2016/01/07

もう年はとれない

もう年はとれない (創元推理文庫)
ダニエル・フリードマン
東京創元社
売り上げランキング: 30,334
kindle版
■ダニエル・フリードマン/翻訳:野口百合子
2014年8月創元推理文庫刊の電子書籍版。
著者デビュー作で、マカヴィティ賞最優秀新人賞受賞だそうだ。
どっかで評判の端っこだけ引っかけていて、2015年9月にkindleの月替わりセールで見かけて購入したものの、そのときは冒頭だけ読んで入り込めなかったので放置してあった。のを、昨日読みはじめたらなかなか面白くてどんどん読んで2日で読了。本って読む時期を選ぶなあとあらためて。

この小説の主人公=探偵役はなんと御年87歳!(話の半ばで88歳になる、米寿やん!)のバルーク(バック)・シャッツ。あまり馴染みのない名前。ユダヤ人だとわかる名前だそうだ。
元殺人課刑事。
それも、現役時代はなかなかやり手で鳴らして、いまや地元警察官のあいだではちょっとした伝説になっている(そのほとんどが話が大きくなっているようだ)。

87歳なので、風邪をひいても命とりになりかねない。心臓のバイパス手術を受けた後は庭の手入れもままならないし、薬を飲んでいるのですぐ痣になる。歩くのも遅くなり、すぐに皮膚は破ける。視力も弱っている。記憶力も低下しており、医者に勧められて常にノートを持ち歩き「忘れないこと」を書き留めている。その内容はところどころに挿入される。妻のローズと二人暮らし(この奥さんととても仲が良くて愛し合っていることがよく伝わってきて素敵だなあと思う)。
数年前に息子を亡くしている(この死因について書かれていなかったのでいずれメインで書かれるんだろうなあ)。

この小説の魅力はこのバック・シャッツのキャラクターが7割を占めているといってもいい。いや8割か?
身体的には衰えているが、思考はバリバリ、でも無くて、推理をしても医者から老人性の妄想だと言われたりする。大学生の孫(テキーラというあだ名。ニューヨーク大学のロースクールに通っている)に言わせれば頼りなく見えるらしい。口が悪く、皮肉屋で、都合よく忘れたことにしたりするがもちろん覚えている。ただコンピュータ関係にはからきし弱く、グーグル検索ですらしたことがないしわからない。
テキーラとバック・シャッツの珍道中、軽口(悪口?)のたたきあいのやりとりがユニーク。特にバック・シャッツがテキーラの事を他人に紹介するたびに相手の国のお酒の名前で紹介するのが面白かった。お酒については詳しくないのだがいくつかは知っていたのでそういうことだろうと。いま、実際に検索してみたらやっぱりそういうことだった。
バカルディ、リースリング、モヒート、ジェイムソン、マニシェヴィッツ。だいたい相手はそれが名前?という反応をする。まあ日本で言ったら「孫の焼酎です」とか「泡盛です」とかって紹介するようなもんかな?

バック・シャッツはユダヤ人なので捕虜収容所に入れられていた時代があり、そのときに酷い目に遭わされたナチスの将校が生きているかもしれないと、臨終の床にある戦友から告げられるシーンから小説ははじまる。それだけなら個人の話だがその将校がナチス絡みで金の延べ棒を山ほど持っていたという噂があり、それを狙ってまーハエのたかること。「ナチの金塊」なんて典型的な絵に描いた餅じゃないかと思って読んでいたのだが、うーん貸金庫のくだりはなかなか面白かったなあ。

とりあえず人が死に過ぎ、というかその殺され方が血生臭すぎるグロすぎる、なのに最後まで読んでもそういう殺害方法を犯人が取った理由がちゃんと書かれていないんだよね。ユダヤ人の動物のいけにえの方法をなぞっているとは書いてあったけど説得力が無い。だって殺して必ず内臓全部引きずり出してあるとかよっぽどですよ。この作品映像化が決まっているらしいけど…アメリカじゃこれくらい刺激的なシーンを盛り込まないと売れないとかあるのかも知れないけど…うーん「作品」としてその殺害方法は必要だったかなあ? かなり疑問だ。

ミステリーとしては凡作だが、バック・シャッツの言動が映画的(現実にはどうかと思う)で格好良くてスカッとキマっていたのである種の爽快感はあり、しかもそれが87歳というのが珍しく、よくぞそのポイントを見つけて書いたなという感じ。
ただ、バック・シャッツは銃社会ゆえに成立する「強さ」であり、日本で真似することは…柔道や剣道の師匠とかだったら「有り」かな……。