2015/06/09

漢方小説

漢方小説 集英社文庫
漢方小説 集英社文庫
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集英社 (2014-11-07)
売り上げランキング: 33,191
kindle版
■中島たい子
この小説は「漢方小説」第28回すばる文学賞受賞作であり、2005年第132回芥川龍之介賞候補作でもある。
芥川賞候補作だから、『文学賞メッタ斬り!』シリーズでこの作品についても書評を読んだことがあった、ような気がする。単行本の表紙イラストと文庫本のそれは同じイラストレーターさん(南伸坊だった!)の手によるもののようだが微妙に違っていて、わたしの印象に強く残っていたのは文庫版のほうだった。ちなみに電子書籍版だと表紙のイラストは無い。カナシイ。
「漢方」とか表紙の雰囲気とか好きだしわりと興味を持っていたようなのだが何故だか読まずにずっと来てしまい、先日、何気なくkindleストア内をウロチョロしていてこれに再会し「あっ! そういえばこれ今こそ読みたい!」と買ったのだった。

川波みのり(31歳、脚本家、独身)は季節外れの牡蠣を食べたことがきっかけで胃がおかしくなり、処方された胃薬を飲んだところ体中が痙攣して彼女曰く「セルフ・ロデオマシーン」のようになってしまい救急車で病院に搬送される羽目となった。ところが医者が検査してもどこも悪いところはないと云う。
病院をいくつも回り、調べてもらうが医者はみな首をひねる。しかし現に体調が悪いのだ。胃が食べ物を受け付けないのだ。
心療内科を受診すべきだろうかと考えつつもみのりは昔お世話になった漢方の医者の門をくぐる。西洋医学がダメでも漢方ならもしかして、というわけだ。
しかしそもそもみのりが季節外れの牡蠣を食べたのは元彼と久しぶりに会ったときで、そのとき元彼が結婚すると知らされてショックを受けたときで――。
でも「昔の男が結婚したショックで体を壊しただなんて、ぜぇーったい、死んでも思いたくないっ!」んだそうで。
……イヤ読んでたらだいたいのひとは「それが原因に決まってるじゃない…」って思うと思うんデスケド。

「漢方小説」だけどそんなに漢方医療について小難しく書いてあるわけでもなくて、31歳の女性が興味を持って自力で調べる程度で身近な感覚で書かれていてわかりやすい。また、漢方の医者が若くて格好よくて乙女心をドキドキさせる、っていう設定がなかなか興味を持って読ませてくれる要素となっている。どっぷりした恋愛ものは苦手だけれど、こういうほんのりとした恋心は良いな。「漢方」についてはしばらく前にテレビでお医者さんが解説しているバラエティー番組をたまたま観たんだけど、なんだかとっても奥深くて面白い世界だな~と感心した。この小説は正直その番組より専門性が落ちる。それは本作品が「漢方」について書いた小説じゃなくて、あくまで主体は「三十路になったけれど、仕事もプライベートも自分でもよくわからない状態になっておまけに健康まで損なってしまった」ちょっと元気のない主人公の女性にあるからだ。その彼女がどういうふうにして「元気」に戻っていくかが書いてある。

  『じゃ、私はいったいどうしたいの?』
  私ぐらいの歳の女がよくする自問だそうだ。自分はどうしたいのか? あらためて問われると、答えるのは難しい。

同世代の女友達や飲み仲間との会話ややりとりが等身大な感じで、みのりの内面描写などもほどほどにリアルな感じで、すごく読みやすいすーっと読める楽しい小説で、展開も気になってどんどん読んじゃった。面白かった。よく考えたらこういうテーマなのに全然重たくないんだよな。深刻さがあまり感じられないというか、主人公があっさりしてるからかな。書き方の問題なんだろうか。芥川賞候補にしてはちょっと軽すぎるような気もするけど…。純文学っていうよりは大衆小説っぽいかな?