2016/01/12

お家賃ですけど

お家賃ですけど (文春文庫)
能町 みね子
文藝春秋 (2015-08-04)
売り上げランキング: 137,514
kindle版
■能町みね子
この方については未だ読まないままなんだけど『オカマだけどOLやってます』という一度聞いたら忘れられない衝撃的なタイトルのエッセイの著者だという認識。ずっと意識の端っこで気にはなっているけど…で、最近はそれに「完全版」という言葉が付いていて、kindle版でも上下に分かれているようだ。
今回、kindleの月替わりセールで本書が対象になっていて、私の好きなインテリア絡みっぽかったので読んでみた。

東京の地理や地域による雰囲気などは知らないが、本書の舞台となる「加寿子荘」は牛込にあるらしい。牛込といったら漱石だなあ、と冒頭から気分が良くなる。しかもそれに続く加寿子荘の具体的な、古き良き昭和の建物ならではの描写が丁寧に続くのを読んで「これあ、アタリだったなあ」とにんまりした。以後、大事に楽しんであっというまに読了。

部屋番号がはっきりしないのすら「2-2」などと面白味のない区分けより「二階手前」「二階奥」なんて届出で正式書類となっているほうが好ましい、と思えるし、大家のおばあ様は推定年齢80代にもかかわらずお元気そうで何よりだし、廊下がいつもぴっかぴかに磨き抜かれているなんて本当に素晴らしい。ただ、物件の古さや隙間があることからどうしてもGがつく例の害虫が発生したり、天井裏をネズミが駆けていくなどの問題は避けられないようだ。猫がけっこう周りをうろうろしていてそれもまたほのぼのしてイイのだが、ネズミは取ってくれないのかなー。っていうかGはやっぱり嫌だなあ。

面白くてびっくりしたのは、この本の最初の段階では著者は男性の身なりをしていて戸籍も男性なのだが、その後「性同一性障害と診断されて、生活も外見もまるごと全部女性になることにした」為に、一度加寿子荘を出て、でもその後住んだアパートが良くなかったことからもう一度加寿子荘に戻ってくることになる、そのときは女性として不動産屋を訪れた…というくだり。よっぽどこの家が気に入ったんだなあ、ということがよくわかるエピソードだ。不動産屋のおばさんに不審そうにされてカミングアウトしたら相手が怒濤のごとく喋り出したところとか、すごいリアルな感じ。

この本の内容当時はまだ著者は20代で、若い頃に26歳以上の自分が想像できなかったから27歳になる前日に死ぬんじゃないかと思って過ごす話とか「若いなあ…」という感じ。
最後の奥付の手前にプロフィールが載っていて、1979年生まれとわかった。そしてついさっき、ウィキペディアで見たら東京大学卒とか書いてあってぶったまげた。ひえー。文中で、アルバイト先の社長に信用されたり引き止められたりするのが「意味不明」だとしてあったけど、「東京大学卒」だったらそれだけでかなりの看板になるだろうから「意味不明」じゃないよ…まあそれが正しいかどうかはさておき、そういうので信用するひとって少なくないじゃない。プラス当人の人とナリ・人柄・仕事の出来具合なんかでも総合判断されているだろうし。
ってゆーか「東大卒業者」ってだけで全然一般人じゃないよー、土台が違いすぎるんだもん。これ知ってて本書読むのと知らないで読むのと全然違うんじゃないのかなあ。

OLやりながら副業をしたり、すごく人間関係に恵まれた職場だと自覚しているけど外国に行って手術して女性の体にするために3年であっさり退職しちゃうのとか、根本的な考え方はあまり共感出来なかったが(わたしはある程度貯金できたからといってあっさり無職になれるほど心臓は強くない。っていうかこれも「東大出身」だから「いくらでも潰しがきく」という自信があらばこそなんだねと今なら納得できる)、仮住まいの加寿子荘の描写が具体的で詳しくて、あと家の周りの下町っぽい様子とかも好ましくて、楽しかった。