2015/10/24

我が家のヒミツ

我が家のヒミツ
我が家のヒミツ
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奥田 英朗
集英社
売り上げランキング: 771
■奥田英朗
単行本。先月刊行されたもの。家日和』『我が家の問題』に続く「家」シリーズ第3弾の短篇集
奥田さんの小説はいろんなタイプのがあるが、このシリーズは夫婦とか親子とか家族のことを扱っていて、身近で、リアルで、共感しやすく心に響き、それでいて重くなり過ぎないという絶妙のバランスを取っていて、良品揃い。ハッピーエンドというと軽すぎるけど、それぞれの話の主人公がいつも最後に自分なりの解決をする、というのも読後感が良いので嬉しい。また、そのへんを「ご都合主義」「そんなに上手くいくか」という嘘っぽさに陥らないレベルで仕上げてあるのが流石。
今回も出てすぐ買わなくて、文庫まで待とうか迷ったけどやっぱりいま読もうと思って、読んだらすんごく上手くて、目頭が熱くなったり、ニヤニヤしたり、あああ奥田さんってなんでこう、ウマいんだろうなあ~ヤラレタなあ~スゴイなあ~と尊敬の念を強くした。

これは、現代社会に生きる我々への、奥田さんからのプレゼントなのだ。現実の生活を描きつつ、そこはやっぱり「フィクション」だから著者のさじ加減でもっと救いのない展開にだって出来るところを、このシリーズは夢と希望がで胸を熱くしたっていいじゃないか、と言ってくれているような、そんな奥田さんの優しさを感じる。
エッセイではちょっと世間を斜めに見ているような、クールな第三者的視線を崩さない(?)ような、でも実は「他人を面白がらせたい」サービス精神旺盛な人柄を覗かせる奥田さんがどういうカオしてこの小説を書いておられるのかなあ……などと想像してにんまりしたり。

6篇収録。
「虫歯とピアニスト」
「正雄の秋」
「アンナの十二月」
「妊婦と隣人」
「手紙に乗せて」
「妻と選挙」

「妻と選挙」ではシリーズ第1弾、第2弾にも登場しているN木賞作家・大塚康夫の家が今回も登場。タイトル通り、奥さんがなんと市議会議員選挙に立候補すると言い出すんだからビックリした。そしてこの話の着地点はちょっと意外だった。この話の前半の、本が売れない出版不況のくだりはまあそうだろうとは思っていたけどこういうふうに描き出されると暗澹としちゃうなあ。奥田さんは本書を含めて売れっ子作家だからこんなことはないんでしょーがそれでも昔に比べたら、っていうのはあるんだろう。

「虫歯とピアニスト」は子どもが授からない夫婦の話、まだ30歳そこそこなんだけど、逆にそれくらいだから親とか姑とかが諦めてくれない。夫婦のことよりも、そういう周囲のことや社会体制とか不妊治療が一般的になっているとか、そういうことの変化がもたらす影響などへの言及が印象に残った。
「正雄の秋」は出世の話、わたしよりもう一世代上のひとの会社付き合いの感じがまさにこんな感じかなあ……というのを通夜絡みのところで特に感じた。
「アンナの十二月」は高校生の女の子が主人公ならではの展開だなと思った。こんなしっかりした良い友達がふたりもいるのがどれだけ貴重なことか、彼女はわかっているのかなあ。
「妊婦と隣人」この話の前半はともかく中盤からちょっとよくわからなくて終盤の展開には正直ウーン…。夫の反応の方が、リアルなんだけどねえ。
「手紙に乗せて」年代・世代の差は経験の差、特に苦労や悲しいことの経験の差だという話で、若者の主人公への対応の仕方とか、ああそうかも、客観的に全体をこうやって見ると批判的な目を向けちゃうけど渦中にいたらこんなものかも、としみじみ考えさせられた。