2015/01/26

なぜ、エヴァンズに頼まなかったのか?

kindle版
■アガサ・クリスティ 翻訳:田村隆一
本書は1934年に刊行された"Why Didn't They Ask Evans"のハヤカワ文庫版である。
翻訳田村先生が嬉しい。
ちなみに新潮文庫版では『謎のエヴァンズ殺人事件』というタイトル(絶版)。
ノン・シリーズで、名探偵や警察が話の主筋に絡まない。

主人公がゴルフをしていて、崖から落ちて瀕死状態の若い男性を発見、今際の際の言葉は「なぜ、エヴァンズに頼まなかったのか」だった。彼のポケットに入っていた写真から姉が名乗り出て被害者の身元が判明し、周囲に柵などが無かったことや状況から事故死として片付けられたが、その後、発見者である主人公は大量のモルヒネを飲まされ殺されかける……。

事件にどんどんいつのまにか飲み込まれていく感じの展開で、「どうして警察に届けないの」と途中で思わないでもなかったが、最後まで読んで、納得。…この話、ポアロやミス・マープル、バトル警視、あるいはきちんとした警察組織がちゃんとセオリー通りの調査をしたらすんなり事件解決してしまうので、それじゃ面白くなかっただろう。

「なぜエヴァンズに頼まなかったのか」という題名なのにいつまでたってもエヴァンズが出て来ないし、探しもしないし、読者的に推理することもほぼ不可能。
そもそもの被害者の正体の謎や、その他のもっと身近に危険な謎や疑惑の人物がいるので、そちらを優先して当然の流れが出来ているのだ。

犯人当てなどの本格ミステリというよりもサスペンス、冒険もの、スリラーかな。
怪しい人物のいる家に滞在できるように仕組んで調査したり、聞き込んだりしつつ馴染になっていろいろ見えてくる、という流れ。
それにしてもこの時代の車を運転する若いお金持ちの女性というのはどの話を読んでもスピード狂だね。テンプレなのか、実際そうだったのかしらんけど、まあ牧歌的な時代の「小説」だもんなあ。

どういうことだろう・どうなるんだろうとハラハラドキドキがずっと続いて面白かった。ただ、最後まで読んで「なるほどなあ」とは感心したし実行犯は捕まってるから良いんだろうけど、いろいろ重要な役割を果たした芯から悪人っぽい犯人の片割れはまんまと外国に逃げおおせて最後は手紙なんぞ送ってきている……こんな小賢しいの放置で大丈夫なのかと心配。なんかちょっとスッキリしない後味だったなあ。