2015/04/26

脳天壊了  吉田知子選集Ⅰ

脳天壊了―吉田知子選集〈1〉
吉田 知子
景文館書店
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■吉田知子
景文館書店。初めて買ったかもしれない。
装丁がすごく格好良くて、本のあちこちを探したけれども装丁者や写真についての記載は見つけられなかった。だから要するに「景文館書店」が装丁、ということなんだろう。真っ黒の中に青白く光るライト、じっと見つめていると缶詰の底に見えてくる。

吉田知子の作品は『戦後短篇小説再発見10 表現の冒険』というアンソロジーに収録されていた「お供え」が独特の色を放っていて気になっていた作家さんではあったが、文庫に収録されていないこともあり、いままでまとめて読むことがなかった。

本書には7篇の短篇が収められている。また、最後に町田康による『「脳天壊了」への四題』という出題がなされている。

「脳天壊了」★★
本書のタイトルにもなっている。これに「のうてんふぁいら」とルビが振られている。「ふぁいら」っていうのが分からなくて最初吉田さんの造語?的なものかと思ったが検索してみたら「脳天壊了」というのは日中戦争勃発後に現地の日本陸軍将兵の間で使用された中国語口語からの借用語の一種で、いまでも年配の方などには俗語として残っているらしい。「兵隊シナ語」というらしい。へええ、初めて知った…。
小説は、杢平という男の視点で書かれているんだけど、なんていうか読んでいると山下澄人を読んでいるような感覚になって、うーんなるほど脳天壊了ね……という納得の仕方をした。理解しようとして読んでいくのだけれど現実なのか主人公の妄想なのか狂っているのか正常なのかそこが混ざり合ってぐるんぐるんとなる。読了後町田康の出題を見て考えようとしたがとても一読二読では無理だと悟った。

「ニュージーランド」★★
この視点は「私」。中年の女性らしい。舞台は船の中。「私」はこの船の行先はニュージーランドだと思っている。自宅の裏に川があり、そこに毎日来る女「タマ子」との話でもある。この話はわりと感覚的に飲み込みやすかったが最後ちょっときょとんとしてしまった。「ニュージーランド」って何だろう。

「乞食谷」★★★
視点「私」。「蟹トク子」という名前だそうで、最初蟹の話からはじまるのだけど要するに苗字に対するうらみつらみなのだった。事務員をしながら細々と暮らしているまだ若い女性のようだ。貧しくて、コンプレックスの固まりで、いろいろ鬱屈している。住んでいる近くに「谷」があってそこにある日現れた貧しい人々…。

「寓話」★★★★
「桑木石道」という書家の話。視点は別にある。中島敦『名人伝』を連想した。道を究めすぎてなんだかどんどん概念的な世界になっていくのとか、面白かった。

「東堂のこと」★★★★
「東堂」という雅号を持つ男の一生。書の落款に用いるそうで、でも書家ではなく元軍人のようだ。書の話ではなくて、彼の壮年以降の人生をメインに書いてある。戦争と、その後のごたごたした時代。頑固というか変人と云うか、面白かった。

「お供え」★★★★
この話はアンソロジーで既に2回読んであるので飛ばそうかとも思ったけど読みはじめたら面白くて読んでしまう。夫を先に見送ってひとりで住んでいる「私」の話、あるとき家の両角に花が置かれるようになりそれは毎日続くようになり……。
最後のこの展開は、ものすごく怖いんだけど、大丈夫なんだろうかと毎回思う。

「常寒山」★★★
「私」視点。夫の明夫に対する不満の話かと思ったらそうでは無く、その登山仲間の男たちの中の一平という人物に対する疑惑と嫌悪なのだった。どうやら「私」はこの一平をゲイではないか、そしてエイズではないかと恐れているんだなということが読んでいるとだんだんわかってくる。最後突き飛ばしたところはびっくり。そして血が、傷が触れ合う……。もちろんエイズ云々を書いた話では無くて、この主人公の精神構造を書くことがメイン。それにしても更年期障害ってこんなに苦しまなくちゃいけないの? しんどそうだなあ、まあこれも月経痛と同じで個人差があるんだろうけど。