2015/12/09

ガセネッタ&シモネッタ

ガセネッタ&シモネッタ (文春文庫)
文藝春秋 (2012-09-20)
売り上げランキング: 5
kindle版
■米原万里
米原さんばっかり読んでいるのでそろそろ打ち止めにしようかと思っていたらkindleで12/7に「日替わりセール」で¥199円になっていたので購入。
「翻訳にまつわる、ガセネタとシモネタ(米原さんは下ネタがけっこうお好きで有名らしい)を絡めたライトなエッセイだろう」とタイトルから予想していたのだがガセネタや下ネタ……出てきたかなあという感じ。
シモネッタというニックネームを師匠から賜ったけど、より最強のイタリア語通訳者の田丸さんにその名を謹んで進呈した、というエピソードは他著でも触れられていたが、そのへんのことについて書いた単独エッセイのタイトルをそのまま書籍タイトルにしてある。
別に上品ぶるわけではないが、下ネタを1冊の本として読むほどの興味は持てなくていままでタイトルで敬遠していたきらいがあり、誤解だったのだなと思った。
気楽な感じで、言葉や翻訳にまつわるテーマのエッセイが集められているというのは予想通り。
目次から、何故かフルコースに見立てて1冊が編まれているが(シェフからのご挨拶にはじまり、デザート、コーヒー、食後酒で終わる)、料理やグルメなエッセイは一つもなかったのでなんだかなー。

本書で一番面白く、興味深く読んだのは「英文学者・柳瀬尚紀さんとの対談」だが、その中にこんな米原さんの台詞があった。
やはり資本主義社会においては、いちばん優秀な学生は会社の営業部へ配属されるんですね。ものをたくさん売る人が偉いんです。文学でも、いちばん売れる作家が偉い。それで編集者も、わかりやすく、やさしく書けっていうんですよ。そうすればたくさん売れるからです。市場原理というのはそういうものだから、これはしようがないんですね。だけど、文学というものはある意味では非市場的な要素がかなりあって、市場原理にばかりとらわれていると駄目になっちゃうと思いますけど、どうなんでしょうね。
身も蓋もないが、そういうものかもしれない。でも大衆雑誌の編集者はそれでもいいけど、純文学の編集者は売らんかな主義であってほしくないナア――とファンとしてはお願いしたい気持ち(そりゃー商売でやってんだから理想だけでは食べてけないんだけども)。

同時通訳者は駄洒落好きが多いことや、英語通訳者は母国語と英語しか知らないから視野が狭くなるという見解、言葉のシリーズ化(パターン化)など、米原さんならではの経験を生かした面白いエッセイはふんふんと頷きながら読んでしまう。まあ、1冊の中に同じネタが出てくるのはもう仕方ないのかなこのひとの場合…。
「ご苦労様です」がフリーパスの役割を果たしたのは昔の平和な時代までだろうなあと世界のあちこちでテロが起こっている今日この頃遠い目になってしまう。米原さんがご存命でいらしたら、なんとおっしゃっただろう!