2016/07/14

小説家の四季

小説家の四季
小説家の四季
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佐藤 正午
岩波書店
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■佐藤正午
紙の本。今年の2月に出ていたのを、堂島のジュンク堂書店に別の単行本を探しに行ったついでに本棚を流し見しているときに見つけ、「おおこれは!」と喜んで購入。
単行本は通勤に持って行かないので在宅のときにぼちぼち読んだ。
去年再読していた『ありのすさび』『象を洗う』『豚を盗む』に続く、最新エッセイ集。
2007年秋から2015年夏までの日々。

エッセイなのに続いているのが面白い。続いていなくても内容的に全然アクティブでなく、インドアで、淡々とした日常が、夏が来るたびに「暑い」「昼食はそうめん」と同じ話題が繰り返されるのが、妙に面白い。「同じ話題を毎年している」ということをネタにして少しずつ変えたり、言い訳めいたことを言ってみたりと遊んで(?)らっしゃるのが安心して読めるのだ。
毎日のエッセイじゃなくて季刊なのに悠長に(この言葉は通常非難めいた響きを持つがこの場に限り褒め言葉としたい)、律儀に前回の続きから話が続いているのだ。なにもかもが目まぐるしくどんどこどんどこいろんな情報が更新されていく中でこのペースは凄い。まあ、わたしはネットでは読んでおらず今回単行本で続けて読んだわけであるが。
なお、最新の日記は岩波書店のホームページ「小説家の四季」で2016年「春」「夏」が読める。「春」は完全に本書の内容を受けた「続き」だった。自分で「謙遜であるが」なんて書いちゃってちょっとどうかと思わないでもないがもう大御所だからありなんだろう。

この方の小説は随分昔に2作(1998年『』2000年『ジャンプ』)をどちらも単行本で読んだ限りで内容も忘却の彼方だし、近著の評判やストーリーが風のうわさで流れてきても(ドラマ化されたりして有名だもんね)食指が動かないのだがエッセイは読みたいと思う。
1955年生まれで現在60歳、競輪がお好きな模様。

以前のエッセイでは「いつでも手書きに戻れる」とか書いていらしたが、本書の中でワープロからついにそれが在庫切れとなりパソコン入力となり、いまや手書きには戻れない…という内容が書いてある。まあそうだろうなあ。
編集者に聞いたらまだ何人かの作家さんは手書きらしかったがその面々に自分が入るというのは…というくだりでいったいどういうメンバーなんだろうと好奇心がわいたり。編集者のほうもデータでもらうほうが圧倒的に効率が良いだろうからなあ。
小説を書き上げてもすぐに雑誌に載る前のゲラの手直し、単行本化の際のゲラの手直し、と何度も読み直すことになり、読み返すたびに修正点は出てくるので最後まで書いた時点で仕事が終わった感はあまりないのだとか。句読点をどこに打つか、言葉の順序の入れ替えなど迷うところはたくさんあり、考え出すといくらでもあるらしい。

いまは「さん」をなんにでもつけるのが当たり前になったが20年くらい前はそうではなかった、その時代に「作家さんはどうぞこちらへ」と言われて腹が立った話、これは言葉だけでなくその場に置かれた本人の気持ち、周囲の状況、発言した人間の表情・動作・雰囲気など全部ひっくるめてみないと伝わらないところもあるだろうが、じゃあなんと呼ばれるのが正解だったのかは書いていないんだよね。若い、駆け出しの作家なのに「さん」付けされてバカにされたと感じたそうだから「作家先生」だとますます嫌味に感じただろう。よくある「佐藤先生」でも同じか。「佐藤さん」くらいが良かったのか?主催者が「作家はこちらへ」というのも変だしなあ。

そういえば先の佐藤正午のエッセイにはすごく印象的なスパゲティのレシピが出てきたが今回も出てきた。実在するんだねそのひと、ってなんかしみじみ思っちゃった。

内容的に『小説の読み書き』に触れている箇所がいくつかあり、あちらの再読もしたいと思った。

目次
Ⅰ小説家の四季
2007年秋(冷蔵庫理論)/2008年冬(ほくろ理論)/春(ワープロ)/夏(パソコン)/秋(ボル)/2009年冬(ボル2)/春(未知との遭遇)/夏(ボル3)/秋(ホワイトボード)/2010年冬(透明感のある文章とは?)/春(椅子)/夏(老眼鏡)/秋(幸運について)/2011年冬(二十年後のスパゲティ)/春(黒髪)/夏(黒髪2)/秋(副産物)/2012年冬(節電)/春(ならば)/夏(頭書)/秋(皿の謎)/2013年冬(喪服)/春(貰い水)/夏(手紙)/秋(手紙2)/2014年冬(お休み)/春(文豪病)/夏(さんづけの時代)/秋(作家さん)/2015年冬(背文字の人)/春(サイン会観)/夏(理想型)

Ⅱ作家の口福
僕の一日/作家の口福/目覚まし/“結婚”と書いて“ゴミ袋まであさる” と読む。

Ⅲ文芸的読書
文藝的読書/いんぎんといんげん/私事―野呂邦暢『愛についてのデッサン 佐古啓介の旅』/現実―盛田隆二『夜の果てまで』/本気―伊坂幸太郎『残り全部バケーション』/きのう読んだ文庫―吉田修一『横道世之介』/二戦二敗/忍者/夢へのいざない/道のり
 

あとがき―いつものように
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