2016/02/14

冬の物語

冬の物語
冬の物語
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イサク ディネセン
新潮社
売り上げランキング: 9,411
■イサク・ディネセン 翻訳:横山貞子
北欧の美しい夏は短く、それに対して、長く厳しい冬がある。この短篇集は、デンマークの冬の時代に書かれた。一九四〇年四月九日、ナチス・ドイツが侵攻を開始した。以降、一九四五年五月まで、デンマークはドイツの占領下に置かれる。この占領中に作者は『冬の物語』を書き、デンマーク語で出版した。一九四二年のことだった。
訳者あとがきからの引用である。

バベットの晩餐会』はそれほどにも感じなかったのだが、池澤夏樹個人編集アフリカの日々』(1937年)を2011年1月に読んだらすごく良くて、信頼感が生まれた。彼女がヨーロッパのひとというのはわかっていたのだがなんだか「アフリカにいた」っていうイメージが強かったのだが、本書『冬の物語』はデンマークにおいてデンマーク語で書かれた物語集なのだった。長い冬の夜を、厳しい戦時統制下を「物語」でしのいでいく。生きていく知恵だ。

そもそもイサクというのは男性名のペンネームで、彼女の本名はカーレン・ブリクセンというのであり(ウィキペディアではカレン表記)、デンマークではその名前で出版されたそうだが、日本ではイサク・ディネセンのほうが通りが良いからこちらの名前表記なのだろう。
1885年デンマークのルングステッド生まれ。つまり2015年は生誕130年。新潮社から本書の刊行がなされたのはその記念らしい。ディネセンの略歴や本邦での翻訳・出版の流れは横山氏の「訳者あとがき」に詳しい。

本書は児童向けではないが小説というよりは物語性が高く、長い冬の夜に1篇ずつ暖炉などにあたりつつ愉しむのにうってつけという気がする。『アフリカの日々』でディネセンの話の巧さは感じていたが、まさに珠玉の短篇集。いっぺん読んだだけではもったいないので、また時を置いて繰り返しじっくり味わいたい。物語だから十代の読者にもすすめられるが、このほろ苦さ、厳しさを内包した冬の物語はある程度年を経てこその読み解きの妙があると思われる。

11篇収録。ざくっと感想コメント。特に良かったものに印。

少年水夫の話
少年水夫が少女と出会った後に取るある行動にびっくり。その後の展開もアゼンとして開いた口が塞がらないままだった。えええええ。デンマークではこれアリなんスか。ええ話風に締めてるけど、いやいやいやいや違うやろと…。

カーネーションの若者
第一作で大成功を収めた若者の憂鬱とアンニュイ。だが思い掛けない展開が起こって…。彼氏彼女には災難だったけど、主人公にはとても貴重な出来事だったわけだなあ。神様の悪戯というか采配というか。面白い!

真珠★★
若く美しい花嫁は新婚の夫から祖母ゆずりの真珠のネックレスを贈られた。その糸が切れてしまって、村の靴屋に修理を依頼した。それが返ってきたとき、夫は「かぞえてみなくてもいいのかね?」と尋ねたが…。
結婚したばかりの男女が、いろんなことを経て、いろんな思いを経て、夫婦になっていくんだなあというのを妻側の微妙な心理を細やかに紡いで実に巧く描いてある。

無敵の奴隷所有者たち
夏の保養地のホテルでの出来事。階級意識とかそういうのを皮肉っているのかなあ。全体を見渡せているのが育ちのいい若者で彼の取った行動の意外性が面白い。

女の英雄
イギリス人の青年がドイツに留学にしているときにドイツとフランスの戦争がはじまり、戻ろうとしたが国境を越えられなくなくなってしまった。そこで大勢のフランス人の旅行者たちと一緒に足止めをくらう。彼らはドイツ人士官からスパイ容疑をかけられ、そこにいた美しいマダムが首領だと言いがかりをつけられ…。
6年後、青年と女性は思い掛けないかたちで再会する。この女性の発言内容を解釈するのが難しかったなあ、そういうもんでしょうか…ううむ。

夢を見る子★★★
ある漁師の一家の娘が田舎から出てきて二十歳にもならないうちに幼い息子を残して貧しさのどん底で亡くなった。父親はお金だけ残してどっかへ行った模様。この小さい男の子イェンスが貧しい洗濯女に預けられて育てられて……というありきたりな展開だなあと思っていたらそこからどんどこ話が進んでうーわこれってこういう話だったのかという予想外さで面白かった。 イェンスが主人公、それともエミーリエ?と迷ってしまう、短篇だけど濃厚!

アルクメーネ
語り手の家庭教師である村の教会の牧師の家には子どもに恵まれなかった。そこで養子をもらった。彼女の名前がアルクメーネ。語り手と少女は兄妹のように育った。そして夫婦にとも望まれたがいろんなタイミングやなんやかやがあり…。終盤の展開は「つまりここを書きたかったのかなあ」とは思うが一度読んだだけでは読み込めきれない感が。父と子、母のこと、そういうことかなあ。


この話はよくわからなかった。王の懊悩?持てる者の悩み? 最後の3行がいきなり突き放してるなあ。

ペーターとローサ
牧師の妹の息子で6歳で孤児になった15歳のペーターと、牧師の娘、3人姉妹の末っ子ローサ。母親はローサを出産するときに亡くなり、姉二人は嫁いで家を離れていた。ペーターとローサは同い年で、9年前から兄妹のように育てられた。思春期の少年・少女ならではの思考回路がもどかしいというかなんというか、恋愛とかは無くてもっと純粋な、未知なる世界への探求心・冒険心というか……。ラストの展開には絶句。

悲しみの畑
昔の寓話でこういう無慈悲な王様いるよなあ……。そこにもうひとひねり。という話。伯父さんの考えていることもわからないが、いったん伯父さんと決別すると言ってまた翻したりするアダムのこともよくわからなかった。

心を慰める話
物書きのチャールズ(チャーリー)とその友達イーニアスの話。芸術論というか。そして作中作の町に変装して出掛けて国民の目線になろうとする王子の話。よくわからんけど、話としては悪くなかったと思う。チャーリーの最後の台詞を通していろいろ言いたいことがあるってことかなあ。

とりあえず全篇ひととおり読んだだけでは噛み砕いて消化できたとはとても思えないので、また再読しなくてはならない。単なる物語、寓話ではないことは確か。単純に読んでて風景描写とかがすんごく綺麗だというのはどの話にも共通している。アニメーションにしても面白いかも。上質なものを、ちゃんと作ってくれればの話だが。