2016/06/27

三の隣は五号室

三の隣は五号室
三の隣は五号室
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長嶋 有
中央公論新社
売り上げランキング: 21,141
■長嶋有
紙の本。単行本。

‏2016~1966年の計50年の間に第一藤岡荘の五号室に住んだ、13世帯のそれぞれの日常の断片シーンが時系列ごちゃまぜであるテーマごとに描かれていく不思議な小説。実験的というか、どういう読後感になるんだろうかという自分でも予測不可能な感じで読んでいったが最後まで読むと何故かしみじみとした感慨を覚えた。人間の日々の営みの蓄積を読みこんでいくうちにそうなったんだろうか。別に誰かに肩入れとかはない。五号室の住人がメインだが、他の部屋の住人やタクシーの運転手なども出てくる。

装丁(大島依提亜/装画:田幡浩一)が素晴らしい。
装画はそんなに惹かれるものはなく、最初地味な装丁だなと思ったのだが、カバーの下が端からチラ見えるのだけどそれが妙にツルツルしたベージュ色で、カバーをはがしてみたら家具によくある合板のあの木目調になっていて、真ん中にまた装画があって、こちらはカラーなのだった。ほんっとつるつるで面白くて思わず撫でてしまう。図書館本だとカバーは外されるからこのギャップみたいなのが伝わらないんだろうなあ、などと余計な心配(?)も。まあカバー外してびっくり、の最初は東野圭吾『秘密』だったけどね…あれも「地味な表紙だな」と何気なく外してびっくりした。
あと、表紙開いてすぐ飾り表紙とか中表紙も目次も無くていきなり本編がはじまっていて、そういうことなのかなと思っていたら第1話が終わったところで黄緑色の中表紙が出てきたので「おー、プロローグじゃなくて第1話だけどこういうのやるんだ」と面白がった。映像作品ではお馴染みの手法、アバンタイトルとか云うらしい。これも装丁の一環らしい。本づくりって面白いなあ。しかもその裏に見取り図が。おお、文章で頭の中で作っていたけどこれは親切だなあ。そしてこの後にようやく目次が出てくる。
第一話 変な間取り
第二話 シンク
第三話 雨と風邪
第四話 目覚めよと来客は言った
第五話 影
第六話 ザ・テレビジョン!
第七話 「1は0より寂しい数字」
第八話 いろんな嘘
第九話 メドレー
最終話 簡単に懐かしい

ツイッターから関連個所をコピペ。
【長嶋有情報 ‏@nagashimajoho 6月20日
当初、大島さんは硬い表紙をめくったすぐの、その硬いところからもう第一話を始めたらとアイデアを出しました。それを受け、第一話の冒頭の三輪密人のくだりを長嶋は加筆したのでした(硬いところを文章がまたいだ方が面白いと)。諸事情で叶わず残念。

大島依提亜 ‏@oshimaidea 6月20日
その他、『三の隣は五号室』に出てくる変な間取りの一室よろしく、造本の資材としては普通だけどややズレた使い方で変に見えれば良いなという地味な試みをコソコソやっているので(田幡さんの巧みなブレの力を最大限にお借りしつつ)本屋さんでチェックしてみて下さい。

長嶋有情報さんがリツイート
大島依提亜 ‏@oshimaidea 6月20日
自明のことなのかもしれないのだけど、映画におけるアバンタイトルのあり方はまさしく映画を包む装飾要素なのだなと、本の装丁をしていて気づかされたのでありました。

長嶋有情報さんがリツイート
大島依提亜 ‏@oshimaidea 6月20日
映画のアバンタイトルのような流れを小説の装丁で試みれないものかと『三の隣は五号室』では、前見返しのみ本文用紙と共紙にし、唐突に本編を始めて、本扉の位置はしかるべきところに…というような構造にしているのですが、はたして伝わるかどうか前もって読んでしまっている自分にはわからず。】

内容は、ストーリーらしきものが無くて、だから「アラスジ」とかが非常に書きにくい話だと思う。
時系列順じゃないので最初のほうで「こうだった」と大まかに書いてあったことが、読み進んでまさにその「当時」のときに話が巡ってきたときにはじめて詳細が語られる、みたいなことが何度かあって、頭の中にこの部屋で起こったことが少しずつ積み重なっていく、そしてより詳細な描写がでてきたときに情報が上書き挿入されていく。
登場人物の名前が済んだ順番に数字の絡んだ苗字と名前になっているのでわかりやすいが実際にはこういうことは有り得ないのでまったく「小説的な」記号に徹されているのかもしれない。
この小説は「アンデル」創刊号から連載されて、創刊号と第2号は電子書籍で既読だったのだが単行本で読みはじめて2人目の登場人物が出てきたときに「四元志郎」だったので「あれ?」と確認したら「アンデル」のときは「四谷光」だった。より数字の強調された名前になっていて、著者の思惑がくっきりした。

大家の息子の大学生の一人暮らし。夫婦者とやがて生まれる子ども。大学紛争に絡んだ非合法っぽい人間。単身赴任の中年男(2組)。商売をたたんで隠居生活になった夫婦。失恋して同棲先から引っ越してきたOL。高校卒業と同時に一人暮らしをはじめた女子大学生。定年退職後のハイヤー運転手…。

ストーリーが無いので、場面・住人についての描写が変わるごとにぷつんぷつんと切れていく感じでふつうに長篇小説を読むようなどんどん加速度をつけて物語に入り込んでいくふうにはならなかった。集中して読まないと頭の中にきちんと整理整頓されていかない。順々に、わかっていく。だんだん感情移入していく。誰か個人の登場人物にというよりは「五号室の住人」ひいては「生活しているいろんなひとびと」という大きな漠然としたくくりに対して。

ほとんどはごく一般的なひとだったのだけど一人だけ、過去に殺人を犯したことがあり、五号室に非合法の物を預かっていて、20年後に「射殺され」る登場人物がある。社会派ミステリの主人公になれそうな設定だがこの話ではほとんど詳しく描写されない。なんでこんな設定の人間が紛れ込んでいるのか、1/13人の中に存在するというのは確率としても凄いと思うのだが。無線の大きな三角アンテナを張った人物もよくわからない。

五号室に暮らしたひとの名前。なお、「ダヴァーズダ」を検索してみるとペルシア語で「12」دوازدہ / davāzda だった。さっすがー。

1:藤岡一平 1966-1970(大家の息子・初代住人)
2:二瓶敏雄・文子・環太 1970-1982(環太はこの部屋で産婆によって生まれ、中学生に進級する年に引っ越す)
3:三輪密人 1982-1983
4:四元志郎 1983-1984(単身赴任①)
5:五十嵐五郎 1984-1985
6:六原睦郎・豊子 1985-1988
7:七瀬奈々 1988-1991
8:八屋リエ 1991-1995
9:九重久美子 1995-1999
(9と10の間にリフォームが入る)
10:十畑保 1999-2003(単身赴任②)
11:霜月未苗・桃子 2004-2008(桃子は居候)
12:アリー・ダヴァーズダ 2009-2012
13:諸木十三 2012-2016(最後の住人)