2016/03/23

津軽百年食堂

津軽百年食堂 (小学館文庫)
森沢 明夫
小学館
売り上げランキング: 56,490
kindle版
■森沢明夫
「食堂」つながりで2009年2月刊の単行本の表紙をみたときから「めっちゃきれいな表紙やなあ~」「タイトルもなんかノスタルジックでいいなあ~」「でも知らん作家さんやしな~」と気になっていた本作品も読んでみた。
2011年1月小学館文庫化、の電子書籍版。トータルkindle版で3402だからこれも比較的短めの長篇。

読んでみての感想だが、「思っていた話とはだいぶ違った」。
「津軽百年食堂」だからもっと「津軽」の風土とか土地柄とかが濃くて、「百年」地元で根付いているならではの津軽の町の中の人との田舎ならではの濃厚な人間関係、そこでの「ひととひとの絆」みたいなのが書かれている話かなと想像していたのだけど、違った。

まず東京でのシーンがけっこう多い。
百年ということで、明治生まれの【大森賢治】が主観のストーリー。このひとが蕎麦屋の一代目。若い時の奥さんとの出会いなど。
その孫【大森哲夫】(64歳。現役食堂店主)が主観はプロローグのみ。哲夫の母親は【フキ】。父親は【先代】ということで既に故人。どうしようもないほど遊蕩をつくした人だったと回想で書かれている程度。
哲夫の息子の【大森陽一】(28歳。東京でなんのかんのあった末にピエロをやって生計を立てている。)主観のストーリー。【桃子】という姉がいる。
陽一との出会いがあって描かれる【筒井七海】(25歳。津軽出身、東京在住、カメラマンの卵)が主観のストーリー。
これらが交互にに描かれる。
陽一の幼馴染み【藤川美月】主観の節がひとつ。
賢治の妻【大森トヨ】主観の節がひとつ。
ラストのエピローグは哲夫の妻であり陽一の母である【大森明子】視点で締められる。

何故、時代の厚みがあまり感じられず、東京の話が多いなと感じてしまったのか、単純に若い陽一世代の話が一番興味をもって読めたというのもあるだろう。なんせ、賢治・哲夫の時代はその子どもが生まれて東京で社会人やるまでになってるんだからというのがあらかじめわかっているのでいろんなことが「予定調和」になってしまって「決まっていることをなぞって読んでいる感」がどうしてもしてしまったからだ。

でもそれだけじゃない。具体的に目次を写してみた。この本は、節名がその主観者の名前になっている。

プロローグ 【大森哲夫】
第一章 【大森賢治】【大森陽一】【大森賢治】【大森陽一】【大森賢治】【大森陽一】【大森賢治】【筒井七海】【大森陽一】【筒井七海】【大森陽一】
第二章 【大森陽一】【筒井七海】【大森陽一】【筒井七海】【大森陽一】【筒井七海】
第三章 【大森陽一】【筒井七海】【大森陽一】【筒井七海】【大森陽一】
第四章 【大森陽一】【藤川美月】【大森陽一】
第五章 【大森トヨ】
エピローグ 【大森明子】

おお、一目瞭然。
書かれている数を見てみたら「感覚」だけじゃなくて実際に量が違うのだった。
東京世代が主観の部分(黄色で塗った部分)が漠然と感じていたよりずっと多くてびっくり。そりゃ~「津軽の話」「古い人間付き合い」をあんまり感じないわけだわ。
つまりこの小説は、津軽出身の28歳の若者・陽一が、東京に出てきたけどいろいろ挫折して、東京で故郷出身の七海ちゃんと恋に落ちて、いろいろあるけど父親がやっている蕎麦屋(食堂)を大事に思い続けているから、最終的には継ぎたいんだという意志を固めるまでを書いてある話だったんだね。
表紙の雰囲気とタイトルにだまされちゃったなあ。