2015/05/09

だれがコマドリを殺したのか?

だれがコマドリを殺したのか? (創元推理文庫)
東京創元社 (2015-03-23)
売り上げランキング: 346
kindle版
■イーデン・フィルポッツ 翻訳:武藤崇恵
本書は1924年に発表された"Who Killed Cock Robin?"の新訳で、旧訳は1960年に小山内徹訳『誰が駒鳥を殺したか?』。
原書はハリントン・ヘクスト名義での刊だったようだが、日本ではフィルポッツの名前で出たようだ。日本ではフィルポッツといえば『赤毛のレドメイン家』の作者で、かの江戸川乱歩が絶賛したことで有名だからだろう。現にわたしもレドメイン家を読んだことはないんだけどそのエピソードやアラスジ・何故有名なのかは承知してしまっている。というわけでレドメイン家は今更読む気がしないのだが、こちらについては予備知識も無いことだし、マザーグースにちなんだタイトルも気になるので読んでみた。

冒頭から面白く読んだがしばらくして「あれ、ずっとこういう書き方なんだ」とちょっとびっくりした。なんていうか、第三者的というか説明的というか「ずっと概要を読んでいる気分」にしかなれなかったのだ。登場人物に共感したり、入り込めない。
クリスティと同時代のひとだと思うがクリスティがこの話を書いたらもっと面白かったんじゃないかなとか思ってしまった。(後でウィキペディアを見たら同時代どころか【ハイティーン時代のアガサ・クリスティの隣家に住んでおり、当時創作を始めたばかりのクリスティの小説を読み適確な助言をしたことが、クリスティの自伝に記されている。】なんだってね!凄い!年齢は28歳差あるので、お隣のおじさん、ってことか。)

若い美男美女の恋愛の話でしかし端からその「危うさ、はかなさ」を強調して書かれているのでミステリだし、どこかで破綻するんだろうな、タイトルが「コマドリを殺したのか」で、主な登場人物に愛称が「コマドリ」である女性が出てくるので「そのままやんけ!」と内心ツッコみ、「なーんだ、マザーグースは関係ないんだ」とちょっとがっかりしつつもこのひとが殺されるんだろうなということは想像しつつ読んでいったのだがなかなか殺人事件に至らないので「そうかフィルポッツってそういう作家なのかな」と思った。ミステリーを書くけど普通小説っぽいの書くってひといるでしょう。読了後、戸川安宣さん(!!)による解説に目を通したらその憶測はそう遠くなかったようだ。【日本で、戦前からこれほどの人気を得ていた割に、紹介される作品数が少なかったのは、あまりに膨大な著作の中で、どれがミステリ作品であるのか、見当がつけにくかったことが原因だろう。本国では、田園小説家のイメージが強かったこともあってか、フィルポッツのミステリについて、言及されることはきわめて少なかった。】とあるのが非常に興味深い。

フィルポッツが「田園小説家」だと知ってなんだか妙に納得したのもある。だからこういう書き方なんだね。
ミステリとしてはどうかというと、なんせ登場人物が少ないし、その中で犯行可能なのってごく限られてくるから「これで意外な結末になるとしたらものすごいことが起こらないと無理だけど、どうなんだろう」てなことも考えつつ読んだけど、まあ、ミステリをある程度読みなれている読者には定石どおりなんじゃないか。細かい点で気になるところがないではないし傑作だとはとても言えないが、古典好きには安心してゆったり楽しめる作品だと思う。