2016/07/15

鶴は病みき

鶴は病みき
鶴は病みき
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(2012-09-27)
kindle版
■岡本かの子
『鶴は病みき』初出:「文学界」1936(昭和11)年6月号
芥川 龍之介のことを書いたモデル小説として有名だそうだが恥ずかしながら初読み。
芥川は1892年(明治25年)3月1日生まれで1927年(昭和2年)7月24日鬼籍に入った。
この小説では芥川が「自殺する五年前のひと夏」の話と書いてあるので、芥川30歳前後。かの子33歳前後のときの話と考えられる。

夏目漱石以外は仮名で書いてあるのだが後半に出てくる作品名が芥川の作品名そのままだったりしてモデルが誰かは容易に特定できる。谷崎潤一郎の妻の妹で『痴人の愛』のモデルであるせい子も「赫子」として登場する。芥川が妻子は家に置いて避暑にきている先に谷崎の妻の妹にして愛人がしょちゅう入り浸っていたとはなあ。うーん。やっぱナオミ嫌いだわあ。

鎌倉のこの部屋貸しではお隣さんだったので芥川の部屋への女出入りが盛んだった様子が逐一描かれている。
わたしは芥川が好きだが、この話に出てくる芥川像はあまり意外ではなく、あそこまで神経質な作品を書くひとであればこれくらい付き合いにくい難しいひとだったというのは納得できる。
ただ、岡本かの子の考え方もちょっと意固地だったり嫉妬まじりだったりで意地悪な見方が全然入っていないとは思わない。ただ、かの子が積極的に嘘を書いたり悪く書こうと思って書いたわけではないとは思う。
晩年の芥川が痩せて頬に皺が出来て頭髪も額が深く禿げ上がり、子どもに「お化け」と間違えられるような容貌になっていたというくだりは凄まじいものを感じた。

何という変り方! 葉子の記憶にあるかぎりの鎌倉時代の麻川氏は、何処か齲んだ黝さはあってもまだまだ秀麗だった麻川氏が、今は額が細長く丸く禿げ上り、老婆のように皺んだ頬を硬ばらせた、奇貌を浮かして、それでも服装だけは昔のままの身だしなみで、竹骨の張った凧紙のようにしゃんと上衣を肩に張りつけた様子は、車内の人々の注目をさえひいて居る。葉子は、麻川氏の病弱を絶えず噂には聞いて居たが、斯うまで氏をさいなみ果した病魔の所業に今更ふかく驚ろかされた。病気はやはり支那旅行以来のものが執拗に氏から離れないものらしい。

読みながら気持ちが暗くなり、読み終えたあともいつまでもあれやこれやと思い沈んで鬱々としてしまうような描写、内容だった。読んでなんとなく感じたのが「これは岡本かの子の<復讐>なのではないか」というなんの根拠もない直観だった。復讐の相手は芥川というのも無くはなく、でも同時に「我こそが芥川と親しかった」と思っているであろう自分以外の「美しい」女性たちへの。
私と芥川さんは男女の仲では無かったけれど、魂では通じ合っていたのよ、近い考え方を持っていたのよ、だからこそあんな意地悪を受けもしたのだわ、と…。
変に解釈しすぎだろうか。
でもなんか攻撃的なものを感じたんだよね…単純に「懐かしがってる」とかそういうんじゃ絶対ない。もっと複雑な。愛憎入り混じった芥川。
いままで読んだいろんなひとの「芥川像」の中で一番美しくなく、意地悪で、でもやっぱりどうしようもなく惹かれる魅力があったんだろうな…とリアルに感じられる芥川がそう、まさに「生きて」いた。

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