2015/10/13

ミラノの太陽、シチリアの月

ミラノの太陽、シチリアの月 (小学館文庫 う 13-1)
内田 洋子
小学館 (2015-10-06)
売り上げランキング: 9,189
■内田洋子
これは電子書籍化されていない。2012年刊の単行本がつい2日前に小学館文庫化したので書店で買い求めた。
読みはじめてすぐ、「ああ、やっぱり内田洋子さんて凄い!」って興奮して心の中で何度も叫んでしまった。なんていうの、このバイタリティ。度胸が据わってるというか、対人スキル、トラブル対応力が半端無いって感じ。さらりとして読みやすく的確な文章も大好きだし。
特に「鉄道員オズワルド」は読み終えて「これ、小説じゃないの? 本当に内田さんこんなドラマチックな人生に立ち会ったの」と後ろの解説とかを確認してしまうくらいエッセイという枠ではとても想像できない深みと重みがあった。このページ数でこの内容、ジュンパ・ラヒリの短篇を読んだときに似たようなことを感じて驚愕・感動したことを思い出した。

この方はジャーナリストなんだけど、取材の仕方が濃い。対象の人間関係の中にするりと入りこんでいく。住んでいる場所がしょっちゅう変わっているのにはもう慣れた。何故なら内田さんはまずそこで生活して、町に溶け込んで、近所づきあい、人付き合いの中からいろんなものを吸収してよーく吟味してそのうえで極上のエッセイにして見せてくれる天才だからだ。
本書に収録されているのは以下10篇。短く感想、レビュー。

ミラノで買った箱
「箱」というのはなんと「住まい」。取材のために異国で家を買っちゃう、そこもびっくりしたけどそこからいきなり全面改装とかその流れのあまりの速さに目を白黒させていたら案の定トラブルが、どーするんだろうとこっちが勝手に心配してたらいやー、まー、このひと凄い肝が据わってるなあ!

ディアーナが守りたかったもの
ミラノから1時間ほどの農地の中にぽつんとある荘園領主の館。そこに住むディアーナの若いころの恋と別れ、そして得たたったひとりの息子。なんていうか……うまくいかないんだなあ、でも彼女は失ったものもあるけれど、得たものもたくさんあるはず。あわれだとかそういう同情を許さない何か強い意志を感じる。

鉄道員オズワルド
北イタリアのリグリア州にある海辺の地味な町、そこにあるほとんど電車が止まらない各駅停車の駅。その駅舎に住む親子と娘。この娘が大学で北斎を学んでいることから日本人の内田さんに声がかかったのだが…。

六階の足音
ミラノの南部にある運河の近くの低層の住宅に住んでいるときの、それぞれの階の住人との交流、特に上の6階の老婦人の話。この近所にある「昔ながらの洋品店」の女店主の話(その秘密のノートが凄い)。いまはこういう人間関係都会では無いよなあ…。良いなあと思う一方で自分では無理だなあと思う。

ロシア皇女とバレエダンサー
イタリア人の習慣と真逆に、「冬に海」でバカンスを過ごすことにした著者。フランスとの国境に近い海沿いの寒村のホテルに滞在した。そこの支配人の母親はロシア皇族の末裔だと云う…。なんでこういうひととするっと馴染めちゃうのか、人柄かなあ。

ブルーノが見た夢
これはちょっと後味が悪いというか、珍しく人の悪意というとなんか違うな、えーと「狡さ」が書かれた話。海岸線に沿って延びている国道1号線(アウレリア街道)の、たどり着くのがなかなか難しい場所にその家はあった。「海と空しかないところで暮らしてみたい」と願った著者が紹介されたその家は急な坂の上(つまり山腹の中)にあったが…。

鏡の中のナポリ
若い知り合いの女性からの電話で始まる。彼女が小学校の低学年のときから知っているということでその独特の家(家族と近所関係)の話。「荘厳なナポリの建物」での生活描写が印象的。そしてそこで生まれた小さな恋の物語。文字通り「家の中で育った」お姫様のような女の子と、貧しい男の子が年頃になって惹かれあう…美しすぎて、儚すぎて、――現実的な心配は野暮だよなあ。

祝宴は田舎で
遠方の友人が90歳になる父親の親孝行のために一緒に旅をする、その途中でミラノに寄るとなった。その話を犬の散歩のときに知り合った友人に話したところ話がどんどん膨らんで…。それにしてもイタリア政府は無茶な交通規制をいきなりするんだなあ、これも「どどどどーすんの!?」とこちらが狼狽していたらあれよあれよといろんなひとが知恵を出し合って結局結果は素晴らしいものとなった。普段の行いがモノをいうなあ。

海の狼
標準語がすぐに出てこないことや吃音気味なこともあり寡黙な「一匹狼」な海の男の半生。なんでこんな難しそうなひとの身の上話を聞き出せちゃうのかなあー。なにかがひとをそうさせるんだろうなあ。

シチリアの月と花嫁
シチリアのごく小さな閉鎖的な村での知り合いの結婚にまつわる話とその結婚式の話。内田さんの本を読んでいるとわかるけど、同じイタリアでも北と南じゃ住んでるひとの性質とか生活の仕方、考え方、なにもかもが違う。でも若いふたりが出会って愛しあって結婚する、なんだろうこの幸福さ、美しさは。月並みな話のようなのに、やっぱり1つ1つが特別で、とてもきれい。

解説:田丸公美子