2015/08/25

ハッピー・チョイス

ハッピー・チョイス (集英社文庫)
集英社 (2013-06-20)
売り上げランキング: 35,673
■中島たい子
本書初出は「すばる」2009年10月号で同年集英社から『結婚小説』として単行本出版され、後に文庫化する際に『ハッピー・チョイス』に改題されたものの電子書籍版である。

この話の主人公・貴世は39歳独身の小説家。結婚したことがないのに編集者から「結婚ブームだから結婚をテーマにしたものを書け」と依頼され、四苦八苦している。
そもそも結婚ってしたいんですか?と訊かれたときに「そりゃ、したくなくは、ないよ」と答えるあたりがこの主人公の性格や考え方をうまく表現しているなと思う。「結婚したい!」と強く願うわけでもなく(だから積極的な婚活・見合いや合コンはしていない)、かといって「結婚したくない」というのでもない。
貴世の友達の1人はそれまで自分で会社作るほどのバリキャリだったのに最近ごくふつうの勤め人と結婚してそれと同時に専業主婦になってしまった(出来ちゃった婚ではない)。当然、収入がガタッと減ったわけだが結婚生活を楽しんでいる。
もう1人の友達は独身。このひとがなかなかの辛口(というか既婚者に対するやっかみがひどい)。

わたしは会社勤めをしていて、そうすると会社にいる女性というのは結婚しても子どもが出来ても働き続けている女性か、独身かのどちらかである。あたりまえだが結婚して仕事をやめるひととは会社では会わなくなる。
だからこの小説の主人公たちが当然のように「結婚=仕事をやめて家庭に入る」と考えているらしいのに違和感があった。あのー、結婚しても仕事って続けてるひといっぱいいますけど。続けたいのか、続けざるを得ないのかはさておき。っていうか昨今の男性は「結婚して自分だけが稼ぐのはしんどいから共働きが良い」と考えているひとの割合が多い、ってネット記事なんかでもちょくちょく見かけますけど。
なんでこのひとたち結婚したら自分の時間が無くなるとか友人と飲みに行けなくなるとか言ってるんだろう。そんなことは選ぶ相手次第なのに。

「どういう人生を歩んでいきたいか」の設計図が40歳手前になっても全然できてない。「結婚してどうしたいか」も無く、既婚者が夫の意見に染まっていくのを揶揄している。そんな既婚者ばかりじゃないんだけどなあ。

貴世はある男性と出会って今まで長らく恋人もいなかったということが信じられないくらいあっさり付き合うことになり、そして当然「結婚」について具体的に考え出す。読んでいて「そんなに理屈ばっかりひとりで捏ね回してないでもうちょっと自分の感情に素直になったらいいのになあ」と思ったりした。でも同時にこういうふうにいろいろ考えてしまうのわかる。わたしも結婚遅かったので。たぶん、20代で結婚する人種との根本的な差はこういうところにあるんじゃないかな。
昔、30半ばの既婚男性が「結婚なんていきおいでするもんだ」と雑談で言っているのを聞いて、そのときは「いきおいだけだと失敗するんじゃ」と思ったけど年を重ねて振り返ってみればまさに「冷静に理性的に損得勘定とかで考えていたら結婚なんて出来ないな」と思う。

この小説の主人公は最後の最後である結論を出すが、それはそれで良いのだが、その発表の仕方がどうしようもなく社会人として人間としてなっていなくて、全然ダメだった。結婚についての重大な問題を相手抜きで一人で決めて一人でいきなり公にしてしまうのである。
同じことを相手にやられたらこの貴世はどうすんの?
相手の気持ちとか…、そもそもその家族や友人たちをあまりに馬鹿にしていないか。
呆れてしまった。まあそもそもこの小説の恋愛は男性側の気持ちが意味不明でなんでこんなにスムーズに行くのかもよくわからず、ずっと気持ち悪かったのですんなりまとまっても首を傾げたままだったとは思うが。恋愛小説でもあると思うんだけど、流れが唐突で気持ちが入り込めなかったのだ。

この小説で面白かったのは30代というかもう40歳手前になっての独身女性たちの本音っぽいやりとりと(もちろん彼女たちイコール現実のすべてではないことはきっちりアナウンスしておきたい。もっと多種多様なひとがいてそれぞれの事情・考え方・生き方があるのだ)、貴世の異常なくらい明るい(?)個性的なご両親だった。特に後者は東村アキコ女史の漫画か!というくらい面白かった。「ひまわりっ!」を1巻だけ読んだことがあるけど連想させるハイテンションおとうさんがすごい。

著者の中島さんは1969年8月生まれなので、この作品を書かれたとき主人公とほぼ同じ年だったわけだが、結婚されてるのかなあ。既婚者でこれを書いてたらすごいなあと思うけど独身じゃなきゃ書かない話なようには思う。
こういうテーマだけど中島たい子だからこそ「カラッ」「サラッ」と書いてくれてあり、コメディを読むような気持ちで気軽に読めた。これがこの著者の魅力のひとつだと思う。いろいろ書いたけど中島さんの作品、好きだ。

この話に登場する女性たちは「結婚」に一方的な付加価値(プラスもマイナスも)を付け過ぎだ。その割に「家」の問題を軽く見過ぎだ。ひとりでするんじゃないんだよ結婚って。
「フレーム」がどうのこうの、って出てきたけどそもそも独身で生きてても社会で暮らしている以上フレームの中で生きてるわけで、あえてそのフレームから出て生きようと思うとしんどさが伴う。それはそのフレームの種類と強度によって異なるんだけど。例えば「学校に通う」というフレームがあるよね、でも中学高校は行かずに別の方法で勉強して大検を取る、という生きかただってある、って具合に。
「結婚」はたしかにフレームであり、そこに入ることで「安定」はある。それをイコール「幸せ」と解釈するひともそうでないひともいる。
最初のタイトルが『結婚小説』でそれを『ハッピー・チョイス』に変えたというのがなるほどなあとは思うがそれにつけてもあのチョイスはふたりでじっくり話し合って決めるべきだったね貴世。

結婚小説
結婚小説
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中島 たい子
集英社
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