2015/09/17

カリコリせんとや生まれけむ

カリコリせんとや生まれけむ
幻冬舎 (2013-01-25)
売り上げランキング: 392
kindle版
■会田誠
このひとの肩書を正しくはなんというのか、kindleの月替わりセールにあって、内容紹介にはこうあった。

村上隆、奈良美智と並ぶ天才美術家、会田誠。物議ばかりを醸してきた彼の頭の中身はどうなっている? カリコリっていったい何? アートの最前線から、制作の現場、子育て、2ちゃんねる、中国、マルクス、料理などをテーマに、作品同様の社会通念に対する強烈なアンチテーゼが万華鏡のように語られ、まさに読み始めたら止まらない面白さ!!

で、興味をもってサンプルを読んでみたら(最初の「カレー事件」「北京メモランダム」の2つがそれにあたる)、「カレー事件」でめちゃくちゃ個人的な家族のディープな内容を書いてあったので「わかる、そのぐちゃぐちゃさ加減は家族ならではだ」「一生懸命作ったカレーがちょっとしたいざこざから阿鼻叫喚の状態になって虚しく冷めていくそういうのを書いちゃうってすごいな」とびっくりして是非他も読みたいと思い、購入した。

結論から云えば最初のエッセイが一番インパクトが強くてこれを越えるものは無かったんだけど、ふだん接しない「気難しい芸術家」そのものの印象を受ける内容で、なかなかに毒があり、アクも強く、そして理屈抜きにぐいぐい惹きつけられるどこか悪趣味な露悪的な空気にハマりそうになった。この感じは何かに似ている。そうだ、2ちゃんねるの中でも批判的な意見の割合が多いスレッドの記事を夜何気なく読みはじめてやめられなくなるのとか、一時的に中毒のように読んでいたY小町に。
もちろんこのかたの場合は正々堂々と名前を明かして書かれている、その時点でもう根本的に違う、ことは百も承知なのだが。
あと、文章も完璧だしね。掲示板の有象無象と一緒にするなんて失礼千万なんだけどでも「似てる」と思ったのはなんでだろう……。

「自分をよく見せようとしていない」文章を書くひとだなあ、というのが率直な感想だった。事なかれ主義の逆。「こう書いたらマイナスの評価が出るのでは」とブレーキをかけていないような印象を受ける。ご本人は「言い訳が多い」なんて「ある近作についてのもにゃもにゃしたコメント」で書かれているが…。
と、書きながら考えていたのだが、わたしの考える「誤解を恐れる部分」とこの著者のそれがまったくズレている、その可能性も無いではないな、とは思った。

読みはじめてから「このひとは絵を描くひとのようだが、どんな作品があるのだろうか」とネットで調べたら見たことがある作品(生でではないが)がいくつかあり、「ああ、この絵の作者だったのか!」というか「この絵とあの絵が同じひとの作品だったのか!」と驚かされた。
たぶん初めて見た会田誠の作品は「あぜ道」で、最も最近見たのは梅田の蔦屋書店にあった『天才でごめんなさい』の表紙だ(印象が強かったので買ったわけでもないのに覚えている)。

ちょっとググっただけで「ああ、なるほどお堅い美術評論家や上品なマダムとかが顔を顰めそうな…」という作風なのは察した。エッセイはどうかというと、「お堅い」ひとや「上品な」方々には同じ評価を受けそうな気もする。サラリーマンには絶対ならないタイプ。身近にいたら理解が難しくて恐いひとかもしれない。でも中島みゆきが好きだったり、料理(料理は実験だという考え方は共感)が好きだったり、学生と一緒に作品を作ったりするのを読むと(そんなに恐がらなくてもいいのかな・・・)とも思う。
いちばんびっくりしたのは絵の仕事が忙しいからと奥さん(このひとも芸術家・岡田裕子というひとだそう)がエッセイを書いている回が2回あることだ。「ふふふ、ダマされたな、あれも俺が書いたんだよ」という展開は小説家のエッセイならあるだろうが会田誠に限っては本当に奥さんが書いていると確信をもって言える。

初出は幻冬舎のPR誌「星星峡」。わかるわかる、新潮や岩波では出ないよねこういうのは。
好きでもないし、共感もしないし、小さな反発は何度か感じたが、新鮮で面白かった。


孤独な惑星―会田誠作品集
会田 誠
DANぼ
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