2015/12/17

小林カツ代と栗原はるみ ―料理研究家とその時代―

小林カツ代と栗原はるみ―料理研究家とその時代―(新潮新書)
新潮社 (2015-11-13)
売り上げランキング: 14,192
kindle版
■阿古真理
珍しく新書を読む。2015年5月に出た本で、たしかamazonのオススメでも上がってきたことがあった気がするのだがスルーしていた。タイトルだけ見て、「小林カツ代と栗原はるみかあ…確かにタイプ違うかも。その比較…うーん…興味ないことも無いケド…」と思ったんだけどそのまま忘れてしまっていたのだ。
今回購入して読むに至ったのは「本の雑誌」1月号の年間ベストを決める座談会で取り上げられ、本書が二人の料理研究家の比較書ではないとわかったから。

実際に読んでみての結論から先にいうと、かなり面白かった!
料理に関するエッセイとか小説はとりあえず気になるここ数年の自分の読書傾向の中で平松洋子ファンになり、その肩書が「フードコーディネーター」だったり「エッセイスト」だったりして、それとは別に「料理研究家」っていう職業もあって、「料理研究家」ってなんだろうというのもあったし、そのへんの明確化されていなかった自分の興味や関心とこの本はなかなかに合っていて、じっくり読みこんだ。料理研究家について年代を追って書かれた本書は同時に近現代の女性の生き方、それをとりまく社会の変遷を追うことでもあった。
男女雇用機会均等法があったって、男女差別は良くないとされていたって、現実の社会で「まったく同じ」になることはまあ無くて、そのへんについてのあれこれもどうしても絡んでくる。骨身に沁みる。

本書はあくまでもひとりの人間が書いた本だからこれが唯一無二の「真理」であるということはないけれど、読みながら強く感じていたことは「やっぱり家庭料理は女性が主体的に行うもの」という社会認識がずーーーーーーっとあるんだなあ、ということだった。
時代によって、発言者によって、取り繕ったりしているけれど、多くのひとの本音はそこにある。

     *****

「主婦代表」とわかりやすいレッテルを貼りたがるテレビ局に対し「わたしは主婦ではなくプロの料理研究家です」と抗ったという小林カツ代の矜持。
料理研究家で関連商品の会社を作り雑誌まで発行する堂々たるプロになっても「わたしは主婦です」と云い続ける栗原はるみのしなやかさ。
どっちの気持ちもよくわかるが栗原はるみをして「主婦です」と云ったほうが「生きやすい」この世の中ってなんなんだろうなあと忸怩たる思いがしたが、続けて読んでいくとそういう意味で栗原さんは「主婦だ」と云っているわけではない、らしい。
少し長くなるが、引用する。
三十年プロをやってきて、まだプロではないと言う。この発言だけを取り上げると嫌味にも聞こえかねないが、今回栗原の資料を読み込んで気がついた。彼女は、偶像の栗原はるみが実生活から乖離しないように、自分を主婦と位置づけているのである。
 私生活をネタにするスタンスは作家的とも言えるが、私は彼女をアーティストではなくアイドルと考えるのは、その親近感による。
行間からにじみ出てくるのは、彼女の意志の強さだ。
 愛は自然な感情と思われがちだが、実は違う。始まりは自然に生まれたかもしれない。しかし、存続させるのは意志である。親子も、夫婦も、そして友人など他者との関係も、好きなだけでは続かない。相手を思いやり、こまめに自分の気持ちを伝え相手を受け入れる。その努力を互いに続けなければ崩壊する。
 多忙なこと、皆のアイドルにならなければならないことは、第一線で活躍する料理研究家なら共通する。しかし、栗原はどんなに忙しくても、家族のための時間を疎かにしない。

時代を追って、順番に代表的な料理研究家を追ってくる中で、結婚→料理研究家として成功→離婚のパターンが何人もいる、ということが書かれた後だけに、栗原はるみに関するこの部分は妙に説得力がある。タイトルになっているもう片方の小林カツ代も【倒れる数年前に離婚していた】そうだ。

     *****

また、最近の二十代の女性に「専業主婦願望」が結構多いとあちこちで目にするのだが、今のそれと昭和後期の「専業主婦」は違うんだ、ということが明確に書かれてあってなんとなく察知はしていたがモヤモヤしていたのがハッキリしたり。つまり「(家のこと、家事とか子育てとかを一手に引き受けて、夫の仕事を縁の下の力持ちとして支える良妻賢母的な)専業主婦」ではなくて「(お金に余裕があって、夫に理解があって、家のことはそれなりでいいから自分の好きなことをやれる)専業主婦」になりたいんだ、って、そりゃーそんなのが「専業主婦」なんだったらわたしだってなりたいわ! でも「専業主婦」ってそんなに楽なもんじゃないんじゃないのかなあ~。
そして昔の共働きといまのそれもだいぶ中身が違ってきているということもニュースなどを見ているからわかっていたことだけど、あらためてこうやってまとめて書かれているとなんというか…暗澹たる気持ちになるなあ。要するに不況が悪い、っていういつもの結論になるじゃないか。

