2016/02/11

堀辰雄「曠野」、芥川龍之介「六の宮の姫君」

曠野
曠野
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(2012-09-13)
■堀辰雄
高校の現代文の教科書に堀辰雄「曠野」が載っていて、現国(現代国語)の授業で習ったが、教科書的解釈が自分の解釈とまったく合わず、定期試験の時に教科書通りの解答を書くか、自分の考えを貫くか少々迷ったが後者で行くことにし、予定通り×をもらった。こういうことはこの作品のみに起こったことだった。
当然試験の点数はいつもより低くなってしまい、答案用紙を返されるとき、担当の先生に「どうしたんだ、思わず採点を見直したぞ」と聞かれた。「『曠野』はよくわからなかったんです」と答えたら「“待つ女”がわからなかったんだな(意訳=まだ子どもだな)」と納得したようにからかうように笑われた。教科書通りの解答を答えなかった「小さな反抗」ではあったが、先生はどうやらわたしの「自分の解釈で文学とは向き合いたい」という姿勢を認めてくれたように感じた。席に戻ると友だちが「なんか嬉しそうやね」と話しかけてきた。テストで悪い点数をもらって嬉しく思ったことなどこの1回きりだ。

堀辰雄の「曠野」と芥川龍之介「六の宮の姫君」は同じ古典(『今昔物語集』)を基にして書かれた小説である。久しぶりに両方を続けて読んでみた。堀辰雄の「曠野」は儚くて悲しくて美しい物語だなあと思った。
高校時代にどういう設問が出て、自分がどう解答したのか、正解は何だったのかは覚えていない。残しておけばよかった。いまのわたしの感想としては、この女の悲劇はその自主性の無さに釣り合わない自尊心の高さにあったというところか。プライドを貫くでもなく、人生に折り合いをつけて自分というものを立て直していくでもなく、ただ境遇が落ちていくままに流され、己のあり方というものを真っ直ぐ見つめる強さが無かったから、最後に突き付けられた「己の醜さ」に耐えきれなかったのだろう。客観的にみるとこの女の生き方は決して「醜い」と思わない。境遇が気の毒だ。仕方なかったんだと同情する。でも本人にとってはそうだったんじゃないかなと思う。こうありたい自分とのギャップゆえに。ふつうの貴族のお姫様だったらそんな「己との対峙」なんぞしなくても生きていけたのかも知れない。運が悪かったとも云える。
高校生のときの自分がどう思ったかは覚えていないのだが、もしかしたら男側に腹を立てていたのかなあ、どうだったっけかなあ、あまりにも昔過ぎて忘れたけど、でも教科書は女を美化していたようで、それに反発したような気がするんだけどこれも忘却の彼方なので。

曠野:初出「改造」1941(昭和16)年12月号
六の宮の姫君:初出「表現」1922(大正11)年8月号

六の宮の姫君
六の宮の姫君
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(2012-09-27)
■芥川隆介
芥川のほうを読むと、堀辰雄の描いた世界と全然テーマが変わっていて、芥川のいろんな思いが付け加えらていて(特に終盤)、その姫君に向けてというよりは結局己に向かう冷酷なまでの辛辣さにぞっとした。うわあああ、こいつ絶対許してくれないつもりだ! 言っとくけどこんなの原典には1行も書いてないぞ! 完全なアクタガワ・ワールドだ!

「往生は人手に出来るものではござらぬ。唯御自身怠らずに、阿弥陀仏の御名をお唱へなされ。」
 姫君は男に抱かれた儘、細ぼそと仏名を唱へ出した。と思ふと恐しさうに、ぢつと門の天井を見つめた。
「あれ、あそこに火の燃える車が。……」
「そのやうな物にお恐れなさるな。御仏さへ念ずればよろしうござる。」
 法師はやや声を励ました。すると姫君は少時の後、又夢うつつのやうに呟き出した。
「金色の蓮華が見えまする。天蓋のやうに大きい蓮華が。……」
 法師は何か云はうとしたが、今度はそれよりもさきに、姫君が切れ切れに口を開いた。
「蓮華はもう見えませぬ。跡には唯暗い中に風ばかり吹いて居りまする。」
「一心に仏名を御唱へなされ。なぜ一心に御唱へなさらぬ?」
 法師は殆ど叱るやうに云つた。が、姫君は絶え入りさうに、同じ事を繰り返すばかりだつた。
「何も、――何も見えませぬ。暗い中に風ばかり、――冷たい風ばかり吹いて参りまする。」

としておいて、更に後日談として姫君の事を、
「あれは極楽も地獄も知らぬ、腑甲斐ない女の魂でござる。御仏を念じておやりなされ。」
とある人物に評させるのである。
わー! キビシー!! 怖えー!!!

こうなってくると、北村薫『六の宮の姫君』をまた読み直さねば、という気持ちになってまいりますな。でもちょっと今、珠玉の某海外もの短篇集をぼちぼち読んでいるところなのでそっちも読んじゃわないといけないんだが……。

今昔物語集 巻30第4話 中務大輔娘成近江郡司婢語 第四
こちらは青空文庫では無かったが、ネットでググったらやたがらすナビ」というサイトに全文が掲載されていた。該当ページにリンクを貼らせていただく。

また、ネットで検索していたら山岸涼子「朱雀門」という漫画が芥川の「六の宮の姫君」を扱った作品だということで、山岸流の凄い切り口で迫っているらしい。山岸先生の作品てkindle版にまったくなっていないんスよね…。紹介されていたのは「コトダマの里」というサイトのこのページ。 山岸涼子セレクション8『二日月』あるいは秋田文庫『甕のぞきの色』で読めるらしい。

二日月 (山岸凉子スペシャルセレクション 8)
山岸 凉子
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