2015/07/17

太陽のパスタ、豆のスープ

太陽のパスタ、豆のスープ (集英社文庫)
集英社 (2013-09-10)
売り上げランキング: 14,491
kindle版
■宮下奈都
美味しそうなタイトルにつられて読んでみた。あと、著者が『スコーレ№4』のひとだからそうオオコケはあるまいという判断も手伝って。

主人公、「あすわ(明日羽)」は冒頭で婚約破棄をされる。結婚直前で、周囲にも知らせて、家やなんかも見に行った後で婚約者から「やっぱり合わないんじゃないかな」なんて言われてフラれてしまうのだ。これは相当きつい。立ち直るのはかなりしんどいと思う。

まあしかしこの小説は失恋とか恋愛とか相手の男性に対する感情を描いた小説ではなく、大きく転んだあとに主人公がいかにして立ち上がり、回復し、前進していくか、を主題としているらしい。最初にグワーンと大きなショックを与えた後は他にとりたてて負の出来事は起こらないし、周囲に出てくるのは性格の良い親切なフレンドリーなひとたちばかりだ。

世の中こんなに優しくないんじゃないのかなーとか思わないでもなかったが、まあ、これは傷ついたひとにエールを贈るための、元気を出してもらうための話なんだから開き直って素直に読んだ方がいいのだろうと考えなおした。

あすわには「明日羽」という漢字があるのだが、主人公がその字をあまり好きでないからなのか、全篇「あすわ」と平仮名表記である。これが結構読んでいて引っかかりやすく、どうしても「あすは」のほうが目にする機会が多いから「こんにちわ、きょうわ」的文章を読まされているような不安定な印象を持ってしまったんだが少数派かな。自分の名前が「あすなろ」というのもあるかもしれない。

あすわの年齢ははっきりとは書いていないが作中で「もう2,3年で30歳」だとか「勤めて8年目」とかあるので27,8歳。ぜんぜん大丈夫だ、若いもん。 でも逆に言えばその年で結婚することによって仕事も自立も放棄して「やさしい夫」に全力で寄り掛かろうとしていたっていうのがあすわ自身、だんだん回復していく中で冷静に見つめ直して疑問に思えてくるわけで。うーんなるほどなあ、そういう話を書きたかったのか。

あすわには10歳くらい年上の叔母さん・ロッカさん(母親の妹・六花)が近くに住んでいて、あすわが一人暮らしを始める場所を探してくれたり、毎日訪れてきてあすわが作った夕食を一緒に食べたりする。
こういう親戚がいてくれるっていうのはすんごくうらやましい。
失恋して、親元離れて、そしたらふつうはいきなり毎日一人のご飯になる、それって結構孤独感とか湧いちゃう可能性があると思うんだけどロッカさんがいてくれるのだあすわには。

お母さんもお父さんもお兄ちゃんもあすわを大事にしつつ自立を妨げない距離間を保つという今時珍しい素晴らしい家族だし、会社には可愛くて朗らかな同僚がいるし、先輩も嫌味言うどころかねぎらってくれるし、上司は「しばらく休んだらどうだ」とか言ってくれるし、おまけにあすわに一目惚れする男性まで出てくる。
そして終盤にはあすわは責任あるやりがいのある仕事をまかされ、会社のみんなから信頼信用されていることを実感して仕事に充実感と意義を見出すことも出来るようになる…。

――そりゃ婚約破棄はつらいけど、その後の順風満帆ぶりが凄すぎて、絵空事・ドリームだなあという醒めた視点をまったく持たずに読むことが難しかったよ。まあ、あすわは良い子だから応援するけどね。主人公だからしあわせになってくれたほうがこっちも楽しいし清々しいからね。

タイトルから、お料理がたくさん出てくる話かと予想したほどではなかったものの、豆のスープとか豆の料理とか煮込み系のが多くて美味しそうだった。豆料理はほとんど作らないのだがこの小説を読んだら断然豆を買いに行って、鍋で水をたっぷり吸わせて、じっくりことこと煮たくなった。
太陽のパスタというのはなんと失敗作、というか料理下手なロッカさんの作なのだった。でもトマトのパスタは王道だからきちんと作れば美味しいはずだ。

美人のエステティシャンや、女装している男性美容師である(おかまっていうことなのかな)の幼馴染みの京など個性的な脇役の存在も面白かった。彼らが主役の物語があったらそれは是非読んでみたい。スピンオフで短篇集とか。ロッカさん、ソムリエを目指すフリーターのお兄ちゃん、豆の郁ちゃんなども加えて。
ああ、妄想してるうちにどんどん読みたくなってきた~。