2016/06/22

なんでもない一日 シャーリイ・ジャクスン短編集

なんでもない一日 (シャーリイ・ジャクスン短編集) (創元推理文庫)
シャーリイ・ジャクスン
東京創元社
売り上げランキング: 139,160
kindle版
■シャーリイ・ジャクスン 翻訳:市田泉
2015年10月30日刊の創元推理文庫の電子書籍版。書店で新刊コーナーにあった当時に「紙の本で買おうか、kindle版でいいかなあ~」と迷って結局保留していた。いままで埋もれていた短篇を集めた本ということで、当たり外れがある可能性が高いのではと危ぶんだのだ。
しかしその心配は完全なる杞憂であった。
それどころか、かなり質の良い、珠玉の作品集だった。読みながら「ああ~やっぱりシャーリイ・ジャクスン好きだなあ~良いなあ~」と何度もしみじみ噛みしめ、堪能。どこか少女のような気高さと残酷さがあって、ひとの悪意みたいなのの細やかなところをすぅっと書いてあって、でもあんまり描写は踏み込まずドロドロさせない。展開だけを示して結果は読み手の想像にまかせてある。恐怖へ続く余韻、といったところか。

訳者あとがき」によれば本書は【シャーリイ・ジャクスンが四十八歳の若さで亡くなってから四半世紀以上たって、ヴァーモント州のある納屋で、彼女の未発表原稿が何篇か発見されました。】それを受けてジャクスンの長男と次女が【新たな作品集を編むことを企画、雑誌などに発表されながら単行本には未収録の作品も発掘し、最終的には百三十篇あまりを集めました。その中から五十四篇を選んで、一九九六年にバンタムブックスから刊行した作品集が、本書の元になったJust an Ordinary Dayです。】【原書はこうした経緯で編まれたこともあり、作品の完成度にはどうしてもばらつきがありました。そこで、五十四篇の中から序文とエピローグを含め三十篇を厳選してここに訳出した次第です。】とのこと。
そして、シャーリイ・ジャクスンといえば『くじ』とか『ずっとお城で暮らしてる』とか怖い、人間の心の嫌な部分を扱った作品のイメージが強いけれど、本書ではそれだけではなく、【超自然的な怪異譚、正統派ゴシック譚、軽妙なユーモア小説、自らの家庭生活を題材としたエッセイなど、バラエティに富んだジャクスン作品がお楽しみいただけます。】と続く。

確かに読んでみたら「序文」が少女時代の回想を絡めたユーモラスな文章で「あらっ」と思った。続いて「スミス婦人の蜜月」としていかにもジャクスン、という話が続くのだけれど、読み進んでいくといろんなジャンルというかテーマのお話があり、「今度は、どういう種類なのかな。怖いことに用心したほうがいいのか、それとも?」と別の意味でスリリングだったりして、意外性があり、飽きることが無く、とても面白かった。いや~もっと早く読んでおくべきだったわ。
なお、「訳者あとがき」に「エッセイ」とあるので「ははあ、これがエッセイということか」と思って読んだけどいわゆるエッセイとはちょっと雰囲気が違って普通小説のようにも読めてしまう。著者本人らしき幼い子どもたちを育てている奥さんが主人公で、日常の中の出来事中心に書かれている。このひとがああいうお話を書いたひと? 全然想像できない。悪戯っ子の、やんちゃな小学生の少年に手を焼くどこにでもいそうなお母さんといったふう。「エピローグ」では小説の本が(初めて?)出る直前にたまたま新聞社の生活コーナーみたいなところから「主婦である彼女」宛に電話がかかってきたときのエピソードが書かれていて、これも事実なんだろうけど、書き方とか、相手の「話を聞かなさぶり」とかがそのまんま、シャーリイ・ジャクスンの小説の登場人物みたいで、面白かった。

わたしは通常ホラーとかは怖がりなので読まないのだけれど、シャーリイ・ジャクスンの「怖さ」というのはそのタイプの怖さじゃなく、どっちかというと「嫌さ」に近くて、でまあ人間の嫌なところなんて読んで楽しいのかというと普通は楽しくないのだけれど、シャーリイ・ジャクスンが書くと楽しくはないけれど興味深く読める。人間の嫌なところを書くのが巧い作家はたくさんいるけど例えばぱっと浮かぶ筒井康隆の書くものとは全然印象が違う。どちらが良いとかいう話ではなく、どちらも良いのだ。

目次は創元推理のホームページに記載してあったのをコピペ。
「序文 思い出せること」
「スミス夫人の蜜月(バージョン1)」
「スミス夫人の蜜月(バージョン2)――新妻殺害のミステリー」
「よき妻」
「ネズミ」
「逢瀬」
「お決まりの話題」
「なんでもない日にピーナツを持って」
「悪の可能性」
「行方不明の少女」
「偉大な声も静まりぬ」
「夏の日の午後」
「おつらいときには」
「アンダースン夫人」
「城の主(あるじ)」
「店からのサービス」
「貧しいおばあさん」
「メルヴィル夫人の買い物」
「レディとの旅」
「『はい』と一言」
「家」
「喫煙室」
「インディアンはテントで暮らす」
「うちのおばあちゃんと猫たち」
「男の子たちのパーティ」
「不良少年」
「車のせいかも」
「S・B・フェアチャイルドの思い出」
「カブスカウトのデンで一人きり」
「エピローグ 名声」

今回もコラージュ作家・合田ノブヨさんの装画。素敵。

ずっとお城で暮らしてる (創元推理文庫)
シャーリィ ジャクスン
東京創元社
売り上げランキング: 149,909