴァー傑作選』というのが単行本は中央公論社から1994年12月に、その中公文庫版が1997年10月に刊行されており、『頼むから~』からは4篇(※)収録されている。わたしは文庫本で既読。
『傑作選』を読んだときにも「ファンにはならないなあ」と思ったけどつまり好みの問題で。小説としては悪くないと思う。なにが云いたいのかなあとか思う作品も無くは無いけど、まあこれがカーヴァーの世界なんだろう。
巻末に「解題」というのがあって1つ1つに解説がついている。有難い。収録順じゃなくて書かれた順になっているので1篇読むごとに後ろをぱらぱら探して改題を読む。なるほどね、と思うこともあれば、やっぱりよくわからないなと感じることも。


目次、感想メモ。はイイネ! *は『傑作選』にも収録。
でぶ Fat * 
言い訳をしつつも大量に食べる太った客の話。お店にとっては良いお客さんだと思うんだけどなー、別にマナーも悪くないし。でも店員とかも冷笑しててイヤ~な雰囲気になっている、蔑んでいるっていうか。明るく、陽気に「いやあ、美味いなあ、わたしは胃が丈夫でねえ、いくらでも食べられるよ!」っていうキャラだったらこうはならないよね。別に食べるのは悪じゃないのに「いやそんなに食べないんだけどね…」って恰好付けたがる客。こういう空気って知ってるなあ…っていうのを描いてある。

隣人 Neighbors
自分の家より生活レベルが高めの隣人の留守を預かった主人公側夫婦がどんどんエスカレートしていく話。破廉恥というか恥を知れというか、最後これは…猫どうなるの?エサあげられなくなったってことでしょ?最悪だな…。

人の考えつくこと The Idea
これは一読して意味がわからなくて「解題」を読んではあー。つまり、夫婦で変態なのです。でもそれを見ている側の夫婦もどうかっていうお話。放っておいてやれよ。

ダイエット騒動 They're Not Your Husband
この夫最悪!これに尽きる! っていうか笑い者になるほど太ってたんなら数キロ落としたって体型変わらなくないか。新書版では「そいつらはお前の亭主じゃない」という原題に忠実な邦題に変更になっているらしい。

あなたお医者さま? Are You a Doctor? * 
変な女からの電話の話。相手が気が違っている?お色気が絡んでいるのかなあ…よくわからん系。

父親 The Father 
赤ちゃんを囲んで家族が「誰に似てる?」と話している和気藹々とした話だったのが最後のところでひょえーなんかとんでもない地雷を踏んだってことですか?怖ー。

サマー・スティールヘッド―夏にじます Nobody Said Anything * 
可愛げの無い子どもではあるが、小学生の利己的男子なんてこんなものか。外で高揚して帰って親の機嫌が悪くてどん底に落とされるっていう経験は身に覚えがあるなあ…。最後、きらきらしていたニジマスが母親の目に映った蛇のように気味悪い存在に成り果てるところが凄い。

60エーカー Sixty Acres 
広い土地を所有する男が密猟している者がいると密告を受けて揉め事とか面倒くさくてたまらないという感じで出かけて行って、つかまえてみたら少年で、あーもう後味悪いしなんだかな、って話。この主人公の心の動き、気持ちはすごくよくわかる。

アラスカに何があるというのか? What's in Alaska?
ある夫婦がもう一組の夫婦に誘われて水煙草でドラッグを吸ってぐだぐだ話をする。よくわからない。

ナイト・スクール Night School
優柔不断男の話。酒場で知り合ったおばさんたちに強引に誘われて車を出すことになったけどそれは自分の車ではなくて父親の車で、案の定父親に叱られたら見事にばっくれるという…十代なの?って感じ。なんかカーヴァーの小説に出てくる男って責任感とか誠実さとかをハナから放棄してるって感じのが多いなあ。

収集 Collectors *   
ダメ男の話。そこで返してもらうとか一度確認するとかしないところが万事がその調子なんだろうなという感じ。なんだかでも謎めいているし、お話としては面白い。どういうことだろう? と、真相をあれこれ推理したくなるという余韻がある。

サン・フランシスコで何をするの? What Do You Do in San Francisco?
郵便配達夫の視点から都会からやってきたワケありっぽい若い夫婦を見た話。こういう、妻に裏切られた系の話が多いなあ。

学生の妻 The Student's Wife
この奥さん、なんだか可愛らしいけど、でもまあ我が儘というか危うい感じはするなあ。不眠まではいかなくとも、眠れない夜っていうのはまさにこういう感じ、夫の立てる音とかにもじたじたしちゃうんだよね。

他人の身になってみること Put Yourself in My Shoes 
どういうこと?と頭に疑問符を付けながら読み進み、事情がわかるくだりで今までの違和感が氷解する。最悪な夫婦だなこの主人公側。さっさと帰れよ。っていうかよくのこのこ顔が出せたわねえ。お詫びもしないのか。