     *****

「新書」という括りで出版されるこのジャンルにはあんまり慣れていないからどういう読み方・解釈をすればいいのかよくわからないが少なくとも本書を読んで「事実・実態」からかけ離れた著者の恣意的な作為が働いているとは感じられず、かなり信頼して読むことが出来た。
確実に自分の年間ベストテン入りの良書だが、今年のはもう作っちゃったので動かせず、来年のになんらかの形で入れたい。
小林カツ代の料理本は母親が愛用していたので自分もいくつか参考にさせてもらっていたけど、栗原はるみは評判はかねがね・テレビで拝見したことはある程度だった。本書を読んでかなり興味がわいたので、読んでみたい。

目次は新潮のHPからコピペ。これに目を通しただけで順を追って見ていった著者の仕事ぶりが伝わるだろう。最初にNHKドラマネタを持ってくるなど工夫されているなあ。

まえがき
プロローグ――ドラマ『ごちそうさん』と料理研究家
 料理研究家誕生/主婦の時代の到来
第一章 憧れの外国料理
(1)高度成長期の西洋料理――江上トミ、飯田深雪
 悩みのタネは「今日の料理」/大黒柱のおっかさん、江上トミ/料理は文化である/「家庭を守る味」/セレブな飯田深雪/「経済的な料理」づくりに腐心
(2)一九八〇年代のファンシーな料理――入江麻木、城戸崎愛
 ホームパーティの流行/ロシア貴族の妻/入江麻木のビーフシチュー/若い女性に人気の城戸崎愛/手づくりブームの一九八〇年代/理論派の料理研究家
(3)平成のセレブ料理研究家――有元葉子
 時代の先を行くサラダ/有元葉子のベトナム料理/カフェブームの先駆け/原点にある昔の暮らし/日常茶飯事の料理
料理再現コラム(1) 入江麻木の「なすのムサカ」
第二章 小林カツ代の革命
(1)女性作家の時短料理術
 衝撃のベストセラー『家事秘訣集』/桐島洋子の『聡明な女は料理がうまい』/『クロワッサン』の料理
(2)小林カツ代と「女性の時代」
 誰もが料理できるようにしたい/小林カツ代とフェミニズム/ハッと驚くアイデア弁当/働く女性に寄り添う/「女性の時代」到来?/食べるもつくるも大好き
(3)カツ代レシピを解読する
 代表作「肉じゃが」のつくり方/驚きの手抜き術/それはカツ代から始まった/小林カツ代のビーフシチュー/大阪人の本格派
(4)息子、ケンタロウの登場
 カツ代とケンタロウ/息子の濃い味/二代目の自由
料理再現コラム(2) 小林カツ代の「栗ご飯」
第三章 カリスマの栗原はるみ
(1)平成共働き世代
 仕事か結婚か/女性たちの自分探し/専業主婦は幸せか
(2)はるみレシピの魅力
 カリスマ主婦の誕生/『ごちそうさまが、ききたくて。』の衝撃/次々にくり出す技/母直伝の日本の味
(3)あえて名乗る「主婦」
 四千レシピの源/アイドルの使命/主婦代表の自覚/栗原はるみのプロフィール
(4)最後の主婦論争
 ハルラー世代/女性のヒエラルキー/主婦とは何か/料理するのは誰か
料理再現コラム(3) 栗原はるみの「にんじんとツナのサラダ」
第四章 和食指導の系譜
(1)昭和のおふくろの味――土井勝、土井善晴、村上昭子
 和食と台所/和食の第一人者、土井勝/おふくろの味/息子、土井善晴の料理/庶民派の村上昭子
(2)辰巳芳子の存在感――辰巳浜子、辰巳芳子
 食の思想家、辰巳芳子/食文化と環境問題/四季の恵み/「いのちを支えるスープ」/母・辰巳浜子/明治生まれの知恵
料理再現コラム(4) 土井勝の「栗と鶏肉の煮もの」
第五章 平成「男子」の料理研究家――ケンタロウ、栗原心平、コウケンテツ
 レシピ本ブームの裏で/男の料理/『男子ごはん』開始/二代目の洗練、栗原心平/コウケンテツの韓国料理/家庭料理の精神
料理再現コラム(5) ケンタロウの「焼き厚揚げのオイスターソース」
エピローグ――プロが教える料理 高山なおみ
 料理研究家とは/シェフ出身の高山なおみ/料理の原点
あとがき

著者の阿古真理(あこ・まり)さんのプロフィールも同HPから。
1968(昭和43)年兵庫県生まれ。作家・生活史研究家。神戸女学院大学卒業。食や暮らし、女性の生き方などをテーマに執筆。著書に『うちのご飯の60年 祖母・母・娘の食卓』『昭和の洋食 平成のカフェ飯 家庭料理の80年』『昭和育ちのおいしい記憶』『「和食」って何?』など。

本の雑誌391号
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