2016/05/28

カテリーナの旅支度  イタリア 二十の追想

カテリーナの旅支度 イタリア 二十の追想 (集英社文庫)
内田 洋子
集英社 (2016-05-20)
売り上げランキング: 26,989
■内田洋子
これは紙の本。先日文庫化したのを機会に読んだ。単行本は2013年10月刊。
文庫版には「文庫版あとがき」が収録されている。解説はなし。
単行本の装丁に使われている黒い鳥の絵が印象的だったので文庫も同じ絵を使うのかと思っていたら全然違う路線できたので「へえ」と思った。内容を読んでみての感想だが、単行本の鳥の絵は中のひとつ「赤い鳥の絵」を連想させる。それに対して文庫版の写真はタイトルともなっている最後に収録されている「カテリーナの旅支度」をはじめとする、本書にたくさん登場する様々なイタリアの女性を連想させて、結果として全篇に共通するイメージに近いのはこちらのほうかな。

内田洋子さんの著作を読むと、ご本人の知人・友人の実話・実体験が書かれている、ジャンルとしては「エッセイ」なのにその内容のあまりのドラマチックさに「まるで、小説みたい」といつも驚かされたり唸らされたり感動することしばし、なのだが今回もその期待を裏切らなかった。全部で20の話が収録されているのだが、1篇1篇にそれぞれの人間の人生や半生やある時期のことが書かれていて、「内田洋子のエッセイのネタになる」くらいだからみなそれぞれ波乱万丈で、1篇読むだけでけっこう濃厚。それが、掛けること20篇、いや、20人の凝縮人生である。正直、1日2日で読むと勿体無い。紙媒体であることもあり、会社に置き本して昼休みだけ読んだりして、ゆっくり4日ほどかけて読了したが、1回読んだだけでは消化できた気が一向にしないのでまた時間をおいて再読するつもりである。

この本の全体的な印象としては「女性」が多かったかな? それも、バリバリ働いていたり、恋に生きていたり、セレブ妻として女磨きに余念がなかったりとそれぞれかなりエネルギッシュな、パワーの強い女性が多かったような。そして、幸福か不幸か、その判断は難しいところだがあくまで読んだ印象としてはちょっと不幸というか、しんどかったり疲れたり弱っているひとの話が多かったような。それもあって、1篇読み終わるとなんだか「はあ~」という感じでいろいろ考えさせられることもしばしばあった。

以前から内田さんの本を読むたびに「この方の人間づきあスキルの高さ半端無いなあ」と驚愕と尊敬の念を強めていたのだが、本書の中の「ハイヒールでも、届かない」の中で「あ、こういうシチュエーションでそれでも彼女に声をかけてお茶にさそうところが、わたしとは違うんだ」とすごくハッキリわかったシーンがあった。わたしならこういう状況を目にしたら「声を掛けない方がいいような、見て見ぬふりがいいような」と思う。それは、精一杯強がって孔雀の羽根を広げまくっていた彼女が(派手な羽がある孔雀は雄だけど)弱っているというか醜態をさらしているシーンだと解釈してしまうから。でも、そこで声をかけてお茶に誘い話を聞こうとする内田さんは決して野次馬なのではなく、弱っている、困っている彼女の話を聞いて共感したり同情したり何か助けになることがあれば、という精神なのだろうと思う。ジャーナリストだから「知りたい好奇心」が強いというのももちろんあるだろうが、それだけだったらこんなに内田洋子の周りに友人がいつもたくさんいる、という状況には繋がらないだろう。内田洋子はひとを惹きつけるのだ。信頼されるのだ。それは彼女の著作を数冊読んだだけのわたしでもひしひしと感じる。あたたかくて大きな心・お人柄を知るにつけ、ファンになってしまうんだね。

2章構成、目次を写す。短い感想を記す。
Ⅰその土地に暮らして
サルデーニャ島のフェラーリ :内田さんの他の本にも出てきたけどフェラーリってやっぱりなにかただの車ってだけじゃないいろんなものを背負ってる気がする…。
犬を飼って、飼われて :動物に助けられているというかすがっているというか。イタリアの有閑マダムはスケールが違うなあ。
大地と冬空と赤ワイン :美味しそうな料理の描写!から、こういう展開になるとは。
黒いビキニと純白の水着 :日本は昔から色白が良いとされているし美白ブームがずっと続いている。文化が違うなあという感じ。
ハイヒールでも、届かない :こういうひとは苦手だなあ。彼女の父親の考え方、イタリアでも昔の田舎のひとはこんな男尊女卑なんだね。
聖なるハーブティー :結局どうして治ったのかは不明か。アレルギーとか蕁麻疹ってよくわからない部分が多いんだなあ。
掃除機と暮らす :この掃除機売りのひとはどう考えても詐欺だと思うんだけど…。掃除しすぎて夫を思いやらないとか本末転倒。
塔と聖書が守る町 :すごい家だ!頭の中で映像で想像したけどどうなってるんだろうなあ。一段が高過ぎるという階段のイメージが強すぎる。
ヴェネツィアで失くした帽子 :ヴェネツィアといえば水の都でロマンチックなイメージだったのに、住むとなるとここまで陰鬱だとは。
赤い小鳥の絵 :優秀なのにつまらない権力者のエゴで潰されるとか、でもそこでへこたれないのが素晴らしい。

Ⅱ町が連れて来たもの
めくるページを探して :本好きで仕事が出来てそれだけのひとかと思ったら恋愛もするし4人の子どものお母さん! 凄い。
四十年後の卒業証書 :うーん…この母とこの娘…灰色解決だけどまあいいの、かなー。
思い出を噛み締めて :倫ならぬ恋、からの「ひとりの人間」としての人生。良いね。
硬くて冷たい椅子 :人種差別者ってどこにでもいるんだな。本人が不幸なんだろうな。
小箱の中に込める気持ち :やっぱりこの警戒感がいつも必要なんだ。他ではあんまり描かれていない心境だったので珍しかった。
老優と哺乳瓶 :別れるの前提なんだ(苦笑)。
花のため息 :そんなに菜食主義なのに何故パーティに来たのだろう。でも日の光いっぱいのベランダは素敵。花でもひとの心が溶かせない場合もある、と。
ヨットの帰る港 :結局この男は何もわかっていなかったということか。
バッグに導かれて :鞄の中で財布だけ戻ってきたっていうのが意外だったけど盗難した犯人にとって他は使い道があったってことかなあ。
カテリーナの旅支度 :正直、わたしはカテリーナと旅はあんまりしたくない。計画はしっかり立てるけど遊びの余地が欲しい。

文庫版あとがき :内田さんてば…なんて粋なことを!「あとがき」までドラマチックなのね。

▼単行本はこんな装画。
カテリーナの旅支度 イタリア二十の追想
内田 洋子
集英社
売り上げランキング: 284,074