2016/02/06

あん

あん
あん
posted with amazlet at 16.02.06
ポプラ社 (2015-05-12)
売り上げランキング: 2
kindle版
■ドリアン助川
本書は2013年2月ポプラ社刊(単行本税込¥1,620円)の2015年4月ポプラ文庫刊(税込¥648円)の電子書籍版(¥810円)である。電子書籍版のほうが文庫版より高いってドウイウコトデスカ!? 
『和菓子のアン』を面白く読んだことなどからアマゾンで見つけて以来ずっと気になっていた小説。でも知らない作家さんだしなあ、とか迷っているうちに文庫化されて、そして河瀬直美監督によって映画化もされたらしい(2015年5月公開)。昨日2月5日に日替わりセールで¥599円になっていたので飛びついて購入。本日何気なく読みはじめたらすごく読みやすい文章で途中で一回休もうかと思ったのだけど気になるので続けてしまい、イッキ読みしてしまった。『和菓子のアン』とはちょっと路線が違った。こういう話だったのか。

最初の方を読んだら、世を拗ねたような主人公の男が出てきて→イヤイヤどら焼き屋をやっている(餡は中国製を仕入れる手抜きぶり)→そこへ50年餡作りをしてきたという76歳の女性がやってきて彼女が作った餡を置いて帰る→食べてみたらすごく美味しい餡だった という絵に描いたような定型のストーリーだったので、タイトルが「あん」だし、「これは美味しい餡を修行して作っていくうちに主人公のひねくれた心も溶け出していったとかそういうハートフルかな?」とか予想したりした。
まあ、結論から云うと「定型のストーリー」っていうのはその通りだったんだけど、ひとつ、この76歳の徳江さんが抱えていた秘密があって、それがこの小説の大きなテーマなのだった。

ものすごくストレートに正しいメッセージを伝えようとしている話なので、わたしのようなひねた読者には眩し過ぎる感が否めないのだが、変に技巧やおためごかしを挟んでおらず、説教臭さもなく、小説として欠点も見当たらない。読者を選ばない、良い作品だ。ふだん活字に親しまない中学生や高校生が読むにももってこいだ。難しくなくて、読みやすい文章で、余計な枝葉もなく、テーマがくっきり明確だからだ。そしてそのテーマは出来るだけ多くのひとに知ってもらいたい、もう一度偏見をなくすためにもしっかり考えてもらいたいものだからだ。
読後、ポプラ社のホームページに行ってみたら【2013年度読書感想画中央コンクール指定図書<中学校・高等学校の部>】と書いてあって、まさにドンピシャだなと思った。そうそう、読書感想文を書きやすそうな本でもあるよ!

いちおう、テーマがなにかというのは途中まで明らかにされないから伏せておくけど、このことが小説のテーマにされるのは別に珍しくない。いままでも小説やその映画化などで取り上げられてきた。でもそれと身近な「食べ物屋さんの商売」とか結び付けられて書かれたのはわたしとしては初めて読んだ。そのことで、このテーマが抱えている問題がよりくっきりリアルに浮かび上がり、うーむと唸ってしまった。すんごくわかりやすい。自分の事として想像できる、想像できるから「もし自分がそのことを知った客の立場だったらどう感じるだろうか、どうするだろうか」をすぐに考えることが出来て、小説の話だけど現実のこととして問題を見なければならなかった。そして、重くて大きなテーマを背負った徳江さんがたどりついた結論は有難すぎて、気軽にここでそこだけを引用するようなことは意味がない。むしろそれは人口に膾炙した、ありふれたメッセージですらあるからだ。でもそれがどういう人生を歩んできた誰の口からどういう思考過程を経て出されたものであるのかということを知って読んだとき、わたしはそのメッセージをそのまま受け止めて良いのだろうかという戸惑いすら覚えた。そしてまだ消化しきれたとも思えない。

本書は家の外で読むのには向いていないんじゃないだろうか。泣きはしなかったけど、泣いてもおかしくない感情の揺さぶりがかけられる。それもかなりストレートに。
読書後、「いったい作者はどういうひとだろう」とウィキペディアで見てみたけどよくわからないままだった。わたしが知らなかっただけで著作はたくさんあり、ラジオや音楽もやっておられて有名な方のようだった。