2016/06/23

明日の空

明日の空 (創元推理文庫)
明日の空 (創元推理文庫)
posted with amazlet at 16.06.23
貫井 徳郎
東京創元社
売り上げランキング: 339,014
kindle版
■貫井徳郎
本書は2010年5月集英社刊、2013年4月創元推理文庫刊の電子書籍版である。昨日のAmazon日替わりセール対象品で、レビューを見たら「ポップ」だとか「さわやか」だとか「明るい」などと貫井徳郎の作品イメージから180度異なる感想が並んでいたので興味を持って読んでみた。

わたしは氏の作品で既読なのはデビュー作の『慟哭』『迷宮遡行』の2作のみなのだが、あんまり読んでいない理由のひとつが「貫井徳郎の小説は深刻。暗いし重いから気軽に手を出しにくい」というものだったから。

中篇くらいの長さで(kindleの総ページ数が2255)、軽いタッチだったのであっというまに読めてしまう。
読んでみての結論だが、たしかにまあ、明るさもポップさも爽やかさもあった。でもどこかいびつ。そして暗さや重さがそのすぐ裏にきっちりある。

ミステリーで、本書はどんでん返しがポイントの作品なのでネタバレは避けたいので詳しくは書けないが、そもそもいろんなことが不自然なのだ。「偶然」は事実ならまあ「小説よりも奇なりね」と驚いていればいいのだがそれを「驚くことが前提の本格ミステリ」で複数回使われるとちょっと興醒めしてしまう。

一応ツッコミどころはネタバレともかぶるから白文字。未読の方はスルー推奨。この作品の批判は受け付けない、という方もお読みにならないでください。
ずっと尾行しているわけではないのにたまたまタイミング良く度々肝心なところで遭遇できる、とか、たまたまクラスメイトの某が密談しているところを見掛けた、とか、某が気を配っていた人とたまたまその親友が同じ大学にいてたまたま出会う(入学式を午前と午後に行うようなマンモス校において)とか。
他にも携帯電話への細工を同じ人物に対して(途中からは警戒しているだろうに)そう何度も出来るのか、とか。
そもそも顔が似てるからって服装や髪形が違う人間を同じ人間だと誤解することもピンと来ないし、まあ仮にそういうことがあったとしても実際に当人が真摯に対応し、「違うよ」「その街に行ってないよ」と言っているのに「じゃあ似てる別人だったのね」と思わずに「裏表があるのね」と言い放つクラスメイトってひどくないか。
あと、Aの正体がそうならば、そのことについてクラスメイトとの会話で一回も出てこないというのは不自然すぎる。
いろいろ、無理があるなあ、と思ってしまうのだ。
主人公が可愛くて帰国子女で頭が良くて性格も良くて両親が裕福、という「どこの少女漫画?」っていうくらい設定が盛られているのもラノベじゃあるまいし、と思ってしまう(何かストーリー的に必然性があるのかと思ったら何も無かった)。

まあ、こういうタイプの小説は細かいことは気にせずにエンタメとしてさらっと読んでさらっと楽しめばいいんだけどね。実際興味を引かれてどんどん読んじゃって面白かったので作品のレベルは決して低くないと思う。
それにしても主人公が大きなトラブルに2回巻き込まれかけるのは両方こちらには落ち度が無くて、相手の人間性が腐っていたというパターンだったので嫌な気持ちになる。もっと警戒心持って疑わないといけないってことかもだけど高校生や大学生になりたての女の子にそれはないよなあ。怖いわあ。そしてそれを助けてくれた存在がまた信じられないくらい善人だという…。彼の残した言葉からこの本のタイトルは取られている。
なんか、極端に嫌なものと、善いものをいっぺんにわーっと持ってこられたって感じでフクザツな読後感だった。
でもこれはわたしが素直でないだけのようで、読書メーターなどを見ると感動して泣いてしまったり爽やかさに胸打たれたりしている読者が少なくないようだ。十代で読んだら、また違ったのかもしれないな。