2015/01/20

葬儀を終えて 【何度目かの再読】

葬儀を終えて
葬儀を終えて
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早川書房 (2012-08-01)
売り上げランキング: 11,709
kindle版
■アガサ・クリスティ 翻訳:加島祥三
本書は1953年に刊行された"After the Funeral"の翻訳で、名探偵エルキュール・ポアロ・シリーズ第25作目にあたる。
葬儀の日に「だって、リチャードは殺されたんでしょう?」
と発言したコーラが、翌日斧で殺されているのが見つかった……。

この話はそのドラマティックな幕開けから意外な真相解明に至るまでとても面白く、ポアロものの中でも好きな話のベスト5に入る。アマゾンで「さわり」を読んでも犯人など思い出さなかったので(アクロイドとかオリエント急行とかABCはあまりにも衝撃的で素晴らしすぎたので犯人や大まかな筋も忘れられないのでさすがに再読する気になれない)、今回久しぶりに読み直したのだが、コーラが殺されてしばらくあたりのところまで読んだら犯人とそのトリックをぼんやり思い出してしまった。が、ハッキリとは確信が持てなかったし、読み続けると「あれ?やっぱり記憶違いかな?」なんて気もしてきて、終盤まで自信が持てない始末だった。いやぁ、「わかっていても騙される」というか……巧いよなあやっぱり。

そもそも、ミステリーとしても面白いんだけどそれ以外の要素(人間模様、心の動きの描写)も読みごたえがあって、だからクリスティは何度も読めるんだよね。
今回も忠実な老執事のモノローグから始まって、彼が家族のひとについて考えたりする、それで舞台説明や登場人物紹介にもなっているわけだけれど、ここで既にちゃんとクリスティの気配りが隅々まで行き届いていたことが犯人判明後気付かされて唸らされるしね。
登場人物は少なくないけれどもそれぞれが個性的できちんと書き込まれているのが本当にお見事。よく理解できるひともいるけど、何考えているのかわからないひともいて、読みながら疑心暗鬼になるのを高めてくれるわけだ。ミステリーを読むときはドキドキするね。
今回はぼんやり犯人を覚えていたからその人物に関する描写には特に注意をはらって読んだわけだけれども他にもあやしいのが複数いて、信用できない。

この作品に出てくるポアロさんはもう引退している身で、登場人物のほとんどから「誰それ?」ってな扱いを受けている。これは彼の自尊心を傷付けたろうなあ。「この国の教育が悪い」ってポアロさんはおっしゃってる。この台詞はいつの時代も云われるんだね。
ポアロさんが事件に乗り出す前にこの家の弁護士がいろいろ独自に調べるんだけどその部分もなかなかどうして素晴らしい。
ちょっとどうにかならなかったのかなと思うのは最後に被害に遭うひとについて、ポアロさん、その段階だったら危険人物はほぼ把握出来ていたわけで、なにか対策打てなかったものかと……。

あと、最後の最後に出てきたあるひとの打ち明け話は余韻、深みを与えるという解釈もできるけどちょっとトートツなような気もした。クリスティとしては書きたかったメッセージなんだろうなあと興味深くは思う。

それにしても登場人物の男性陣のロクデナシ度が高いこと!

この話は昔ながらの大きな屋敷が舞台になっていて家具や装飾品の描写も効果的で、脳内で想像しながら楽しんだけれども、映像で観たらさぞ美しい、愉しい作品だろうなあ。

※細かいこと、翻訳文で。本書は加島祥三訳。『ナイルに死す』で「(飲み物を)すすった」と書いていて気になった翻訳者だ。本書でも「ポアロはシロップをすすりながら」の表記がある。しかし後の方で「チビリチビリ飲みながら」の表記もある。ちなみに飲み物は同じ「シロップ」である。これ、原書ではどうなってるんだろうなあ……。