2016/02/05

アムリタ

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kindle版
■吉本ばなな
本書は1994年1月福武書店より刊行され、1997年1月「何も変わらない」を加え、角川文庫として刊行、2002年新潮文庫として刊行されたものの電子書籍版である。
「上」が1/31の日替わりセールで¥199になっていたので購入。火曜あたりから読みはじめ、上を読み終わり木曜日に下も購入(こちらは通常価格¥534)、金曜日の通勤帰りに読了した。kindle版のページ表記だと上は2573、下は2702。

わたしは吉本ばななを十代の頃に『キッチン』と『TUGUMI』を読んだだけで他は読まなかったのだが、それはあの頃吉本ばななというのは若い女性に圧倒的な人気があって、流行していて、自らを読書好きとしてトンガっていたわたしはそんな「みんなが読む本なんて」というのが多分にあったんだと思う(純粋にまだ学生だったからお金が無くて読むものはある程度厳選しなくてはならなかったというのもあったが)。
なんでこんなことをわざわざ書いたかというと、本書を読みながら
①ものすごいスピリチュアルなお話だなあ。でも作者が「吉本ばなな」だから安心して読めるなあ(知らない作家だったらどこに連れて行かれるか信頼感が無いから警戒しつつ読まないといけない)。
②すごく面白い。いまのわたしが読んでこれだけ面白いんだから、20歳前後でこれを読んでいたらどれだけ面白く感じただろう、おそらくもっとノメり込んだんじゃないだろうか。別に今でも悪くないけど、もっと若い頃に読むべき本だった気がするなあ。
という2つの事をずっと考えていたからだ。

わたし自身はスピリチュアル方面は全然疎いし鈍感だし、場合によっては胡散臭さを感じたりもする。だけど、相手が親しい友人だったり、信頼できる作家だったりする場合は、その「事象」を信じるというよりは、「相手」を信じる。これは十代から変わらないスタンスだ。
『アムリタ』は主人公・朔美、その年の離れた弟・由男をはじめとして不思議な力を持っているひとが何人も出てくる。みんなに共通しているのは、とても良いひとで信用できる人柄であることだ。力を悪用したり、そのために性格が歪んだりそういうマイナス方面に行っているひとがいない。由男くんはまだ小学生だからいろいろ大きすぎるものを抱えきれなくて苦しくて大変みたいだったけど、でも基本的にとても真っ当に生きている、踏ん張って頑張っている。
その地に足着いた感じの誠実さがあるので、どんなにとんでもない不思議な現象が書かれていても、受け入れて読むことが出来るのだ。現実に起こったらどうしていいかわからなくなるかも知れないが…。

『アムリタ』は「メランコリア」「アムリタ」「何も変わらない」の3つのタイトルが付いているが、3つでひとつのお話として読める。「アムリタ」部分が一番圧倒的に長くて、「メランコリア」と「何も変わらない」は序章と終章みたいな感じかな?

(文庫版あとがき)として「日常の力」という一文を著者が書かれているが、そこから引用。
だからこそ、地味で、ちょっと悲しくて、あまり意味のない最後の章が私はけっこう好きだ。永遠に続く恋はないし、超能力があっても人はお風呂を洗ったりしなければならないし、タクシーの運転手さんとの会話で意外に人は心晴れたりするものだ。
そういうことについては、ずっと書いていきたい。

正直、「何も変わらない」はエンドロール的というか、あまり重きを置かずに本編の余韻を掬うくらいの気持ちで読んだのだが、この(あとがき)を読んでなるほど吉本ばななはそういうことを書きたい作家なんだな、だからあの平穏な冗長とも云える最後の話をあえて追加で書いたんだなと納得出来た。あれだけ不思議な非日常的な日常を書いていて、読んでいる身には「絵に描いたような美しくてはかない創作物語の世界だ」と思うことがたくさん出てくる話だが、でも彼らにとってはそれが「日常」だし、「日常」には「どうでもいいこと」「物語にはならない些末な家事」なんかがわんさと付いてくる。そこを丁寧に描いていくことで、わたしたちは朔美たちの「生活」をリアルに受け止めたり、彼女たちの「不思議」を信じたり出来るんだろうしね。「なにげない日常」って「平和そのもの」だったりするしね。「非日常」に陥ってみると「日常」っていかに大事で、貴重かって、それは思い知ることだしね。
わたしにとってのサイパンはどこだろう。いつかそこに行けるんだろうか。行けるだけの勇気ときっかけがあるだろうか。そんなことも、考えたりした。