2016/02/17

ある日、アヒルバス

ある日、アヒルバス 実業之日本社文庫
実業之日本社 (2012-07-01)
売り上げランキング: 321
kindle版
■山本幸久
初出は「月間ジェイ・ノベル」2006年7月号から2007年11月号まで隔号連載、最終章「リアルデコ」は書き下ろし。2008年10月実業之日本社刊、2010年10月同文庫の電子書籍版。

月替わりセールで安かったので購入した。この著者の小説はむかーしに少し読んだことがあるだけだが巧い作家だと思っていたので。
なんだっけと検索したら『はなうた日和』と『笑う招き猫』だった。そうそう『招き猫』は文庫で読んで解説をラーメンズの片桐仁さんが書いていたので「おお」と思ったんだよね。もう10年も前だったか~『はなうた日和』は読んだことすら覚えていなかった(記憶力なしに愕然)。
著作を全部読みたいと思わないタイプの、どっこも悪くないんだけど特別好きってわけでもない、という。なんでかなーと著作一覧を見てみてわかった。会社や仕事を題材にした作品が多いからだ。
毎日会社で仕事してて、余暇の楽しみである小説でまでその話読みたくないよ、と思っちゃうんだよね。
今回はバスガイドさんという自分の仕事とは全然違うジャンルだったので抵抗なく購入できたということだ。
久しぶりにこの作家さんを読んでみてすごく面白くて愉しかったしところどころは吹き出しちゃったりもした。記憶にあるより面白かったなあ。もったいないことしてたのかしら。他も読んでみようかしら。

主人公は都内のバス会社(イメージ的には「はとバス」が近いのかなあ。利用したことないのでわからないんだけど。本編終了後に作者からの断り書きがあった)に勤めるキャリア5年のバスガイド、愛称デコこと高松秀子さん。23歳。わ……若いなあ、と内心溜息をつく思いだが、本人は18歳で上京して寮に入りバスガイドとして5年も経っているんだという自負が見受けられ、ああ「プロ」だもんね、23歳、立派な大人だよねと考え直す。
とはいえこの物語の主人公がデコが尊敬する先輩ガイドの三原さん(35歳・美人・独身)や、厳しいバスガイド上司として畏れつつも敬っている42歳で社内最年長ガイドである戸田さん(単身赴任の夫と幼稚園児の息子あり。通称・鋼鉄母さんだって…。ちょっとヒドいなあ)だったらこういう話にはなり得ないだろうからやっぱり「23歳」という若さと幼さと大人が同居したキャラクターが活きているといっていいだろう。元気だし、理想もあるし、でもそこそこ社会の現実も見えつつある、みたいな。野望も時には抱くぜ、恋も結婚もバリバリこれからだぜ、みたいなね。

若い社会人の日常をバスガイドという職業を通して描いた穏やかな小説かなあと思って読んでいたらかなり意図的に笑わせようとしているユーモラスな表現やおかしみを伴った言い回しなどがちょこちょこ挿入されている。5歳児が武士みたいな言い回しで喋り続けるという、現実にはどこまでアリなのかわからない設定なども考えると「リアル」よりは「フィクションならではの面白い小説をどうぞ!」という著者の笑顔が見えてくる。心置きなく楽しませていただいた。
わたしの年齢は戸田さんが最も近いので、23歳から見たら42歳ってこういう感じか……と小さく衝撃を受けたけど昔の自分を振り返ったらそういえば、そうだったな。自分の意識的には35歳の三原さんのほうが近いんだけど(ただし彼女のように穏やかでも出来た先輩でもない、仕事や社会に対するスタンスが一番共感しやすかっただけ)。やはり子どもがいるかいないかは大きい気がする。

途中、箸にも棒にも引っかからない新人を教育するのに悩む場面では「どう解決するのだろうか」とかなり興味を持ったのだが根本的解決(本人のやりかたでどうこうなる)ではなくて第3者の介入(しかもかなり強力な個性)による改善となったので、参考にならなくてちょっと苦笑、まあでも、わたしと彼女じゃそもそも設定や状況からして全部違うもんなあ。こっちはこっちで頑張るよ、デコちゃん。