ジェリーとモリーとサム Jerry and Molly and Sam
「解題」にもあったけどなんでこの題名なの? これもダメ男だね。犬を捨てて来なくちゃいけないと考えた理由があるのかと思ったら無いのか。想像力無さすぎ。子どもも犬も気の毒だ。

嘘つき Why Honey?
手紙形式、読みやすかった。これはカーヴァーぽくなくて、ちょっと気の利いたショート・ショート集なんかに入ってそうな雰囲気の短い話。

鴨 The Ducks
なんていうか、カーヴァーっていうひとはこれに限らず題名をつけるのが致命的に下手なんではないの? と思わざるを得ない。夫婦がいて、夫が猟をしたりするシーンもあるんだけど、でもそういう話じゃなくて。勤務先の製材所のボスが心臓発作で突然亡くなって、その日はさすがに仕事場が休みになったとかそういう話を夫婦でしている。しんみり。最後の、正体不明の音についての台詞も、音そのものがどうこうというより、夫と妻の関係をさりげなく表していて上手い。

こういうのはどう? How About This? 
田舎に住んでやり直そうぜと都会育ちの夫が言って、妻は田舎出身で都会に来た身だし、夫の性格なども把握しているから「まあ無理だな」ってわかってるんだけどとりあえず夫の意志に従ってみて、夫は実際田舎の家を目にして「無理」って悟るんだけど言い出した手前自分から帰れない的な話。ほんと碌な男が出てこんな。ありそうだけど。でも最後のシーンで奥さんが側転をしたりしてるのがなんだかカーヴァーの小説にしては珍しく明るい雰囲気で、ほっとした。

自転車と筋肉と煙草 Bicycles, Muscles, Cigarets
少年であるの息子同士のトラブル。友達の自転車を乱暴に扱って壊したとかなんだとか、まあありそうな話である。壊した側の父親のひとりが全然反省してなくて自分ところの息子は巻き込まれただけみたいな露骨な態度を取っているのが腹立たしいというか、でもこういう親もいないとはいえなさそうな。で、親同士で殴り合いまで発展する。あーメンドクサイ。馬鹿な親どもが。

何か用かい? What Is It?
お金が無くなり、借金のカタとかでいろいろ持って行かれて2台所有している車のうちコンヴァーティブルを売らないといけなくなった夫婦。冴えない夫が売りに行くより、女としての魅力がまだ十分の肉感的な妻が売りに行くのだけど…。
またしても「ダメ男」「金欠」「妻の不貞」がテーマ。なんだかなあ。この妻が良いとは云わないけど、うじうじしてる夫だなあ。

合図をしたら Signals
夫婦で仲良くちょっと良いお店でディナー、なのにまたも不穏な空気に。これも夫側が苛々したりぐずぐずと卑下したりするせいだ。そりゃあこの店のサービスが行き届いていない点も無いとはいえないけど。なんでそんななの? って云いたくなる。

頼むから静かにしてくれ Will You Please Be Quiet, Please?
読んでいて鬱々としたり、鬱陶しさを感じたり、貧乏とか暴力とか嫌だなあとげんなりしたり、女々しい男だなあとうんざりしたり。スカッとする話ではない。なんで奥さんに訊くかな? 奥さんもなんで正直に言っちゃうかな? まあ不貞がすべての原因であり、夫や妻を裏切る行為はしてはいけない、そんなことするからこんなことになるんだということだが、この話はそういうことを言いたいのではなさそうだ。子どもさんがかわいい盛りなんだからなんとかならんのかねえ。

解題 村上春樹
初出一覧

不死身なるもの ウィリアム・キトリッジ
カーヴァーと親交があった作家の、思い出話風のエッセイ。カーヴァーファンにはたまらないのだろうが、あまり興味がないので斜め読み。

付録(全集の月報みたいな挟み込みの別紙)
詩人レイモンド・カーヴァー 安西水丸
安西さんの感想。 
スカイハウスにて 黒田絵美子 
カーヴァーの奥さんテス・ギャラガーも作家だそうで(ググったら新潮クレスト・ブックスで見たことある!未読なので読んでみようかな。※追記ググったら既に絶版だった古本は…気が進まないなあ電子書籍化か文庫化しないかなあ)、その作品の翻訳をしている黒田さんがカーヴァー死後に奥さんに会いにワシントン州の家に行って滞在したときの話。予想したよりもずっと明るくて朗らかな雰囲気の家だったみたいで、奥さんがカーヴァーを想い、カーヴァーが奥さんを大事にしていたことが伝わってくるエピソードがいくつもあり、なんだかほっとしたり嬉しくなったりした。これは良いものを読ませてもらった。作品の中の夫婦はいつ破綻してもおかしくない感じなんだけど、現実がモデルってわけじゃないってことか。※追記。テス・ギャラガーと出会ったのは『頼むから静かにしてくれ』出版後、最初の妻と別居後だとウィキペディアに書いてあった。最初の結婚は1957年・19歳のとき~1976年38歳のときの約20年間。

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